ぜん息患者の医療費救済 早期実現をめざして

川崎公害弁護団 事務局長  篠原義仁

  
1 川崎市の南北に伸びる地形的特性とそれに対応する幹線道路網の存在からして、自動車排ガスによる汚染は、川崎市南部の臨海部に止まらず、その汚染は全市に及び、近年では「緑の多い地域 」 (但し、近時の乱開発はすさまじい)といわれた北部地域に南部と同様、もしくはそれ以上の被害(ぜん息患者)が発生している。
 こうした実態を前にして川崎では川崎公害病患者と家族の会、川崎公害根絶・市民連絡会、川崎公害裁判弁護団を中心に「ぜん息救済連」(柴田徳衛会長)を起ちあげ、全市全年齢対象のぜん息患者に係る医療費救済に関するたたかいを推し進めている。
 この間、8万弱の署名の積み上げ、川崎市交渉(市長、局長、部長以下交渉)の展開、医師会要請(会長、副会長と2度にわたり面談)、市議会対策(政党ごとに担当者を決め、継続的要請。民主、公明、共産、神奈川ネットについては団長面接も実現)、議会請願と委員会傍聴、議会(本会議)開催中の週1宣伝行動、川崎駅頭宣伝、「ぜん息救済連」主催のシンポジウムの開催、マスコミ対策等々この1年半の間、さまざまな取り組みが展開された。その結果、昨年11月から12月にかけての市議会の委員会や本会議で前進的答弁を引き出すに至った。
 すなわち、医療費救済の必要性とそのための条例制定は、川崎市はもとより市議会各会派の共通の認識となり、課題は、いつから、どのような内容で実現するかという点に移行しつつある。若干の揺り戻しを警戒しつつも、私たち関係諸団体は質の高い制度の早期実現をめざして奮斗している。

 
2 具体的には、川崎市は、昨年12月、「成人呼吸器疾患医療費助成要綱検討委員会」(会長川崎市医師会長)にその検討を依頼し、ここを基礎に医師会委員4名に加え、新たに大学病院関係の呼吸器専門医2名を補充して6人構成で検討会が構成された(審議の公正を保つため、川崎市職員2名(医師)は検討会メンバーからはずれ事務局として関与)。
 私たちは、4月9日に「ぜん息連」総会を開催し、従来の方針である検討会の早期結論、それをうけての、6月市議会、もしくは9月市議会での補正予算を組んでの年度途中の制度化(「 頭出し」要求)を求めることを再確認した(10月30日が川崎市長選の投票日)。
 他方、前記検討会の審議は、私たちの希望と比べるとやや遅いテンポで進行し、伝えられるところによると4月及び5月の期日に審議を行ない、5月末に川崎市に最終報告を行なう手順となっている。
 一方、この間、川崎市と継続的な交渉を行なっているが、川崎市の基本姿勢は「頭出し」制定には未だ同意しておらず、平成18年4月実施に固執している。また、川崎市や市議会各会派の動向として、ぜん息患者への医療費救済の条例化には同意しつつも、ぜん息患者以外の他の難病疾患との「バランス論」や川崎市以外の地方自治体の動向を「勘案」して、医療費救済はするものの一部自己負担導入の動きも現れ始めている。
 早期に、内容の高い救済制度を実現させるたたかいは、今がヤマ場となっている。

  
3 私たちは、ひきつづき議会対策を重視し、各会派毎の責任体制を確立し、継続的要請行動をくり返している。同時に、川崎市当局との交渉も重視して進めている。
 とりわけ、6月市議会で主要な会派( 共産党は従前から全面支持、支援。昨年12月議会の本会議では公明党が救済を視野に入れて代表質問。民主党はいったん代表質問に入れることを約束したが先送り )による、より強力な制定要求を骨子とする代表質問が必須と考えられ、その議会対策を強めている。
 また、従前進めてきた個人署名(10万目標)の超過達成と合わせ、再々度市議会で委員会審議させるための工夫として6月議会に向けて同趣旨の団体署名を提出する取り組みを展開している(全国の関係団体に協力要請中)。
 同時に、被害者運動の母体となる患者会組織についていうと、2月5日に「川崎北部のぜん息患者と家族の会」(竹内勝事務局長)の発足準備の事務所開設を行ない、3月13日には、川崎北部の大気汚染実況の把握と自動車排出ガス測定局の設置要求を結合させて、「川崎北部の大気汚染探検隊」による調査活動も行なわれた。
 その上で、6月市議会をにらんでこの時期に照準を当てて、川崎北部の患者会の正式発足が予定され、その間、「北部の患者掘り起こし運動」として団地作戦、民商・建設等の組合員作戦、医療生協(民医連)と連携しての共同作戦が提起、実践されている。また、本来の患者会組織「川崎公害病患者と家族の会」の活性化作戦も進行し、両者の活動の展開のなかで停滞化傾向にあった患者会の組織拡大も徐々にではあるが改善し、その実勢は増加の傾向に転じるところとなっている。

  
4 大気汚染公害全体に目を転じると、本年2月に京都議定書は発効し、地球温暖化防止に向けての取り組みが、「待ったなし」の状況に至った。日本のCO2 削減も国際的義務となり、政府に、大企業等に、その実行を強く求めることが重要となっている。
 大気汚染裁判の課題でも、勝利判決・和解を基礎として、西淀川、川崎、倉敷、尼崎、名古屋で「環境再生とまちづくり」の運動が展開され、本年は尼崎のたたかいを頂点として、大きな第1歩を踏み出すことが期待されている。
 東京大気裁判の年内結審、早期勝利の課題はきわめて重要で、その勝利を基礎に被害者の全面救済、補償法の再確立を図ることは焦眉の課題となっており、全国の力でそれを実現させることがとりわけ必要となっている。
 その取り組みの第1歩、序盤戦の闘いとして、大気汚染が改善されていないなかで増加を続けるぜん息患者等の被害者に、まず地方自治体として医療費救済の措置(条例制定)をとらせることはきわめて重要となっている。
 大阪市等で後退現象が生まれている今、全国的な視点でいえば全国患者会として心をひとつにして被害者救済の要求を斗いの基本にすえ、その実践をはかっていくことは被害者団体としての基本的責務であり、その方針の確立が強く求められているように思われる。
 こうした全国的課題の追求のなかで、川崎としては自らの責任で果しうる課題として、ぜん息患者の医療費救済の制度要求につき、1日も早く、できるだけ内容のいいものの実現をめざして、着実にその取り組みを進めている。