圏央道裏高尾判決と今後のたたかい

弁護士 松尾文彦

松尾文彦弁護士  「都民のオアシス」である高尾山と隣接する国史跡八王子城跡を圏央道トンネル工事から守ることを目指す圏央道工事事業認定取消訴訟及び収用裁決取消訴訟(高尾山の守り神である天狗にちなんで、東京地裁八王子支部に提訴した工事差止め訴訟とともに「天狗裁判」と呼んでいます。)に対する東京地方裁判所民事第38部の判決が5月31日に言い渡されました。原告の訴えを全面的に退ける不当判決でした。

行政の主張を鵜呑みにした不当判決

 自然の価値を顧みず
   高尾山は海抜600m足らずの低い山ですが、植物種は約1300種にも及びます。イギリス全土の植物種の数である約1400種に匹敵する豊富な種です。昆虫の種類も5、6千種に達し、野鳥や哺乳類も多くの種類が生息しており、まさしく高尾山は世界自然遺産に推薦される価値のある山です。年間250万人もの人々が高尾山を訪れるのは、こうした自然にやすらぎを求めてのことです。  しかし、判決は、こうした高尾山の自然の価値については何ら触れませんでした。その上、(1)大気汚染も騒音も環境基準を下回る、(2)地下水に与える影響もトンネル工事によると認めるに足りる証拠がないか、あっても原告が危惧するような影響を及ぼすおそれは低いなどと一方的に断定しました。

   事業の公益性などを一方的に断定
   また、判決は、都区部の交通混雑緩和や首都圏全体の交通の円滑化などという国・道路公団の主張をそのまま受け容れて、圏央道事業の公共性・公益性を認定しました。
 さらに、判決は、環境アセスメントをはじめとする事業認定の手続きの誤りを指摘した原告らの主張を一方的に斥け、手続きに違法はないと断定しました。

 国側書面の誤記すら丸写しに
 これらは、いずれも国・道路公団の主張を無批判に受け容れたものですが、判決書の中には、被告準備書面の表現をそのまま流用したと思われる箇所が頻出し、中には、被告準備書面の誤記をもそのまま鵜呑みにして原判決の判断としてしまって部分さえあります。  こうした判決は、名実ともに国・道路公団の主張べったりのものであり、行政に対するチェックという司法に課せられた使命を投げ捨てた不当な判断です。

たたかいはここから

 高尾山トンネル事業認定はこれから
 このように不当な東京地裁判決でしたが、重要なことは、今回の判決の対象となった事業認定は、八王子市裏高尾地区にジャンクションを建設する事業であり、本体である高尾山にトンネルを掘るための事業認定と土地収用はこれからだということです。
 国土交通省は、7月22日に八王子市内で土地収用法にし、高尾山トンネル工事のための事業認定に向けた一歩を踏み出しました。今回の判決を" 追い風"に高尾山のトンネル工事を進めようという意図が露わです。
 しかし、高尾山の自然を守ろうという世論もまた広がりを見せています。

 高尾山守れの著名人アピール
 判決に先立つ4月には、高尾山緊急アピール「立ち止まって考え直そう」が、秋山ちえ子(評論家)、池辺晋一郎(作曲家)、井上ひさし(作家)、色川大吉(歴史家)、梅原猛(哲学者)、永六輔(放送作家)、木下順二(劇作家)、串田孫一(哲学者・詩人)、椎名誠(作家)、辰濃和男(ジャーナリスト)、原剛(環境ジャーナリストの会元会長)、増田れい子(ジャーナリスト)、山本コウタロー(フォークシンガー)の各氏の呼びかけによって発表され(4月26日付朝日、同月28日付毎日、読売各紙に意見広告掲載)、各界の賛同が広がっています。

 マスコミの判決批判
 今回の判決に対してのマスコミ各紙の論調も、「『環境より利便性』に怒り」(朝日)、「行政の主張を追認、未来へ顔向けできない」(毎日)、「『行政追認』原告ら批判、国の主張丸のみ」(東京)、「行政追随で無責任」(産経)、「騒音・大気汚染"我慢せよ"、行政チェックの機能放棄」(赤旗)と批判的なものでした。

 直ちに控訴
 原告らは、今回の判決に怒りを新たにして直ちに控訴、7月24日には「高尾山にトンネルを掘らせない集会と天狗のパレード」を成功させ、7月27日には170頁余に及ぶ控訴理由書を提出しました(東京高等裁判所第14民事部係属)。
 広がりつつある世論を力に、原告団と弁護団は事業認定・収用裁決取消訴訟控訴審と東京地裁八王子支部で進行中の差止め訴訟(8月29日と10月3日に原告本人尋問)、さらに高尾山トンネル工事の事業認定・土地収用に対するたたかいをすすめます。