全ての水俣病被害者の救済をめざして

水俣病不知火患者会 事務局長 瀧本 忠

 昨年10月15日に水俣病関西訴訟の最高裁判決がでました。判決はチッソと共に国・熊本県が水俣病の拡大の防止対策を怠ったとしての行政責任を断罪しました。また、公害健康被害補償法による行政認定患者とは別に裁判では水俣病とされる者がいることになりました。この判決をうけ、熊本・鹿児島両県では水俣病の認定申請が相次ぎ、その数は既に2700人を超えています。

 こうした情勢のなかで私達の周囲でも健康に不安を抱く人達から、認定申請や検診を要望する声が出てきました。平成7年の政府解決策を受け入れた患者団体は新たに認定申請等を行えないことから、患者さんの要求をかなえる為には新たな患者団体を組織する必要がありました。そこで私たちは周囲の支援を受け「水俣病不知火患者会」を2月20日に結成しました。そして民医連・水俣協立病院を中心に九州各県の民医連、熊本県民会議医師団、水俣地域の人達のボランティアによる支援を受け3月6日以降、日曜日に集団掘り起こし検診を行っています。また、周辺自治体で検診を呼びかける相談会を開いたり、水俣市内においては全戸にビラを配布するなどして掘り起こし検診へ繋ぎ現在、会員は1000名を越えました。

 「今、何故水俣病なのか。平成7年の政府解決策を受け入れたことで終わったのでは」と言う声が現地でも聞かれます。患者さんの話と検診を進めるなかで判ったことは、「子供の結婚問題など水俣病をめぐる周囲の差別が怖く名乗り出れなかった」「水俣病の症状を知らなかった」「認定申請ができることを知らなかった」また、「認定申請の方法を知らなかった。」などの理由が存在していたことです。最高裁判決が声を上げやすい状況を生み出したのです。平成7年の政府解決策では1万2千人が救済されましたが、新たに認定申請する人の存在は、メチル水銀中毒による被害のすそ野の広さと共に被害の根深さを物語っています。

 私達は会結成後すぐに、環境省・熊本県・鹿児島県に・熊本県の認定審査会の体制整備と判決の趣旨を踏まえて現行制度での幅広い被害者の早期救済・95年の政府解決策に伴う総合医療対策事業に相当する解決策の策定と療養手当と1時金の支給・不知火海沿岸地域の環境調査と住民の健康調査を求める要求書を提出しました。3月22、23日には被害者6団体と共に環境省交渉及び議員要請行動を行いました。一方環境省は4月7日に「今後の水俣病問題について」を発表。その内容は「医療費をベースとした保健手帳の拡充」を中心としたものでした。これは国・県の責任が確定したあとに出したものとは思えないものであり、被害者の要求とはかけ離れたものでした。患者会は「95年の政府解決策で救済された患者と現在認定申請している患者は症状的にはなんら変わらず、この救済策は差別だ。」として強く批判しました。

 また過去の経験を踏まえ、他の患者団体との連携を模索し、4月11日には申請者3団体連名による小池環境大臣との面談の実施を求める要望書を提出し、5月1日には水俣病犠牲者慰霊式に参加した大臣と水俣市において3団体で面談することができました。しかし、小池環境大臣の解答はこれまでの環境省の答えの繰り返しでした。

 6月8、9、10日には全国公害被害者総行動に参加。環境省交渉や小池大臣に対し被害の訴えを直接行いました。交渉の中で環境省は「現在、認定申請している患者については新保健手帳の再開で対応する。まずは実施して状況を見たうえで今後の対応については判断していく。」とし、これまでの態度を崩しませんでした。6月11日には来水した市田忠義書記局長をはじめとする日本共産党調査団に、水俣病問題の早期解決を訴えました。6月23日には、国・熊本県・チッソに対し「現在の制度は実質的に破綻しており、新たに抜本的な救済制度を加害者が共同でつくることを求める」要求書を提出し、鹿児島県に対しては、この要求を側面から支援するよう求める要望書を提出しました。

 環境省は認定審査会の再開をめざし、前審査委員を対象に再任の説得に動いていますが、審査委員はおろか検診医も確保できない状況です。一方で認定申請者を新保健手帳に誘導すべく、6月下旬には各自治体において議員・行政事務担当者・自治会長等を対象にした新対策の説明会を行いました。患者会は全ての説明会に参加し、環境省の言動を監視するとともに質問をするなどして患者会の要求と存在をアピールしました。

 患者会は設立以降、環境省と交渉を重ねてきましたが、環境省の態度は変わることなく「行政の力では保健手帳の再開が限度、今は政治が動いていない」として被害者の切なる要求である「95年政府解決策と同じ補償(一時金と療養手当)」の実施は困難と断言しました。世話人会はこれらの状況を検討し、被害の実態に見合った補償がなされないのであれば、司法の場に判断を委ねるしか道はないと判断しました。患者会は6月以降、各地域で集会を開き、経過報告とともに現状を突破するには司法に訴えるしかないと説明し理解を求めるとともに、裁判への加入を訴えました。現在800名を越える会員が裁判の申し込みをしています。8月28日に「水俣病現地調査・決起集会」を計画し幅広く多くの団体に呼びかけ解決への気運を盛り上げようと考えています。

 水俣病不知火患者会は全ての被害者の救済をめざし、裁判をはじめ運動を強化し、多くの皆様の支持をいただきながら闘っていく方針です。