日韓交流シンポ

よみがえれ!有明海訴訟弁護団
弁護士 後藤富和

 近藤忠孝先生を団長に、50名を超える、公害弁連・環境法律家連盟の弁護士、研究者、支援者、原告らで、8月25日〜28日、韓国を訪問しました。
 韓国では、現在、広大な干潟を干拓して農地にする公共事業「セマングム干拓事業」が進められています。この干拓事業は、わが国の有明海における国営諫早湾干拓事業をモデルにしており、必要性もないのに農地を造成し、漁業環境を奪うもので、両者とも、内外から圧倒的な批判の声が沸きあがっています。
 初日は清渓川(チョンゲチョン)の視察。
 ソウル市内の中心を流れる清渓川は、1960年代からの経済開発計画の1環として覆蓋され、その上に高速道路が建設されました。しかし、1990年代、清渓川は、汚染の深刻化でソウル市民の健康を脅かすようになりました。そこで、ソウル特別市は、同市を人間中心の環境都市として再生させるために、清渓川上の高速道路、コンクリート製の蓋を撤去し、自然な河川を復元させるプロジェクトに取り組みました。今回は、復元を目前にした清渓川を視察しました。
 その夜は、土俗村で参鶏湯(サムゲタン)に大汗をかきながら舌鼓を打ちました。

 2日目は、ソウル市内国家人権委員会教育場で、「東アジア、環境訴訟の交流と連帯」と題したシンポジウムを行いました。
 韓国の国会議員(諸淙吉氏)らの挨拶の後、日本側からは近藤団長が挨拶に立たれ、シンポはスタートしました。
 午前中は、公害弁連の村松昭夫先生とグリーンコリアの禹敬善弁護士の共同司会で、まず、韓国側から「市民団体から見たアメリカの環境法の実体」の報告、続いて、日本側からは「日本の公害被害者」と題して、今年の公害総行動デーの日比谷公会堂の集会で上映したビデオを上映しました。水俣病やイタイイタイ病に始まり、最近の大気、高速道路、公共事業をめぐる戦いに、韓国の参加者も身を乗り出すようにして見入っていました。
 午後は、「道路河川問題」「廃棄物政策」をテーマに討論が繰り広げられました。
 日本側からは、小田周治先生がダム問題について、馬奈木昭雄先生が廃棄物問題について報告をされました。「私たちは負けない」「勝つまでたたかい続ける」という日本側の弁護士の提言は会場を圧倒し、その力の原動力、ノウハウをつかもうと韓国側の弁護士から活発な質問がなされました。
 その夜は、会場をソウル市内の焼肉店に移し、大懇親会が催されました。その中でも、今日報告に立った日本側の弁護士は鋭い質問攻めにあっていました。

 3日目にはセマングム(新萬金)の現地視察と現地漁民との交流を持ちました。
 まず、潮受け堤防の付け根の部分から海上を眺めたのですが、全長30キロというとてつもない長さの潮受け堤防(諫早湾は約7キロ)の向こう側は肉眼ではとても見える状況ではありません。
 また、高台に上って、干拓現場を俯瞰しても、その全貌を見ることは不可能です。その規模の巨大さに日本側からの視察団は圧倒されるとともに、こんな環境破壊が許されるはずがないとの思いをよりいっそう強くしました。
 夕方から、現地の漁民たちと交流を持ちました。有明海からも長崎県島原市の漁民吉田訓啓氏が参加しました。彼が、現地の漁民の前で有明海の再生にかける熱い思いをぶつけると、現地の漁民たちは感激し戦う決意をより強固なものにしたようです。漁民同士、海を舞台に生活している共通の思いから、言葉は通じなくとも心と心が通い合っていたようです。また、弁護団同士も、次世代のために自然環境を残したいとの共通の思いから、心が通じ合いました。
 そして、海を隔てた有明海とセマングム、日本と韓国で、ともに戦う決意を新たにし、セマングムを後にしました。