高尾山トンネル工事ストップへ
― 事業認定差止め訴訟を提訴 ―

弁護士 松尾文彦

 東京都の西端八王子市にある高尾山は、標高599メートルの小さな山ですが、イギリス一国に匹敵する約1300種の植物相がみられ、牧野富太郎ら著名な植物学者のフィールドとされてきました。また、京都の貴船、大阪の箕面とともに、日本の昆虫の三大生息地の一つといわれ、多様な生物が暮らしています。このような自然とのふれあいを求め、高尾山を訪れる人々は年間260万人といわれます。
 自然の宝庫であり都民のオアシスである高尾山を圏央道トンネル工事による環境破壊から守ろうと、さる11月1日、高尾山トンネル工事等の事業認定の差止めを求める訴訟を東京地方裁判所に提訴しました。係属部は民事第3部です。

高尾山をめぐる勝負はこれから
  圏央道トンネル工事は、現在、高尾山の隣にある國史跡八王子城跡を先進導坑(トンネルの直径の約2分の1の穴)が貫くところまではきていますが、これはトンネルそのものの完成ではありません。
 高尾山トンネル工事は現在手つかずの状態です。
 しかし、今、国土交通省などは、2005年7月22日に八王子市内で高尾山トンネル工事の事業認定のための説明会を開き、9月28日には事業認定を申請しました。
 さらに11月17、19、20の3日間で公聴会を開催し、いよいよ高尾山に手をつけようとしています。
 八王子城跡トンネル工事では、止水工法によって水涸れの心配はないなどという国土交通省などの説明とは裏腹に、約30メートルの水位低下が明らかになっています。
 高尾山は、地層が垂直に近い角度で切り立ち、トンネル工事によって水脈が切られれば、八王子城跡に比べ、より水涸れが起こりやすい特徴があります。トンネル工事により、いっそう深刻な水脈破壊と環境破壊が引き起こされることが懸念されます。

不当判決に負けず不屈に
  国土交通省などが、この間、高尾山トンネル工事着工の動きを強めているのは、2005年5月、八王子城跡トンネル工事と八王子ジャンクション建設に関する事業認定取消訴訟で、東京地方裁判所民事第38部が住民敗訴の不当判決を 言い渡したことを追い風に、一挙に、高尾山トンネル工事を進めようとする狙いです。
 しかし、住民たちはこの不当判決に対しては直ちに控訴、12月13日に第1回口頭弁論が行われ、反撃のとりくみが始まっています。(係属部は東京高等裁判所第14民事部)
 今回の事業認定差止訴訟提訴にあたっても、その性格上緊急かつ限られた時間の中での準備となったにもかかわらず、265人の自然人と七つの自然保護団体の合計272の原告が名乗りをあげました。

改正行訴法を活用した新たなたたかい
 これまで事業認定の動きに対しては、事業認定告示があってはじめて事業認定取消訴訟を提訴することができるという手続きとなっていました。
 しかし、この間の行政事件訴訟法改正(2005年4月1日施行)により、事業認定の蓋然性があり、それにより重大な損害が生ずるおそれがある場合に、事業認定の差止めを求める訴訟を提起できることになりました。そして、これらの要件が認められ、かつ事業認定がその根拠となる法令に照らしてなされるべきでないといえる場合には、差止めが認められることになります。
 今回の提訴は、この改正行訴法を活用した新たな試みです。
 そして、事業認定申請がなされた以上は、事業認定がなされる蓋然性があり、トンネル工事が行われれば、動植物の生存の源である水脈が破壊され、また、騒音・大気汚染・景観破壊など、重大な損害が生じます。
 こうした損害は、道路とトンネル建設による利便性で代替できるものではなく、圏央道トンネル工事は、事業認定の根拠となる土地収用法20条が規定する公益性などの要件を満たしません。  高尾山トンネル工事事業認定は差し止められるべきです。