あきる野控訴審判決について

圏央道あきる野弁護団
弁護士 木村真実

1 圏央道あきる野事件
 圏央道あきる野事件については、既に何度かご報告させていただいているが、機会をいただいたので、控訴審判決と上告・上告受理申立について改めてご報告させていただく。
 圏央道は都心から40〜60kmの地域をつなぐ全長300kmの環状道路(総事業費3兆円)として計画されているものである。計画から20年経過したが、あきる野をはじめ各地で反対の声が上がっていることもあり、未だ約1割の開通にとどまっている。
 圏央道あきる野事件は、このうち東京都あきる野市牛沼地区の地権者らが、2000年になされた事業認定の取消、2002年に出された東京都収用委員会の収用裁決の取消を求めて提訴したものである。
2 第1審判決の意義
 2002年10月には、本案が継続している民事第3部で執行停止決定が出ていたが(12月逆転取消決定→3月最高裁で確定)、2003年4月22日に示された事業認定取消事件・収用裁決取消事件(本案)についての東京地裁民事第3部(藤山裁判長)の判決はまさに画期的なものであった。
  すなわち、土地収用法20条の解釈として「瑕疵ある道路建設目的の場合には事業認定してはならない」という黙示的前提要件を示し、あきる野の場合、受忍限度を超える騒音、接地逆転層発生の影響、SPMの影響等を考えるとこの黙示的前提要件をクリアできないとした。さらに、同法20条3号(事業計画が土地の適正且つ合理的な利用に寄与するものであること)を解釈し、都心部の渋滞緩和や411号・16号の渋滞緩和は総じて具体的裏付けに欠けること、特に都心の渋滞緩和は圏央道なしで十分であり圏央道を作るとかえって解決が遅れること、代替案の検討もなく1.9kmに2つのインターをつくる必要性はないこと等を述べ、アセスの不十分性、騒音や大気汚染の被害を重視して20条3号の要件を満たさないとした。そして、事業認定の違法性が重大かつ明白でなくても収容裁決に違法性を承継するとした。
3 控訴審の不当判決
 原告団・弁護団は、この1審判決を守るべく控訴審に臨み、2004年9月2日、11月9日、2005年1月25日、4月14日と審理を重ね、6月28日結審を迎えた。控訴審の審理において国側はこれといった主張・立証活動をしなかったのに対し、原告らは、騒音に関し高速道路の走行速度の自主検証のビデオを提出したり、近接地に2ヶ所のインターがある他の場所を実地調査してあきる野との違いを明らかにしたり、行政裁量について専門家の意見書を提出する等さらなる補充主張・立証を行った。しかしながら、東京高裁第24部民事(大喜多裁判長)は、2006年2月23日、逆転敗訴の判決を下した。
 この判決は、黙示的前提要件を否定したのみならず、20条3号についても、国側の主張を鵜呑みにした形で都心部や地域の渋滞緩和効果を認める1方で、騒音や大気汚染については(20年近く前に行われた)アセスでは環境基準を下回っているから我慢しろというものであり、「現場のいま」を見なかったからこそ書けた判決と言わざるを得ない。
4 上告審、そしてこれから
 あきる野原告団、弁護団はこのような控訴審判決には到底承服できなかったので、2006年3月7日、上告申立及び上告受理申立を行い、5月11日、上告理由書及び上告受理申立理由書の提出を行った。上告理由書には、財産権侵害(29条1項、3項)、居住の自由侵害(憲法22条1項)、人格権・環境権(13条、25条)等を盛り込んだ。
 今後は最高裁への要請行動などを続けるとともに、高尾の天狗裁判などで勝利し、圏央道を止めるためにともにたたかっていく所存である。
06.05.19