高尾山天狗裁判
――事業認定取消訴訟を提訴――

事務局次長
弁護士 松尾文彦

 年間260万人の人々が訪れる都民のオアシス高尾山の豊かな自然を圏央道トンネル工事による破壊から守ることを目指す住民たちは、本年5月15日に、東京地方裁判所に高尾山トンネル工事等に関する事業認定取消を提訴しました。

 事業認定告示を受けて急遽の提訴
 圏央道トンネル工事は、現在、高尾山の隣にある国史跡八王子城跡を先進導坑(トンネルの本来の直径の約2分の1の穴)が貫くところまできていますが、高尾山本体には工事の手は及んでいませんでした。
 ところが、国土交通省などは、2005年7月22日に八王子市内で高尾山トンネル工事の事業認定のための説明会を開き、9月28日には事業認定を申請。11月17、19、20の3日間で公聴会を開催して、本年4月21日には国土交通大臣が事業認定を告示し、いよいよ高尾山に手をつけようとしているのです。
 住民たちは、昨年9月の事業認定申請を受けて、昨年11月には、改正された行政事件訴訟法を活用した試みとして、高尾山トンネル工事に関する事業認定差止訴訟を東京地方裁判所に提訴し(係属は民事第3部)、本年5月19日にこの第1回期日(弁護団・原告団の意見陳述等)が予定されていましたが、この日を目前に事業認定告示がなされました。
 当初、弁護団は、請求の趣旨を「取消」に変更する予定でしたが、裁判所から取消訴訟を提訴するようにとの見解が示され、急遽、今回の提訴となったものです。
 5月19日時点では、取消訴訟の訴状副本が被告に未送達だったため、同期日は従前の差止訴訟の第1回期日として行われ、弁護団・原告団は、圏央道トンネル工事には起業者がいう渋滞緩和等の効果が期待できず公益性に欠けること、その1方で、大気汚染・騒音・地下水脈破壊による水涸れ、これによる動植物への悪影響など失われる利益が大きいこと、したがってトンネル工事は即刻中止されるべきであるとの意見を陳述しました。今回提訴した取消訴訟は、被告への送達を受けて、従前の差止訴訟と併合審理される予定です。
 しかし、今回は差止訴訟の第1回期日前に事業認定告示がされましたが、差止訴訟の審理が相当程度進行した段階でも、事業認定告示がなされたら新訴提起が必要だとして原告が仕切り直しを余儀なくされるとすることは、不合理な結果を生じさせかねません。行政事件訴訟法改正によって、新たに事業認定差止訴訟が認められた意義は大きく減殺されるでしょう。また、差止訴訟から取消訴訟への変更が請求の趣旨変更の要件を満たさないも考えられません。
 これらのことから、弁護団としては、これら2つの訴訟の手続き上の処理については、引き続き解決すべき課題が残っていると認識しています。

トンネル工事の弊害は明らか
 高尾山にトンネル工事の弊害は、すでに工事がすすめられている国史跡八王子城跡の状況を見れば明らかです。
 八王子城跡では、止水工法によって水涸れの心配はないなどという国土交通省などの説明とは裏腹に、トンネル工事によって地下水位が35メートル低下し、戦国時代から涸れたことがないといわれる山頂の「坎井(かんせい)の井戸」や「御主殿(ごしゅでん)の滝」の水涸れが起こっています。
 さる5月17日には、民事差止訴訟(東京地方裁判所八王子支部民事第2部係属)の事実上の現場検証(現場での進行協議)が行われましたが、このときも、前日と前々日に雨が降ったにも関わらず、御主殿の滝には一滴の水も落ちていない状況でした。
 高尾山は、地層が垂直に近い角度で切り立ち、トンネル工事によって水脈が切られれば、八王子城跡に比べ、より水涸れが起こりやすい特徴があります。そして、高尾山には、修験者の道場でもあり、また、市民にも開放された水行の場である琵琶滝がありますが、高尾山トンネルはこのほぼ直下を通る計画です。
 こうしたことから、高尾山トンネル工事により、いっそう深刻な水脈破壊と環境破壊が引き起こされることが懸念されます。
 高尾山は、標高599メートルの小さな山ですが、イギリス一国に匹敵する約1300種の植物相がみられ、また、日本の昆虫の3大生息地の1つといわれます。
 この豊かで貴重な自然を守るため、引き続きご支援をお願いします。