「アスベスト被害の救済に向けた交流シンポジウム―国の責任を問う―」
と現地調査の報告

弁護士 村松昭夫
(大阪じん肺アスベスト弁護団)

1、去る9月22日(金)大阪市中之島公会堂において、公害弁連、全国じん肺弁連、大阪じん肺アスベスト弁護団などの共催による「アスベスト被害の救済に向けた交流シンポジウム」が、およそ100名の参加を得て行われました。このシンポジウムは、大阪・泉南地域のアスベスト被害と国家賠償訴訟の報告と共に、アスベスト被害の救済に向けた全国的な取り組みを交流し、裁判や運動の到達点を確認、共有するとともに、早期に全国的な闘いを巻き起こすことを目的に行われました。また、この間、公害根絶を目指して活動してきた公害弁連とじん肺根絶を目指して活動してきた全国じん肺弁連が、公害という側面と労災という側面を併せ持つアスベスト問題を契機に初めてシンポジウムを共催したことは、アスベスト被害の救済と根絶に向けて重要な第一歩ともなるものです。シンポジウムでは、全国各地の弁護士のほか、大学教授、大学生、一般市民など幅広い層の参加者から、さまざまな報告が行われました。

2、シンポジウムは、近藤忠孝弁護士による開会のあいさつの後、大阪じん肺アスベスト弁護団の芦田如子弁護士から、アスベスト国賠の第1回弁論で使用したパワーポイントを使って泉南地域のアスベスト被害とその歴史が紹介され、引き続き村松から、泉南地域のアスベスト被害と国賠訴訟について報告しました。その中では、特に、泉南地域の被害の掘り起こしの難しさとともにその必要性を指摘し、国の責任問題では、70年も前に国自身によって行われた詳細な被害実態調査を紹介して、国はアスベスト被害を知っており、対策を取ることができたにもかかわらず、アスベストの経済的有用性を優先して、十分な対策を取ってこなかったことを指摘し、「国は『知っていた』『できた』『やらなかった』」ことを強調しました。

3、次に、山下登司夫弁護士(全国じん肺弁連)から「じん肺国賠訴訟の到達点とアスベスト訴訟」についての報告がありました。山下弁護士からは、その著書「じん肺裁判小史」を引用しつつ、国の責任を追及する闘いの歴史とその成果が力強く述べられました。続いて、板井優弁護士(水俣病訴訟弁護団)から「被害者の掘り起こしの経験について―水俣病の経験から―」と題し、パワーポイントを使って、水俣病救済の現状と国の対応の問題点、被害の掘り起こしの経験とその重要性がわかりやすく説明されました。

4、休憩を挟んだ後半では、全国の取り組みの報告・交流(兵庫クボタ問題、高松エタニットパイプ訴訟、大阪民医連、建築関係、石川島播磨重工業の石綿労災、大阪じん肺アスベスト弁護団アメリカ調査報告、文書での名古屋アスベスト弁護団の報告など)が行われ、被害者の掘り起こし、国やゼネコン、大企業に対する責任追及の必要性が確認され、最後に、芝原明夫大阪じん肺アスベスト弁護団団長の閉会のあいさつをもって、盛況の中シンポジウムは終了いたしました。

5、シンポジウムでは、全国各地のさまざまな訴訟や取り組みが報告され、全国からの弁護士の参加も多く、大変充実したものとなりました。また、学生や一般の方々の参加も多く、アスベスト被害の啓発活動として有意義なシンポジウムともなりました。泉南地域のアスベスト国賠は、10月12日には原告8名による第2次提訴が行われ、11月29日には第2回弁論期日が予定されており、いよいよ本格的な論戦がスタートします。アスベスト被害の全面的な救済と根絶に向けて、全国でも多様な闘いが求められています。

6、翌23日には、泉南地域の石綿工場跡地を巡る現地調査と国賠原告との交流会が行われました。前日のシンポジウム参加者を中心に、大学教授、大学生、一般市民の方など約30名が参加しました。
 午前中の現地調査(バスツアー)では、原告の方たちが働いていた石綿工場跡地を、市民の会の方が案内しました。石綿工場のすぐ隣で農作業をしていた様子、元石綿工場の建物や排気口(ダクト)の状況、いわゆる「石綿村」と呼ばれる狭い地域に石綿工場が集まっていた場所など6カ所を見学しました。道すがら、今はもう跡形もなくなっている工場跡地を指して、「ここにも、ここにも、石綿工場があったんです」という説明を聞くにつけ、「泉南地域が一つの大きな石綿工場であった」という事実が、決して誇張ではないと実感できました。
 午後には、参加者と国賠訴訟の原告さんとの交流会を行いました。アスベスト製品の現物(織布やロープなど)を前に、その製造過程や当時の工場内の様子(真っ白なアスベスト粉じんのため前が見えないほどなのに、マスクも着けずに作業をしていた様子など)のほか、原告の身近な親戚や知人の方に肺病で亡くなった方が多いことなど話題に上りました。
 初めて石綿工場跡地を巡った方々にとっても、泉南地域の石綿被害の状況や問題点がより理解できたのではないかと思います。