〔3〕 普天間爆音訴訟ついに提訴
弁護士 加藤 裕


 2002年10月29日,沖縄県宜野湾市の住民200名が原告 となって,米軍普天間飛行場の爆音差止と損害賠償を求める訴訟を 那覇地方裁判所沖縄支部に提訴した。沖縄県内では嘉手納基地爆音 訴訟の長い闘いが続けられているが,遅ればせながら,普天間基地 の爆音についてもやっと初めての提訴となった。

<普天間基地の概要>

 普天間飛行場(普天間基地)は,沖縄本島中部の宜野湾市のど真 ん中にある面責480.6ヘクタールの米軍基地で,2,800 メートルの滑走路を有する。普天間基地は,戦時中の日本軍飛行場 を占領して拡張した嘉手納基地とは異なり,米軍が1945年4月 の占領と同時に囲い込んで建設された経緯をもつ。現在は,普天間 海兵隊航空基地隊が管理しており,第3海兵遠征軍の第1海兵航空 団のもとにある36海兵航空群のホームベースとなっている。固定 翼機のほかに,CH−46やCH−53などのヘリコプターの基地 となっていることが大きな特徴である。
 住民地域に無理やり基地を建設した経緯があるため,周囲はすべ て宜野湾市の住宅地域になっており,また,頻繁に墜落事故を起こ すヘリコプターの基地でもあることから,その爆音被害のひどさや 事故の危険はつとに指摘されてきている。

<提訴への道のり>

 沖縄で少女暴行事件をきっかけに反基地運動が高揚したのを受 け,橋本総理とモンデール駐日大使は,1996年4月,代替基地 提供を条件として普天間基地を5〜7年以内に返還するという電撃 的な合意を発表した。名護市辺野古沖への海上基地建設問題は,こ こに出発点がある。
 普天間基地周辺では,過去にも嘉手納爆音訴訟を手本に提訴をし ようとの動きがあったが,なかなかきっかけがつかめなかったよう である。しかし,本年4月には上記の返還合意がなされてから7年 経過するにもかかわらず,まったく返還のめどが経たないことや, 普天間住民のこれまでの苦しみを県内の別の地域で新たに引き受け させようという重大な事態が進行しつつあるなかで,いろいろな分 野で基地問題に取り組んでいる地域住民が団結し,約1年の準備を 経て,ついに提訴に至った。弁護団は県内8名と県外2名の計10 名であるが,県内の若手弁護士が多く参加しているのが特徴であ る。

<本訴の特徴>

 本件訴訟では,過去の爆音訴訟にならって,国に対して,夜間の 離着陸等の差止と,損害賠償を求めているが,これら以外にも特徴 的な請求を盛り込むことにした。
 その第一の特色は,普天間飛行場の基地司令官個人を損害賠償請 求の被告に加えたことである。米軍基地訴訟での差止は,これまで 国を名宛人にしても認められてこなかったため,横田や嘉手納の訴 訟では,直接米軍を相手に差止を求めて新たな努力がなされてい る。しかし,先の最高裁の判断にみられるとおり,これには主権免 除の理論が大きく立ちはだかっている。このため,国に対していく ら違法判断がなされて賠償が認容されても,爆音被害は野放し状態 であり,国と米軍に対して被害を防止するための対策を義務づけら れず,特に米軍はこの違法行為に対して何ら制裁も課されてきてい ない。そこで,何とか米軍に対して,これら爆音被害の責任をとら せて被害の防止に努めさせることができないかという観点から,航 空機と飛行場の運用に責任を持つ司令官個人の不法行為責任を問お うとしたものである。今後,経験ある各地の弁護団から,これにつ いての知恵をぜひお借りしたい。
 第二に,差止そのものを追求しつつも,その前段階でも行政がな しうる騒音防止措置を義務づけることができないかと考え,国に騒 音測定を義務づける項目を請求に盛り込んだ。普天間基地周辺では 現在でも国が設置する騒音測定ポイントは4カ所しかなく,その不 足分は地方自治体が費用をかけて補充している。本来国は絶えず騒 音の発生状況を的確に把握して,その状況に対応した措置をとるべ きである。それさえ怠っている国の責任は問われなければならない のではないだろうか。
 本訴のもう一つの特徴は,将来請求について,とりあえず口頭弁 論終結後1年分の請求に焦点を絞って行おうとしたことである。将 来請求もこれまでまったく裁判所で認められてこなかったが,口頭 弁論終結後いくら被害が継続していることが公知の事実であって も,それを無視して,改めて訴訟を起こせというのは,被害救済の 点からも,違法行為の放置という観点からも到底容認できない。本 訴では,将来請求についてもぜひとも認容させるべく,短期間の将 来請求を前提に立証をやりきろうという気概で取り組んでいる。
 もちろん,爆音被害の立証という面では,低空を自由に旋回 し,独特な低周波騒音を発生させるヘリ騒音の特殊性という問題も 含んでおり,これからは,この問題にも焦点をあてていきたい。

<今後の進行>

 初回弁論期日は2月20日と指定されており,本原稿執筆段階で は今後の進行は未定である。弁護団としては,他の爆音訴訟の経験 をなるべく活用させていただきながら早期に第1次の判決を獲得 し,普天間基地撤去への足がかりにしたいと考えている。
 なお,那覇防衛施設局は,新嘉手納爆音訴訟では5,000名以 上も原告として名を連ねているのに,普天間訴訟では原告が200 名に過ぎないので,当局の対応を地域住民が受け入れてくれている ものと考えている,というようなコメントをしていることが報道で 明らかになった。このような対応に反撃すべく,現在,さっそく第 2次,第3次の提訴準備を進めているところである。