第三 公害裁判の前進と課題

四 廃棄物問題の闘いの前進と課題


1 ダイオキシン類の規制強化

 ○二(平成一四)年一二月から、廃棄物焼却施設から排出されるダイオキシン類の規制が強化された。これまで一立方メートルあたり八○ナノグラムだった規制値が、焼却施設の処理能力に応じて一〜一○ナノグラム以下に強化された。規制強化は、粗悪な施設を稼働させている業者を廃業させ、高性能の大型炉を保有する業者に産業廃棄物の処理を集中させて、適正処理を実現することを目的としている。環境省が発表した「平成14年12月1日時点の産業廃棄物処理施設の稼働状況について」によれば、○一(平成一三)年一二月に稼働していた産業廃棄物処理施設三九一七のうち、規制強化された昨年一二月に稼動している施設は二六○九であり、約三分の一の施設が廃止されている。
 九七(平成九)年のダイオキシン類の国内排出量は六三三○〜六三七○グラムと推計されていたが、○一(平成一三)年の排出量は一七四三〜一七六二グラムと推計され、七割強の削減効果があったと環境省は説明している。しかし、ダイオキシン類対策特別措置法が制定される以前の日本の規制は甘く、世界最大のダイオキシン汚染国と指摘されていたことを考えれば、大幅な削減は当然の結果と見るべきである。
 問題は、現在稼働している焼却施設のダイオキシン類の検査が年一回しか義務づけられておらず、通常の稼働状況が明らかにされていないことと、規制強化に伴って廃止された焼却施設の解体をどのような方法で行うのか具体的な計画が練られていないことである。前者については、ダイオキシン前駆物質を常時検査してダイオキシン発生を監視する方法が実用化されつつある。また、後者については、大阪府能勢町での経験をもとにダイオキシン類の二次汚染を防止する労働者向けのマニュアルが作成されているが、解体を実施する自治体や業者の汚染防止に関する意識改革が前提である。

2 廃棄物処理法改正と不法投棄対策

 環境省は、廃棄物処理法改正案をまとめ、今国会に提出する。改正案の柱は、1.不法投棄未遂罪などを新設して、廃棄物の不法処理防止対策を強化すること、2.殺虫剤・塗料などのスプレー缶について使用済品のメーカーによる引き取りなどを義務づけ、生産者の責任を明確化すること、3.一般家庭、事業所から排出されるパソコンについて一般廃棄物ないし産業廃棄物のいずれかの許可を取れば処理施設を設置できるようにして、リサイクルを推進することの三点である。  併せて、環境省は、産廃不法投棄原状回復特別措置法案(仮称)をまとめ今国会に提出する。この法案は、香川県豊島などの不法投棄現場で地下水汚染や周辺環境の悪化が懸念されるため、産業廃棄物の撤去費用を国庫補助と地方債でまかなうことを目的としたもので、一○年間の時限立法とされている。
 廃棄物処理法改正案のうち、スプレー缶の処理対策は、「拡大生産者責任」を導入したものであり、日本でもようやく生産者に廃棄物にならない製品を設計・生産させ、どうしても廃棄物になる場合には生産者に引き取りを義務づけるという考え方が浸透し始めたと評価することができる。
 ○一(平成一三)年四月に家電リサイクル法施行され一年が経過したが、家電製品協会が廃家電四品目のリサイクル率を発表した。それによれば、エアコン七八%、テレビ七三%、冷蔵庫五九%、洗濯機五六%となっており、同法が掲げたリサイクル率の基準値(重量ベース)エアコン六○%、テレビ五五%、冷蔵庫及び洗濯機五○%をいずれも上回っている。現在、メーカーでは、設計段階から解体しやすい構造、再利用しやすい部品の開発を進めており、循環型社会の骨組みができつつある。

3 自治体の産業廃棄物対策

 三重県は、○一(平成一三)年六月、全国に先駆けて産業廃棄物税(産廃税)を導入した。産廃税導入の動きは、全国に広がりつつある。産廃税は、財源難に直面した地方自治体の増収対策の一環として導入されたが、排出業者が廃棄物の排出量を削減する効果が現れており、廃棄物の減量対策としての側面が注目されている。
 また、業者が産業廃棄物の処分場を建設する際、条例や要綱で「住民の同意」を取ることを求めている問題で、環境省と自治体との溝が深まっている。現在、条例や要綱に住民同意条項があるのは二七道府県に及んでいる。環境省は、住民の反対で処分場が出来ないため不法投棄が増える悪循環に陥っているとして、住民同意条項の撤廃を求めている。これに対して、自治体は、円滑な操業のためには住民の了解が不可欠であると反論している。不法投棄の原因を住民の反対運動に求める環境省の論法は明らかに間違っている。問題の本質は、業者がこれまで汚染防止対策を十分に取らなかったことにあり、環境保全対策を怠った行政にも責任の一端がある。地元住民のコンセンサスを得ながら、必要な処分場を確保するという民主的な解決方法が取られなければならない。
 千葉県は、○二(平成一四)年三月、全国に先駆けて産業廃棄物条例を制定した。この条例は、排出業者が自社で産業廃棄物を処理する場合にもマニュフェスト伝票の作成・保管を義務づけること、廃棄物処理法が規制していない小規模な焼却施設や保管施設の設置を許可制にすることなどを内容とするもので、違反者に対しては罰則も課される。千葉県の条例は、国の廃棄物対策の隙間を埋めようとする試みであり、今後地域の実態にあった条例制定が行われることが求められる。

4 各地の闘いの成果と問題点

 ○三(平成一五)年一月、最高裁判所は、岡山県吉永町の産業産業廃棄物最終処分場の設置許可をめぐる行政訴訟に関して、「施設から有害な物質が排出された場合には、地域住民の生命、身体に重大な危害を及ぼす可能性がある」として、住民約三三○○名の補助参加申立て認めた。行政訴訟に住民が参加する道を開いた判決として評価できる。
 また、処分場の差止めに関する闘いについては、千葉県富津市の安定型処分場(仮処分)、福島県いわき市の管理型処分場(保全異議)、福岡県川崎町の安定型処分場(保全異議)などで住民が勝訴している。他方、山梨県明野町の管理型処分場(仮処分)、福島県の管理型処分場(行政訴訟)、千葉県流山市の焼却施設(仮処分)などで住民が敗訴している。
 安定型処分場、産廃業者の小規模な焼却施設については、住民勝訴の事例が積み重ねられてきたが、管理型処分場及び大型焼却施設(特に事業主が自治体ないし第三セクターのもの)については、住民の申立てが退けられている。その背景として、最新の施設では汚染防止対策が一応講じられており、裁判のなかで高度な技術論争をしなければならないケース、ダイオキシン類のように微量汚染による被害の蓋然性を立証することが困難なケースなど新しい問題に直面している。これらを克服することが今後の課題となっている。