〔3〕圏央道あきる野土地収用事件の現状
代執行停止,そして行政訴訟の勝訴判決を

弁護士  吉田健一


1 許しがたい高裁の逆転却下決定

 2003年10月3日,東京地裁民事第3部(藤山雅行裁判長)は,あきる野市牛沼地域の圏央道(首都圏中央連絡自動車道)建設事業に関する収用裁決について,その執行を停止する決定を下した。都知事による代執行が強行されようとする直前に,公共事業の暴走に歯止めをかけたものであった。
 ところが,わずか3ヶ月もたたない12月25日,東京高等裁判所第16民事部(鬼頭季郎裁判長)は,この執行停止決定を不当にも覆して,執行停止を否定する旨決定した。
 執行停止を認めた原決定は,「居住の利益は,自己の居住する場所を自ら決定するという憲法上保障された居住の自由(憲法二二条一項)に由来して発生するものであって,人格権の基盤をなす重要な利益であり」,「終の栖として居住しているものの利益は,その立場に置かれたものには共通してきわめて重要」で「非代替的な性質を有する」と判断した。
 ところが,即時抗告を申し立てた相手方東京都知事,参加人起業者(国及び日本道路公団)は,住民の利益は全て金銭補償で償われるとしたうえ,工事の遅れにより,1年で40億円の得べかりし利益が失われるとし,一日ごとに1000万円の損失が発生すると根拠のない主張を繰り返した。さらには,圏央道建設を含む東京の環状道路の建設の「必要性」を強調し,道路ができれば渋滞が解消し大気汚染も改善されるなどと使い古された宣伝文句を並べ立てた。
 住民・弁護団は,その虚構性を明らかにして反論した。特に,本件収用を強行しても,建設・開通する道路はわずか1,9キロメートルに過ぎず,そこに二つのインターチェンジはまったく必要ないのであり,新たに設置されるあきる野インターチェンジによっても,道路混雑が改善されず,逆に混雑が激しくなる。ましてや,1.9キロ区間の開通のために,なぜ数ヶ月後に迫った行政訴訟の本案判決まで待てないのかと訴えた。
 しかし,残念ながら,高裁の決定は,相手方や参加人らの言い分をほとんど鵜呑みにし,起業者側が一方的に主張する圏央道建設の「公共性」を住民らの権利に優先させた。そして,申立人ら地権者らについて,前述のような原決定の判断をいとも簡単に覆し,執行によって回復しがたい損害が発生することを否定したのである。

2 代執行の強行を許さず最高裁での再逆転を

 住民・弁護団は,高裁の決定に対して,直ちに特別抗告・許可抗告を申し立て,舞台は最高裁に移されようとしている。高裁決定は,その認定・判断も粗雑であり,事業認定の違法は収用裁決の違法に承継されないという,通説や判例に反するような判断にあえて踏み込んでいる。しかも,土地収用が強行されれば,現に居住している地権者の家屋も破壊され,造成されて取り返しのつかない損害が生ずることは明らかである。その意味で,弁護団は,高裁決定を徹底的に批判した書面を期限前に提出し,早期判断を求めている。
 ところが,その審理の動向を全く無視するかのように,都知事は,今年に入って代執行令書を発し,2月10日から一ヶ月間の間に代執行する旨住民の一部に通告してきた。時を同じくして病気入院中の住民の一人が,収用が強行される不安におびえながら病床で息を引き取った。さすがに,この方の手続きは少しずれ込んでいるようである。
 しかし,都知事,起業者側は,あくまで強硬である。後わずかに迫った行政訴訟の判決すら待とうとせず,むしろ裁判所の審理・判断の前に事を強行する姿勢を露わにしているのである。ここでも,ぎりぎりの攻防が続けられることとなる。

3 行政訴訟での勝利めざして

 本案である収用裁決取消訴訟は,来たる2月24日には弁論を終結する。
 圏央道建設は,バブル当時の各地の開発計画を前提にしたものであり,秋留台開発計画の白紙化などに見られるように,すでにその建設目的が失われている。他方で,同建設は大気汚染や騒音などを激化させる。収用委員会で,東京大気訴訟の原告の方が健康被害の酷さを切々と訴えたが,同じような被害を拡大させる道路を建設する事業そのものに,明白かつ重大な欠陥があることは明らかである。このような事業,収用を止めさせ,公害による健康被害が発生するような道路の建設をやめさせることこそ,公害防止,環境保全の基本であり,その方向こそ定着させていかなければならない。その意味で,本案判決も,重要な試金石となる。
 執行停止決定を出した藤山裁判長のもとでの本案判決ではあるが,一日もはやい勝利を確実にするよう力を結集することが必要である。代執行問題とあわせて,いっそうのご支援をお願いする次第である。