圏央道あきる野土地収用事件

決 定 要 旨



平成14年(行ク)第197号執行停止申立事件(第1事件)
平成15年(行ク)第21号執行停止申立事件(第2事件)
第1事件申立人中村文太ら24名
第2事件申立人中村文太ら5名
第1事件相手方東京都収用委員会
同参加人
日本道路公団
第2事件相手方東京都知事
第2事件相手方兼参加人国及び日本道路公団
(本案事件・東京地裁平成14年(行ウ)第421号収用裁決取消請求事件)

決定要旨(文中の頁数は,決定書の頁数を示すものである。)


(事案の概要)
 申立人らは,首都圏中央道路自動車道(圏央道の概要については,6〜7頁参照) 日の出インターチェンジからあきる野インターチェンジまでの区間の建設に伴い,その所有土地,建物,又は借地権を収用される立場にある者らである。
(事案の概要) 申立人らは,首都圏中央道路自動車道(圏央道の概要については,6〜7頁参照) 日の出インターチェンジからあきる野インターチェンジまでの区間の建設に伴い,その所有土地,建物,又は借地権を収用される立場にある者らである。
 現段階において,既に収用委員会の明渡裁決がされ,起業者である国及び道路公団による東京都知事に対する代執行手続の請求も行われている。
 代執行手続については,起業者の請求を受け,戒告,代執行令書による事前通知とい手続が必要であるところ,現在申立人ら所有の土地の一部(申立人らの居宅部分)については戒告手続まで進行し,その余の土地(農地)については,代執行の請求がされたばかりの状態にある。
 本案事件においては,上記申立人らを含む原告らが,収用委員会の明渡裁決の取消を求めて争っている(当該本案事件以前に提起された国土交通大臣及び日本道路公団を被告とする事業認定取消請求訴訟《東京地裁平成12年(行ウ)349号》と併合審理中。)。
 第1事件の相手方は東京都収用委員会であり,申立人らは,主位的に明渡裁決の執行停止を求め,予備的に明渡裁決の執行行為としての行政代執行の停止を求めている。
 第2事件の相手方は東京都知事,国及び日本道路公団であり,申立人らは,東京都知事に対しては明渡裁決の執行行為としての行政代執行の停止を,国及び道路公団に対しては東京都知事に対して起業者として行政代執行を請求することの停止を求めている。
(争点)
 本件については,前記のように4つの申立があるが,第2事件のうちの東京都知事に対する代執行手続の停止を求める申立以外はいずれも不適法(※)である。したがって,争点は,東京都知事の行う代執行手続について,行政事件訴訟法25条の執行停止の要件([1]公共の福祉に重大な影響を及ぼすことの有無,[2]申立人に生じる回復困難な損害を避けるための緊急の必要性の有無,[3]本案について理由がないとみえるかどうか)を満たすかどうかである。

※ 第1事件
主位的申立て
 行政事件訴訟法25条2項ただし書により,処分の執行手続の停止を求め得る場合には処分の効力の停止を求めることはできないから,本件については代執行手続の停止を求めるべきであって明渡裁決自体の停止を求めることは不適法(9〜12頁)
予備的申立て
 代執行手続の主体は東京都知事であるから,相手方東京都収用委員会に対し代執行手続の停止を求めることは不適法(12頁)
第2事件
 国及び日本道路公団に対する申立 国及び日本道路公団が東京都知事に対して行う代執行手続の請求は,明渡裁決の執行でも後続処分でもないから,行政事件訴訟法25条2項本文により不適法(12〜13頁)

(東京都知事の行う代執行手続停止の可否)
1  公共の福祉に対する影響(15〜22頁) 本件区間の工事の進行は圏央道全体の完成に直ちに影響を及ぼすものではなく,本件区間以南の工事についてはその完成時期が明確でない状況にあって,本件区間のみの完成を急ぐべき具体的必要性があるか否かは明らかでない(15〜17頁)。本件区間の工事については,代執行手続を採ったとしてもその後に行うべき遺跡調査の内容如何によっては,なお相当期間工事に着手できない可能性があり,むしろ申立人らの協力を得て遺跡調査を行えばあえて代執行手続を採らないでも工事完成の遅延を避ける余地があった(17〜19頁)。相手方らが主張する工事遅延におる損失等については,その信憑性を検討する必要などがあり,直ちに採用できない(19〜20頁)。本案事件の審理及び代執行手続の進行状況からして,代執行手続を本案第一審判決まで停止することによる工事の遅延は4か月から7か月程度であると認められる(20〜21頁)。
 以上からすると,本件裁決の執行としての代執行の手続が停止されることによって,公共の福祉に与える影響は警備なものにとどまり,その程度は後記のように本件事業認定及び収用裁決が違法である可能性があるにもかかわらず,その点を十分に見極めないままに,あえて建設を強行することを正当化するものとは到底いえない(21〜25頁)。
2  申立人らの受ける損害(22〜25頁)申立人坂本功を除く申立人らは,本件代執行が行われることにより居住の利益を奪われるところ,こうした居住の利益は,自己の居住する場所を自ら決定するという憲法上保障された居住の自由(憲法22条1項)に由来して発生するものであって,人格権の基盤をなす重要な利益であり,特に上記申立人らのように一時的な仮住まいではなく,定住の意思をもって,いわば終の栖として居住している者の利益は,その立場に置かれた者には共通して極めて重要なものとなるのであって,単なる主観的利益として切り捨てることのできる性質のものではないし,また,財産的な損害と異なり,自己の生活に密着した個別的な利益であるがゆえに,いったん失ってしまうと容易に他のもので置き換えることができない非代替的な性質を有するというべきである(22〜23頁)。
 また,申立人坂本功が受ける損害並びに本件土地18(農地)に対して代執行が行われることにより申立人中村文太が受ける損害は,居住の利益を奪われることに比べると,かなり軽微なものといわざるを得ないが,居住の利益を有している申立人らについて,その敷地及びこれと一体として利用されている土地に対する代執行手続について執行が停止されると,あえてその余の土地についてのみ代執行を行う必要性は希薄であるから,これらについても,公共の福祉に与える影響との対比において,回復困難な損害が生じるものと認めることができる(25頁)。
 そして,本件各土地について,既に起業者による代執行請求が行われていることなどからすると,現段階において,申立人らの回復困難な損害の発生を避けるため,相手方知事による代執行の手続を停止する緊急の必要性があると認められる(25頁)。
3  本案について理由がないとみえるかどうか(25〜29頁)
 事業認定の違法性は本件裁決に承継されるし,事業認定の適法性の主張立証責任は行政庁側にある。しかし,相手方である東京都知事も本案の被告である東京都収用委員会も,違法性は承継されないとの理解を前提に事業認定の適法性について主張立証をしていない(27頁)。そうすると,本案訴訟が,被告が本件事業認定の適法自由を主張立正をしない限り,原告の勝訴に終わることが明らかである(28頁)し,たとえ被告が改めて上記の主張立証をしたとしても,現時点における本案の証拠資料を前提とする限り,本件事業認定及び本件収用裁決の適法性についての疑問が必ず払拭できるとも認められず,「本案において理由がないとみえるとき」との消極要件が存在するとは認め難い(29頁)。
4  結論
 以上のとおり,相手方東京都知事に対する第2事件に係る申立ては理由があると認められるから,本案判決の言渡しの日から15日後までの間,相手方東京都知事が明渡裁決に基づいて行う代執行の手続を停止する(30頁)。
5  主文
 (別紙のとおり)
以上


別紙
〈主文〉
1  第1事件
 第1事件申立人らの申立てをいずれも却下する。
2  第2事件
(1) 起業者国土交通大臣及び日本道路公団の一般国道468号新設工事〔一般有料道路「首都圏中央連絡自動車道」新設工事〕(東京都あきる野市牛沼字飛鳥山地内から同市下代継字早道場地内までの間,青梅市友田町二丁目地内から同市河辺町一丁目地内までの間及び同市河辺町八丁目地内から同市新町一丁目地内までの間)及びこれに伴う附帯事業並びに市道付替工事のための収用裁決申請事件について,東京都収用委員会がした別紙土地収用裁決一覧記載の裁決に基づき,相手方東京都知事が第2事件申立人らに対して行う明渡裁決の執行(代執行手続の続行)は,当庁平成14年(行ウ)第421号収用裁決取消請求事件の第一審判決言渡しの日から起算して15日後までの間,これを停止する。
(2) 第2事件申立人らのその余の申立てをいずれも却下する。
3  申立費用は,第1事件については第1事件申立人らの負担,第2事件については,第2事件申立人ら及び相手方東京都知事に生じた費用は同相手方の負担,その余を第2事件申立人らの負担とする。

平成15年10月3日民事第3部決定
(藤山雅行・新谷祐子・加藤晴子)