尼崎公害公調委

あっせん案



あっせん委員加藤和夫
平野治生
堺 宣道
1 趣旨
(1) 和解の経緯と内容
 本件あっせん申請は,いわゆる尼崎大気汚染公害訴訟に関し,平成12年12月8日に大阪高等裁判所で成立した訴訟上の和解に係る和解条項の履行を求めるものである。
 当該訴訟においては,第一審判決において,原告らによる国及び阪神高速道路公団に対する損害賠償請求及び差止請求が一部認容されたが,国及び阪神高速道路公団並びに原告は当該判決に不服があるとして控訴し,その後,大阪高等裁判所において係争中に,当事者双方は,自動車排出ガス対策の一層の推進が必要であること等を踏まえ,争いを止め,将来に向かってより良い沿道環境の実現を目指して互いに努力することが最も妥当な解決であるとの結論に達し,和解に至ったものである。
 こうした経緯の下,当該和解においては,国土交通省及び阪神高速道路公団は,本件地域になお環境基準を上回る汚染実態があることを踏まえ,本件地域の交通負荷を低減し,大気汚染の軽減を図るため,国の関係行政機関及び地方公共団体とも連携して,道路管理者として採り得る各種施策の検討ないし実施に努めることとされており,具体的には以下の施策が和解条項に盛り込まれた。
ア 「国道43号等の道路交通環境対策の推進について(当面の取組)」(平成12年6月6日)に従って,関係行政機関との連携も行い,道路管理者として採り得る沿道環境対策に取り組むこと
イ 阪神高速3号神戸線と5号湾岸線において,料金に格差を設ける環境ロードプライシングを早期に試行的に実施すること
ウ 自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(いわゆる自動車NOx法)の周知徹底,トラック事業者への迂回輸送の協力要請を行うこと
エ 特殊車両通行許可違反に対する道路法第47条の2の適用を厳格に行うこと
オ 本件地域における大型車の交通量低減の必要性を理解し,大型車の交通規制の可否の検討のために必要な交通量の調査を平成13年度までに着手するとともに,本件地域における大型車の交通規制の可否の検討について,早期に検討結果が出るよう警察庁に要請すること
 また,当該和解において,申請人らと国土交通省及び阪神高速道路公団とは,当該訴訟対象道路における環境施策の円滑かつ効果的な実施に資するための意見交換を行う場として,「尼崎市南部地域道路沿道環境改善に関する連絡会」(以下「連絡会」という。)を設置することに合意しており,同当事者間では,当該意見交換の対象として和解条項の履行に関する事項が含まれることが了解されている。
(2) あっせんの趣旨
 和解後2年半を経過したが,本件地域の汚染実態は,環境基準がなお未達成であるなど依然として改善されていない状況にある。
 この間,国土交通省及び阪神高速道路公団により一定の施策が実施されてきたところであり,国土交通省及び阪神高速道路公団は,大型車の交通の転換に係る施策の推進に努めてきたことにより和解条項は履行されていると主張するのに対し,申請人らは,本件地域における大型車の交通の転換が図られていないことから和解条項の履行としては不十分なものであるとして,本件あっせん申請が行われるに至ったものである。
 あっせん委員としては,和解前文及び和解条項の趣旨並びに和解条項の履行状況を勘案しつつ,当事者双方の意見を踏まえ,本あっせん申請事件の解決を図ることにより,申請人らと被申請人らが和解当時の精神に立ち返り,相互の理解と協力によって,より良い沿道環境の実現に向けて努力していくことを期待して,以下の事項についてあっせんすることとする。
2 あっせん事項
(1) 大型車の交通量低減のための総合的な調査の実施
 国土交通省は,本件地域における大型車の交通量低減のための施策を総合的かつ効果的に進める観点から,事業主団体等の協力を得て,大型車の運行経路,運行経路選択要因等に加え,大型車の運行実態(頻度,時間帯等),車両の年式,ディーゼル微粒子除去装置装着の有無,環境ロードプライシングの試行内容の充実や交通規制が実施された場合の運行経路選択に係る意向等に関する別紙調査を実施すること。
(2) 環境ロードプライシングの試行
 国土交通省及び阪神高速道路公団は,同公団が実施している環境ロードプライシングの試行状況や前記・の調査結果を分析評価するとともに,新たな取組について交通量や環境への効果・影響を調査検証する社会実験の活用などにより主体的に検討を行い,本件地域における大型車交通量を低減する観点から,試行内容の一層の充実を図ること。
 なお,環境ロードプライシング等により,阪神高速5号湾岸線への迂回誘導を推進する上では,阪神高速3号神戸線や周辺の幹線道路からのアクセス道路の整備等により,阪神高速5号湾岸線の利便性を一層高める施策を継続して検討していくことも重要である。
(3) 大型車の交通規制の可否の検討に係る警察庁への要請 国土交通省は,平成13年に実施した阪神間交通量調査等の調査結果に加え,大型車の運行経路の実態や運行経路選択に係る事業所側の意向等に係る前記(1)の調査結果を取りまとめ,本件地域における大型車の交通量を低減する観点から,大型車を対象とした限定的な交通規制を実施することの可否について,当該調査結果の提出と併せて,警察庁に対し追加的検討を要請すること。
(4) 連絡会の運営の円滑化
 申請人ら,国土交通省及び阪神高速道路公団は,将来に向かってより良い沿道環境の実現を目指して互いに努力するとの和解前文に規定する精神に則り,連絡会において建設的かつ有効な意見交換を行うことを通じて緊密な意思疎通が図られるよう,以下の点を踏まえ,連絡会の運営の円滑化を図ること。
ア 連絡会での意見交換は,合意を目的とするものではないが,和解条項の履行に関係する事項については,事前に説明すること。
イ 和解条項の履行に関係する国の行政機関及び地方公共団体の協力が得られる場合は,連絡会において,これらの関係機関から口頭又は文書による説明を受けることができるものとすること。
ウ 連絡会は,公開とすること。ただし,双方合意の下に非公開とすることができること。
エ 連絡会は,前記(1),(2)及び(3)のあっせん事項に係る業務が完了するまでの間は,その進捗状況に応じて適宜開催すること。
(5) 関係機関等との連携の推進
 国土交通省及び阪神高速道路公団は,大型車の交通量低減に向けて,国の関係行政機関,地方公共団体及び道路利用者や沿道住民等の関係者と連携した総合的な取組みが推進されるよう,これら関係機関等に対して,様々な機会を通じて,本件地域における大型車の交通量低減の必要性についての理解と協力を求めること。
 なお,これら関係機関等においても,大型車の交通量低減の必要性を理解し,関係機関等が連携した総合的な取組の推進が図られるよう,積極的に協力されることを強く希望する。

(別紙)
1 調査の目的
 国土交通省は,本件地域における大型車の交通量低減のための施策に関し,以下の実施に資するため,2の調査を速やかに実施する。
(1) 国土交通省から警察庁に対し,国道43号に関して,現行の交通規制に加え,本件地域において1.又は2.の規制の可否について検討を要請すること
  1.  大型車の通行を中央寄りの車線(1ないし2車線)に制限すること
  2.  午前9時から12時までの間,ナンバープレートにより一定割合の大型車の通行を禁止すること
(2) 国土交通省及び阪神高速道路公団において,阪神高速5号湾岸線における環境ロードプライシングの試行内容の充実について検討すること
(3) 国土交通省及び阪神高速道路公団において,トラック事業者に対する迂回輸送の協力要請を強化すること
2 調査の内容
(1) 調査対象地域
 国道2号以南の尼崎市南部地域
(2) 調査対象事業所
 次の事業所から一定割合の事業所を抽出する。
 ただし,調査対象地域において貨物自動車運送事業(一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業)を営む事業所については全て調査対象とする。
  1.  調査対象地域において大型車の保有叉は出入りがある建設業,製造業,倉庫業,卸売業,小売業及び貨物自動車運送事業(一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業)を営む事業所
  2.  本件地域を通過する路線を有する一般乗合旅客自動車運送事業を営む事業所及び一般貨物自動車運送事業を営む事業所のうち,運行系統が定められている事業所
(3) 調査項目
  1.  事業所が保有し,又は事業所に出入りする大型車の現在の運行実態(発着地,経路,頻度,時間帯)
  2.  事業者の運行経路選択要因
  3.  国道43号において部分的な通行規制(前記1の(1))が実施された場合における運行経路の見直しの意向
  4.  阪神高速5号湾岸線において環境ロードプライシングの内容の充実が行われた場合における運行経路の見直しの意向
  5.  国道43号において部分的な通行規制(前記1の(1))が実施され,かつ,阪神高速5号湾岸線において環境ロードプライシングの内容の充実が行われた場合における運行経路の見直しの意向
  6.  事業所が保有する大型車の初度登録年月日別台数
  7.  事業所が保有する大型車のうち,認定を受けた低排出ガス車の台数及びディーゼル微粒子除去装置装着車の台数