「持続可能な地域づくり」をめざして
〜あおぞら財団の環境学習の取り組みから〜

あおぞら財団 上田敏幸


はじめに

 あおぞら財団(公害地域再生センター)は1996年の設立以来、(1)西淀川地域を拠点とした環境再生のまちづくり (2)公害の経験の収録と伝承 (3)公害病患者の健康づくりと生きがいづくりとともに、(4)公害や環境問題、自然についての学習を、活動の柱のとして取り組んできた。ここでは、この「環境学習」を中心に最近の事業をふり返ってみたい。

公害被害の「語り部」を軸に

 財団では、小学生から大人までを対象にした環境学習に西淀川公害患者と家族の会や西淀自然文化協会をはじめ地域の団体や住民と協力して取り組み、出前教室やフィールドワークを実施してきた。2002年4月から2004年2月の間で35回におよぶこれらの学習の対象には、小、中、高校生、大学生、教職員、医学生や民主医療機関で働く医師の新人研修、韓国からの司法修習生と幅広い。
 内容で大切にしているのは、大気汚染公害による被害の事実をきちんと伝えることと被害者の願いを付託された財団の活動を分かりやすく伝えること。ここで不可欠なのが被害の事実を示す資料と被害者の存在である。公害被害の事実を肉声で語ることが出来る人材である語り部の存在は、財団だけが持っている貴重な財産であり、これを軸にした公害・環境問題の学習プログラムは、他にはない教材の特徴となっている。また「語り部」との協働による公害問題の伝承は、財団が被害者から託された「手渡したいのは青い空」の願いをかなえる使命のひとつである。

最も大切にされるべきもの

 今年1月、西淀川区内の国道43号線などの現地見学の後「語り部」2人の話を聞いた神戸大学のNさんは次のような感想を寄せた。

 私は西淀川訴訟については少し話を聞いていましたし、また学校の授業などでも大気汚染の大変さについては教わっていましたが、被害者の方々のお話を聞かせていただくことで、私の知っていたことなど、ほんの「うわずみ」でしかなかったのだと思いました。  何人の人々が病気に苦しんだり、青空など見えず赤や黄色の煤塵が当たり一面に漂っていたことと…それを知ることも大切なことかも知れませんが、それ以上に人々が受けたたくさんの苦しみ―人間としての幸せや健康な生活をもつことさえできなかったこと、子どもに対する罪悪感、死すら考えてしまうぐらいに追い詰められてしまう気持ち―このような話は被害者の方々でないと話すことも出来ないし、また実際に聞かないと分からないことであるし、最も大切にされるべきものだと思います。  私は将来、小学校教師になりたいと思っています。  子どもたちには「環境問題」のメカニズムだけでなく、その奥にある人々の生活や苦しみ、「子どもたちには絶対に良い環境を残したい」と尽力された人々の思いを十分に受け止めてもらいたい、そんな人間を育てたい、と思っています。私自身もそんな人間になりたい。


あおぞらプラン

 この日の「授業」が行われたのは大阪府立西淀川高校。同校では昨年11月から、財団とともにすすめる「あおぞらプラン」がスタートした。生徒減少期を迎え、生じた空き教室を活用、その一環として西淀川公害訴訟の資料を常設展示や視聴覚教室をつかって環境学習の拠点として地域にも開放・情報発信しようというもの。府教委がすすめる「高校余裕教室等活用支援事業」のひとつで3ヶ月の限定ではあるが、そのための臨時職員も配置された。
 「総合的な学習の時間」の導入に伴い、学校教育現場でのNPOや地域との連携が注目され、昨年10月に施行された「環境教育の推進に関する法案」には、学校や地域の環境教育にNPOや市民団体の人材を積極的に活用する制度の新設も盛り込まれている。こうした時期に生まれた公教育との連携を積極的に推進することが求められている。
 3年前から同校の社会科教諭とともにすすめてきた環境学習の取り組み、その中心メンバーをはじめ教育現場の先生が参加する「西淀川公害に関する学習プログラム作成研究会」における活動の蓄積が背景に存在することを忘れてはならない。

I LOVE 西淀川区

 昨年11月15日に開かれた第25回西淀川高校文化祭。財団は生徒たちの模擬店が連なる教室に西淀川公害のパネル展示と「語り部コーナー」を開設した。12月には教室を展示場に改装、常設展示の「お披露目」を同校の3年生全員を対象に実施した。「公害を防ぐ」(NHK教育テレビ制作)のビデオ鑑賞のあと展示室を案内、地域の歴史をたどりながら大気汚染公害被害の実相にふれる展示を、生徒たちはどう受けとめたのか。彼ら自身の言葉で振り返ってみよう。

  •  こんなに苦しんでいる人がいるとは思わなかった。早くきれいな空気に戻らないと、と思いました。
  •  昔は今以上に汚かったと思った。自分も何かきれいにする努力をしようと思った。
  •  畑で西瓜がとれたりするなどものすごく綺麗なとこだったのだと思いました。
  •  すごい時間がかかることだけど、きれいな空気いっぱいで、緑の街になればいいなあと思います。私もぜん息だったのでぜん息の苦しさはすごくわかるから、ぜん息が少なくなっていって欲しいです。
  •  西淀川区があんなに空気がきたないと思わなかったからびっくりしました。私も地元が西淀川なんで、できるだけ空気をきれいにできるようにしたいと思いました。
     I LOVE 西淀川区
  •  自分が毎日通っている学校の近くにこんなに苦しんでいる人がいると知ってショックを受けた。これから生まれてくる人や、いま苦しんでいる人がこれ以上増えないよう、再生プランのような街が早く完成すればいいと思う。 

 破壊から再生へ。持続可能な地域づくりの頼りになる主体者は若者である。その若者たちといっしょに未来をきりひらきたいものだ。