地球温暖化をめぐる状況と第9回締約国会議
弁護士  早川光俊


第9回締約国会議(COP9)の概要

 2003年12月1日から12日までの予定でイタリアで開催されたCOP9には、条約締約国167ヵ国、国際機関、NGOなど約5000名が参加した。COP9はロシアが批准していないため京都議定書の発効の目処がたたない状況で開催されたため、議定書の発効と実施に対する各国の対応が心配されたが、多くの国の代表が京都議定書の発効と実施への強い決意を示したことは、一定の成果と評価してよい。
 また、京都議定書の運用ルールのうち、マラケシュからの宿題となっていたクリーン開発メカニズムの吸収源プロジェクト(CDMシンク)の実施ルールについての合意が成立した。2年間かかったCDMシンクの交渉が合意に達したことは、京都議定書の発効と実施に向けての障害はなくなったことを意味している。

CDMシンクの運用ルール

 今回合意されたCDMシンクの運用ルールには、様々な問題点もあるが、非永続性の問題や社会・環境評価の問題など、積極的に評価できる内容も含まれている。
 植林または再植林された森林が、その後、火事や伐採などにより消失してしまった場合(非永続性)の扱いについては、カナダなどが主張していた保険をかける方法は採用されず、EUなどが主張していた一時的クレジットと、長期的クレジットの2種類のクレジットが発行できることになった。一時的クレジットは、そのクレジットが発行された約束期間内(5年間)は有効で、目標達成に使えるが、次期約束期間に繰り越すことはできない。即ち、使わずに余ってしまったクレジットは次の約束期間に使うことはできないことになっている。ただ、クレジットの失効後、もとの森林が残っていれば、その炭素蓄積量に応じてクレジットが発行される。これに対して、長期的クレジットは、30年のものと、20年で2回更新できる(最大60年)ものがあり、この長期クレジットの有効期限もクレジットの発行された約束期間末まであるが、次期約束期間に炭素蓄積量が増加していればその分のクレジットが次期に発行されることになる、この長期的クレジットは5年ごとの検証および認証がされることになっている。
 また、環境・社会経済評価については、事業者がプロジェクトを実施する際に提出する事業計画書に、環境影響と社会経済影響に関する事項についても記載することになった。また、事業者またはホスト国(途上国)が、事業の負の影響が重大であると考えた場合には、その国の規定に従ってそれらの影響評価を行わなければならないことになった。
 問題点は、(1)地域の生態系や環境に大きな負の影響を与える単一種のプランテーションを除外できなかったこと、(2)遺伝子組替生物や侵入外来種を禁止できなかったことである。しかし、プランテーションについてはホスト国が持続可能な発展に反すると判断すればこれをCDM事業から排除することは可能である。また遺伝子組み替え生物や侵入外来種についてもホスト国、投資国の両方で国内法でこれを禁止または得られたクレジットを使わない道が残されている。
 今後は個別のCDMシンク事業を、ホスト国(途上国)の市民・環境NGOと協力して監視していくことが必要となっている。

予算問題

 今回のCOP9では、気候変動枠組条約の条約事務局の予算問題が大きな問題になった。事務局の提出した2004年から2005年の2年間の予算案にアメリカと日本などがクレームをつけたからである。
 アメリカはブッシュ政権になって京都議定書から離脱宣言をしたこともあり、予算を条約関係と京都議定書関係予算に分けるよう執拗に求めた。
 アメリカが参加しない議定書関係の予算にはアメリカは拠出しないというのである。また、日本政府は議長の提案が前年度比約9%の増加になっていることに、「条約事務局の予算の使い方が無駄が多く節約できるはずだ」と主張して、前年度並みの予算を主張した。
 結局、アメリカの主張どおり、京都議定書関連の予算は本予算から外され、暫定的な割り当てになってしまった。また、予算総額は6%増で決着した。議定書関連の予算が不安定になると京都議定書の発効に向けた活動が進まなくなり、大きな打撃になりかねない。

プーチン大統領?の京都議定書批准拒否発言

 COP9開始早々、プーチン大統領が「京都議定書はロシアの経済成長に大きな制約となるので、今の枠組みでは批准できない」と語った、とするイラリオーノフ大統領補佐官(経済問題担当)の発言報道が世界を駆け巡った。
 このイラリオーノフ氏は、ロシア政府の中でも議定書反対強硬派の筆頭として知られている人物である。その後、ロシア政府のスポークスマンであるアレクセイ・ゴルシェコフ氏やムハメド・ツィカノフ経済発展貿易次官が、イラリオーノフ大統領補佐官の発言を否定して、「われわれは批准に向けて動いている」と述べたとの報道がなされた。
 イラリオーノフ大統領補佐官の真意は不明であるが、世界貿易機関(WTO)へのロシアの加盟問題を巡りEU側から譲歩を引き出す手段として議定書への否定的立場を強調したという見方がなされている。ロシアは、WTOに早期加盟を希望しているが、EUが常にロシアのWTO加盟を支援すると言いつつも、ロシアに天然ガスの国内価格引き上げやガス取引の自由化をWTPへの加盟条件にしていることをプーチン大統領自ら非難しており、こうしたWTO加盟をめぐる思惑が背景があるといわれている。
 COP9でも、ロシアへの温暖化関係のプロジェクト(共同実施)が少ないことを非難しており、批准カードを取引材料に使っている可能性が高いと考えられている。

COP10に向けて

 次のCOP10は、2004年11月にアルゼンチンで開催されることになった。COP10が、京都議定書の第1回締約国会合(COP/MOP1)として、議定書の実行と将来の枠組みづくりに向けた着実な歩みを始める会合になることを強く期待したい。
 そのためにはロシアの批准が不可欠で、日本政府にロシア政府に京都議定書の批准を働きかけるよう要請するとともに、日本の市民もあらゆるチャンネルを通じてロシア政府に批准を働きかけることが必要である。