道路公害反対運動の現状と課題
道路公害反対運動全国連絡会  事務局長 橋本良仁


1 ムダで有害な道路建設は止まらず

 小泉政権発足から2年半,「歳出のムダを削る」としてその最大の目玉商品ととしてきたのが道路公団改革であった。「ムダな道路は造らない」はずであった道路4公団民営案を政府と与党が昨年末に決めた。国民の期待したものとは程遠く,全くあきれはてた内容である。
 先の民営化案の決定に続いて昨年12月25日に開催された,「国土幹線自動車道建設会議」(国交省の諮問会議)において,税金を投入して建設する「新直轄方式」の高速道路路線(第1次)がわずか45分の審議で決定されたのである。高速道路整備計画(9342キロ)のうち,採算性が低く赤字路線になる可能性が極めて高い未整備の27区間(総延長699キロ)に対し,総事業費2兆4千億円の税金を投入して建設するというのである。ここに,現在の道路建設の問題点が象徴的に現れている。

2 土地収用停止の画期的な決定

 昨年10月3日,東京地方裁判所民事3部(藤山雅之裁判長)は,圏央道あきる野の土地収用を本裁判の判決後10日間停止するという,画期的な決定を出した。行政裁判でのこれまでの司法の姿勢は徹底的な行政追随であり,このような判断は異例ともいえるものであった。国土交通省の内部に激震が走り,マスコミは「行政の暴走に歯止め」と報じた。
 決定は次のように指摘し,圏央道の公共性に疑いがある,とまで断じた。予定地に居住している住民について,「居住の利益は,自己の居住する場所を自ら決定するという憲法上保障された居住の自由(憲法22条1項)に由来して発生するものであって,人格権の基盤をなす重要な利益であり」,「終の栖として居住しているものの利益は,その立場に置かれたものには共通してきわめて重要」で「非代替的な性質を有する」。他方,「建設される道路に瑕疵があって本件事業認定及び収用裁決が違法である可能性があるにもかかわらず,その可能性の有無を十分みきわめないままに,あえて建設を強行することを正当化するものとは到底言えない」。
 本決定に対して国交省・東京都は即時抗告を行ない,昨年12月25日東京高裁民事16部(鬼頭季郎裁判長)は現地を見ることもなく,行政の主張を鵜呑みにして地裁決定を覆した。東京都は,本年2月10日に収用の執行を行う旨,関係住民に対して執行令書を発行した。

3 国民世論が大きく変化

 2003年の公共事業を巡る環境は,大きく変化した。川辺川利水訴訟の福岡高裁では農民勝訴の判断が出され国は上告を断念。全国各地ではダム事業の中止が相次いだ。
 そして圏央道あきる野の収用執行停止の決定である。その背景には,ムダで有害な公共事業に対する国民世論の大きな変化が見られる。
 「道路が通れば道理が引っ込む」は,これまでの道路建設行政をいみじくも表現したものである。まさに一度決めた計画は,何が何でもやり上げる,というのが公共事業を行なう行政側の鉄則であった。20世紀後半の日本は,公共事業によって徹底的な国土破壊が行われ,その結果,国と地方は膨大な借金を積み上げた。「税金をムダ遣いする高速道路は,もうこれ以上は要らない」「自然破壊・環境破壊の大型道路は止めよう」は,いまや大多数の国民の声である。このように大きく変化した世論の反映こそが先に述べた司法の判断に反映した,と考えられるのである。

4 硬軟あわせた行政の対応

 国民との合意もなく進められてきた大型道路建設に対して全国各地で建設反対の住民運動が粘り強く展開されている。これまでの強引なやり方だけでは通用しないと見た行政は,住民に対して硬軟を取り混ぜた両面作戦に出てきている。
 建設中の圏央道などに見られる土地の強制収用を振りかざした強行作戦をとる一方で,東京外環道などにPC(パブリック・コメント)やPI(パブリック・インボルブメント)の採用,また計画や事業の各種段階では事業者の説明責任の義務化などをうたっている。これらは柔軟路線の現れとして見ることができる。

5 新土地収用法の問題点

 強引な公共事業の建設に反対して全国各地で展開されている多くの地権者による土地トラスト運動に対応するため,一昨年6月,土地収用法が改正された。ここでは改正後の収用手続き,とりわけ収用委員会の公開審理の進行指揮が大きく変わったことに注目する必要がある。
 新土地収用法改正のポイントは,事業認定に至る手続きを若干丁寧(事業説明会や公聴会開催の義務付け,第三者機関への意見聴取など)にすることにより,認定後の収用の手続きを大幅に簡略化(事業認定に対する意見を封殺し保障金を手渡しから郵送で可)したことにある。改正後の最初のケースが,昨年8月から始まった圏央道裏高尾の都収用委員会公開審理である。これまで都収用委員会で行われた公開審理では,日の出の廃棄物最終処分場の審理時間は2年,圏央道あきる野では1年半かかった審理を裏高尾では半年で終えようとしている。その結果,一方的な開催日時の通告や事業に反対する権利者の陳述,とりわけ事業認定に対する意見陳述を大幅に制限するなど非民主的な審理進行に終始している。こうした強硬姿勢は,都政新報に掲載された都収用委員会事務局長談話にいみじくも現れている。「収用委員会は,これまで第三者機関としての性格が強かったが,今後は行政機関の一つとして事業者と連携して審理時間を半年程度に短縮するなど収用裁決を迅速に行なう」と述べている。

6 今後の課題は大きい

 良くも悪くも昨年は,道路問題をめぐる環境は大きく変わった。国民の意識も大きく変化している。道路公害に反対する住民運動は,これまでの建設に反対する運動から提案する運動へと大きな飛躍が求められている。創立30年を迎える道路公害反対運動全国連絡会の課題はますます大きくなっている。