〔3〕普天間基地爆音訴訟
普天間基地爆音訴訟弁護団


1 訴訟の進行状況
 2002年10月に提訴した普天間基地爆音訴訟は,その後,次のような進行状況をたどっている。

2003年2月20日初回弁論
4月14日2次提訴(原告204名)
6月12日第2回弁論(2次提訴分も併合)
9月25日第3回弁論
11月27日第4回弁論

 昨年報告したとおり,第一次提訴後も訴訟団の拡大を進め,第2次提訴にこぎつけることができ,原告数は総勢404名となった。今回の訴訟は,もともと防衛施設庁が線引きしたコンターでW値75以上の地域に居住している方々だけを原告とし,その他の地域の居住者は原告とせず,訴訟団員として訴訟を支援していただくというスタイルをとっている。普天間基地では,隣の嘉手納基地に比較してW値75以上とされる地域が極めて狭いため,原告希望者は多いが,居住地域が該当しないため訴訟団員にとどまっていただいている方が多い中,この運動が住民の中に広がりをもちつつあるということができる。
 ところで,前述の進行状況のとおり,提訴後1年以上経過しているにもかかわらず,まだ具体的な論戦が始まっていない。国はこれまで,認否の答弁と,基地周辺対策事業に関する施策の一般的な説明の準備書面しか提出せず,具体的な反論はまったく行っていない。
 このように進行が遅い理由は,同じ那覇地裁沖縄支部に係属している嘉手納基地爆音訴訟が結審間近で最後の攻防がなされているところで,合議体が1部しかない裁判所が同訴訟での多忙を理由になかなか普天間訴訟の期日を入れないことがある。嘉手納訴訟の結審後はもう少し迅速に進むものと見込んでいる。

2 被告普天間基地司令官に対する訴訟
 本訴訟では,米軍普天間基地司令官個人に対しても,その基地管理権に基づく違法な爆音被害の発生を理由として,損害賠償請求をしているところであるが,同被告に対する訴訟は,訴状未送達を理由としていまだ初回弁論さえ行われていない。
 これは,米軍が特別送達を拒否していることが原因である。裁判所は,数度に渡り,郵便でまた執行官によって特別送達を試みたが,いずれも普天間基地ゲートにて立ち入りと受領を拒否されて不奏功に終わっている。裁判所は普通郵便にて事実上訴状受領の督促をしたが,それについても無視されている。これに対して,弁護団では,訴状に記載した司令官の職場住所ではなく,居住している住所を調査すべく,那覇防衛施設局や在沖米軍司令部に弁護士法23条照会手続をしたが,前者は不知との回答で,後者は回答拒否であった。このため,他に手段がないことから弁護団としては公示送達の申立をしており,現在裁判所の判断待ちである。
 この点について米軍は,実質的には司令官個人ではなく米国政府を被告とするものだから,外交ルートによって送達すべきである,と極めて不当な主張をしている。
 民事裁判に関する送達については,実は日米地位協定の前身である旧行政協定時代に日米合同委員会において「民事裁判管轄権に関する事項」という合意がなされ,ここでは,日本の司法機関による民事裁判の送達については,送達官吏の基地内立ち入りに米軍が協力する旨合意されている。弁護団が在沖海兵隊司令部を訪問して同部の外交政策部長,法務部長との面談でこのことを確認しても,そのような合意は知らない,と答えるだけであった。日米地位協定の不平等性が今日大きく問題になっているが,米軍は協定に基づく合意さえ守っていないのが実態なのである。

3 普天間基地の爆音
 さて,今年は,訴訟が本格的に進捗する見込みだが,そこでの大きな課題の一つは,普天間基地特有の爆音被害をどう裁判所に伝えるかということである。
 沖縄県が最近実施した嘉手納基地,普天間基地周辺住民の健康調査によると,居住地域をW値によって区分して健康,生活被害を訴える住民の割合の統計をとったところ,普天間基地周辺では,嘉手納基地周辺に比べてW値で5ポイント低い地域で,同等の被害の訴えがみられる傾向にある。このことから,普天間基地周辺のコンターは,被害の実態を正確に表していないのではないかという疑問が生じる。
 普天間基地では激しいヘリコプター騒音が特徴であるが,ヘリコプターは固定翼機と比較して基地上空での滞空時間が一般的に長いこと,断続的な低音が発生し,爆音のエネルギー量としては固定翼機と比較して小さいことなどが指摘でき,これらの要素が,W値が低く出るにもかかわらず住民への被害が大きいことに関係していると思われる。これらの被害の状況について,どれだけ訴訟の場で明らかにできるか,が弁護団のこれからの大きな仕事といえる。