3 健康被害の立証では,4人の専門家証人の尋問のほか,騒音性聴力損失と診断された4人の原告本人の尋問も実施した。
まず,2002年11月には,武庫川女子大学教授(現京都大学教授)の平松幸三先生に航空機騒音の曝露の実態について証言して頂いた。証言は,ベトナム戦争時における騒音曝露状況の推定にはじまり,近年における騒音曝露の実態に及んだ。いずれも騒音性聴力損失の発症を認めるに十分な騒音の曝露があったことが明らかになった。
次に,同じく2002年11月には,旭川医科大学講師(現京都大学助教授)の松井利仁先生に沖縄県健康影響調査のうち,爆音のもたらす生活質・環境質の影響,幼児問題行動に関する影響,学童の記憶力に関する影響,自覚的健康観に及ぼす影響,血圧等への身体影響,低出生体重児の調査結果について証言して頂いた。いずれも航空機騒音による悪影響を明らかにしている。
また,2002年12月と2003年1月には,沖縄県健康影響調査において騒音性聴力損失と診断された原告本人4名に出廷して頂いた。この4名は,いずれも騒音の最激甚地区である北谷町砂辺の居住者である。各人がその生活歴をはじめ,騒音曝露の状況,聴力損失被害の実態について陳述した。これは嘉手納の旧訴訟では,かなわなかった立証である。
さらに,2003年3月には,沖縄県立中部病院の與座朝義先生に騒音性聴力損失の診断について臨床的見地から証言して頂いた。これにより,沖縄県健康影響調査において検出された12名の騒音性聴力損失が医学的・臨床的見地から裏付けられることが明らかになった。
加えて,同じく2003年3月には,京都大学名誉教授の山本剛夫先生に,12名の騒音性聴力損失と嘉手納基地の航空機騒音との因果関係について証言して頂いた。疫学的知見,騒音曝露の実態に照らした聴力損失の推定,他の騒音要因の検討などから,12名の騒音性聴力損失が嘉手納基地の航空機騒音によるものであることが明らかになった。
新嘉手納の訴訟団は,これらの立証を通じて,嘉手納基地の航空機騒音が基地周辺住民に聴力損失の健康被害をもたらしていることを立証できたと確信している。
そして,新たな健康被害の発生を阻止し,現に生じている被害の拡大を防止するため,少なくとも航空機の夜間早朝飛行の差し止めが必要不可欠である。
とりわけ,差し止めの法理論については,立命館大学教授の吉村良一先生の詳細な意見書を提出している。これによれば,新嘉手納基地爆音訴訟で,航空機騒音の差止判決を下すことは十分に可能である。
4 そして,2003年7月には,炎天下の中を2日間にわたり,検証が行われた。検証は,原告側の申請したW値95の北谷町砂辺,W値90の嘉手納町屋良,国側の申請したW値75の読谷村楚辺で行われた。
当日は,いずれの検証場所においても,嘉手納基地の米軍機が臆面もなく爆音をまき散らして飛行している状況を検証することができた。北谷町砂辺では最高で104dBを記録し,嘉手納町屋良では最高で83dB,読谷村楚辺でも最高で80dBを記録した。
5 さらに,2003年12月には,危険への接近として,国側が申請をした原告本人の尋問を実施した。
嘉手納基地周辺は,広大な土地を基地にとられ,どこに住んでも騒音から逃れられないという状況にある。また,親の実家の近くに家を建てたり,結婚を契機に引っ越してきたり,職場の近くに引っ越したり,というように皆あたり前の理由で転居している。さらに,転居先がこれほど騒音でうるさいとは思わなかったという者が大半である。国は騒音コンターを告示していないのであるから,転居先のW値など知る由もないし,仕事の合間を縫って休日に下見に行くため,騒音の実態を把握できないのはあたり前である。住んでみてはじめて騒音のひどさを実感するのある。国の主張する危険への接近の法理には,何らの道理もない。
国は,当初,危険への接近の法理が適用されるとして,129名の原告本人尋問を申請してきたが,弁護団は,対象とされた原告について,可能な限り転居理由の調査をして陳述書等を提出し,転居には合理的な理由があることを示して,最終的に98名の原告について本人尋問の申請を取り下げさせ,原告本人尋問の実施を31名にとどめた。本人尋問を実施することにより,その転居の理由が合理的なものであることがいっそう明らかになった。
6 現在,新嘉手納は,弁論終結に向けた最終準備にとりかかっている。今年中には判決が期待できる状況となっている。新嘉手納のスローガンである「静かな夜を返せ」を実現し,全国の他の基地訴訟団の力になればと願い、爆音のない日まで,ともに頑張る所存である。