日本環境法律家連盟の活動について
日本環境法律家連盟(JELF)  事務局長 籠橋隆明


2003年活動報告
1月11日第3回全国事務局会議(名古屋)
1月24日修習生合格者企画(東京)
1月25−26日「自然の権利」基金共催
『あらためて,「自然の権利」を考える』シンポジウム(東京)
1月31日修習生合格者企画+新人歓迎会(名古屋)
1月31日修習生合格者企画(大阪)
2月1日理事会(大阪)
2月6日修習生合格者企画(福岡)
2月7日修習生合格者企画(札幌)
3月22日学生対策『明日の法律家講座』(名古屋)
4月5−6日第8回総会+『よみがえれ有明!』シンポジウム+諫早湾現地視察(長崎)
4月17日JELF機関誌編集会議(東京)
5月9日修習生企画(和光)
7月18日第4回全国事務局会議(東京)
7月19−20日第4回環境サマーセミナー(東京湾三番瀬)
7月26−31日ジュゴン裁判第1回サンフランシスコ・オークランドミーティング
8月29−30日理事会+第3回全国公共事業・ダム訴訟交流会(近江八幡)
9月25日
(現地時間)
沖縄ジュゴンNHPA訴訟提訴
11月23−27日ジュゴン裁判第2回サンフランシスコ・オークランドミーティング

 日本環境法律家連盟は現在弁護士436人の会員で構成され,年間の予算規模も970万円となっている。専従スタッフ1名を置き,徐々に環境NGOとしての自立性を獲得してきたといってよい状態にある。

1 日本環境法律家連盟の理念

 日本環境法律家連盟は法律の専門家による環境NGOとして発足した。法によって環境保護運動を進めていくという我が国でもユニークな立場に立つ環境NGOである。そのよって立つ理念は環境的正義である。
 環境問題は個人の尊厳を維持するために不可欠な人の環境が侵害される時に生じる社会問題である。そこでの解決の基準は個人の尊厳を基本にした憲法の理念でなければならない。同世代間あるいは未来世代間との公平,社会の持続性,自然界との共生の思想は全て個人の尊厳とその実現の課題として理解される。法の支配実現を任務とし,その実行力を持つ我々法律実務家は環境保護運動に取り組む必然性を持っているし,環境保護運動の最前線に立つ必然性を持っている。また,法の支配が社会的な少数派のために機能しなければならないことを考えれば私たち弁護士が在野の立場に立って市民運動とともに活動を進めていくことがきわめて重要である。
 今日,アメリカによるイラク侵攻は強国による横暴が今なお地球上に存在することを明らかにした。戦争により人々の生命が失われ,個人の尊厳が傷つけられる過程で生じる都市や自然の破壊は人類が生み出した最悪の環境破壊である。我々の正義は戦争に対しても試されなければならない。
 日本環境法律家連盟は自然保護問題,開発環境問題,廃棄物問題を重要なテーマとして活動してきた。昨年度からは公害問題,原子力問題をもテーマとすることが決められた。

2 裁判,行政などの新情勢と課題

 現在各地で展開されている訴訟その他の事件は次の通り。自然環境の分野では現在公共工事が最も深刻な問題である。その多くが行政訴訟,住民訴訟によって争われている。
 これまで,国立市マンション事件,小田急高架事件,豊郷町事件,もんじゅ事件,ぽんぽん山ゴルフ場事件,川辺川訴訟,沖縄県ヤンバル訴訟など住民側勝訴の判決があいつだ。一方で,小田急高架事件については控訴審で住民側が敗訴し,徳山ダム事件についても住民側が敗訴する判決が出された。
 これら住民側勝訴の動きは決して個別の裁判所の個性が生み出した特殊な事例と見るべきではない。例えばもんじゅ事件に示された原告適格の拡大の流れは都市計画法,森林法に関する新は連にでも示されているように定着した流れになりつつある。しかし,一方で少なからぬ事件で行政追認型判決が続いている。
 現状は打ち破らなければならない壁があるも,変化の兆しが見え,大きな時代の大きな変化の始まりであると言える。この中で,訴訟の進め方,運動,法的理論,立法的課題と多くの全面的な展開が必要な時期になっている。そこで,連盟では今年度は行政訴訟全国交流会を開催する予定である。
 司法制度改革推進本部行政訴訟検討会では平成16年1月6日では「行政訴訟制度の見直しのための考え方」を発表した。同文書では同検討会がこれまで扱ってきたテーマ,原告適格,義務付け訴訟,差止め訴訟,資料開示制度,抗告訴訟の管轄権の拡大,出訴期間の延長,執行停止制度,など様々な議論が展開されてた。この意見を受けて今年度は3月ころから具体的な立法作業に入る見込みである。このテーマについても,環境保護の視点から市民の使いやすい行政訴訟を目指して活動を進める。

3 国際環境問題

 経済のグローバリゼーションの進展は多国籍企業による投資の自由を保障するものであることが明らかになっている。自由経済の名のもとの多国籍企業の活動の自由は国際的な貧富の格差を固定し,拡大するものである。環境問題は持続的社会の中で解決されなければならないものであるが,経済のグローバリゼーションは持続的経済を発展させようと言うローカルな努力を阻害するであろうし,途上国による自律した経済を作り上げる努力を阻害することになる。国際的な視点で見るならば貧困が途上国の環境を悪化させ,地球規模の環境的危機を引き起こしていることを考えれば,現在進行している経済のグローバリゼーションが地球環境に対し悪影響をもたらす危険性を持っていると言える。
 連盟はグローバリゼーションが生み出す弊害を直視し,個人の尊厳,社会的公正を求めた国際的運動とともに活動していく。連盟の活動の基本的視点は,個々の事件の解決の積み重ねによって,新しい国際秩序が作られていくというものである。連盟ではアジアの環境派弁護士のネットワークを作り上げると共に,国際的環境事件に取り組んでいく。具体的にはe-lawを中心に展開して,徐々にアジアのネットワークを整備する。ネットワークでは連盟発のアニュアルレポートを発する予定である。また,沖縄ジュゴン事件については米国NGOとの連携して,米国内で訴訟を展開している。これをさらに発展させて信頼関係を作り上げていくと同時に米国NGO内での信用を獲得していくつもりである。

4 大阪事務所の設立

 日本環境法律家連盟では今年度から大阪事務所を設立させることとなった。連盟ではかねてより現在の仕事量を名古屋だけで担うことができない状態になっており,今回の大阪事務所の設立は機能分担を図るものである。
 大阪事務所は連盟大阪支部という考えではない点が重要である。全国的なNGOには様々なタイプがあるが,通常は本部があって支部があるという放射型の組織であるが,今回の大阪事務所は名古屋にも本部機能があり,大阪にも本部機能があるという考え方に基づいた組織である。弁護士の場合,地域ごとの独立性が強いことや省ける労力に限りがあることから機能分担を行いつつ,各地の核となる組織が編め目のように相互に調和を果たしながら連携をはかっていくスタイルが当てはまる。これはちょうどいくつかのコンピュータに分散させて計算させ,全体的に統合するというのに似ている。どれもがメインな働きを行って全国に分散するコンピュータを利用するというのが今回の組織の設計思想である。
 大阪事務所では今後,法科大学院などの次世代養成,国際的ネットワーク,を受け持つと共に近畿の事件を受け持つ組織になるであろう。

5 公害弁連との関係について

 公害弁連と当連盟とは組織の考え方が大きく異なる。しかしながら,連盟は公害弁連の到達点に学びながら進む組織であることに変わりはない。
 時代の状況を適切に判断し,ダイナミックな方針を打ち出すことができる公害弁連の伝統は個々の事件を全面解決に導き出す蓄積の中で生まれている。そうした経験を連盟でも積み重ねるとともに,公害弁連との連携をはかって様々な企画を実施する。