【五】 2004年度 活動方針


[1] 大気汚染公害被害者の闘いを発展させ,裁判闘争の成果や裁判での前進を被害者の闘いに結合させて,大気汚染公害の根絶と,新たな被害者救済制度の確立をかちとる。
  1.  東京大気汚染公害裁判で,自動車メーカーの加害責任を裁き,面的汚染との因果関係を認める全面勝利判決をかちとるため全力をつくす。
  2.  西淀川・川崎・尼崎・名古屋南部判決と東京判決をテコに,自動車メーカー・道路管理者等汚染原因者の負担に基づく新たな被害者救済制度の確立に全力をつくす。
  3.  公害認定患者の等級切下げ,現行補償法改悪の動きに断固反対して闘うとともに,自治体レベルでの新たな被害者救済制度の確立のための取組みを強化する。
  4.  東京をはじめとした全国の大気汚染地域で,実態調査,被害者掘りおこしに取組むとともに,国,自動車メーカーなどを相手とした新たな調停,裁判の可能性を追求する。
  5.  東京都をはじめとする首都圏等自治体のディーゼル規制条例をテコに,国に対し,自動車NOX・PM法の抜本的強化をはじめとした自動車排ガス対策の強化を迫るとともに,自動車メーカーに対し,後付けの排ガス低減装置の開発・無償装着を求めるたたかいを強める。
  6.  尼崎での公調委あっせん成立を契機として,各地「連絡会」での実効性ある協議を推進し,大型車の交通総量削減をはじめとした抜本的対策の実現を追求する。
  7.  裁判闘争の成果をふまえて地域再生の課題に取組み,とりわけ環境教育,語り部活動を重視し,この点での国,自治体に対する要求実現行動にも取組む。


[2] 公害道路の建設強行を許さず,裁判闘争の成果をふまえて,道路行政の抜本的転換を求める。
  1.  各地の大気汚染裁判の前進をテコに,全国の道路反対運動との連携を進めて,交通量主義にもとづく道路建設至上主義の道路行政の抜本的転換のためのたたかいに取組む。
  2.  圏央道・名古屋環状2号・国道2号線高架道路をはじめとする環境破壊,公害拡大の道路建設の強行を阻止し,道路建設をめぐる裁判,調停でのたたかいを強め,道路計画の見直しを迫る。
  3.  「改正」土地収用法下での強引かつ非民主的な収用委員会審理に断固反対し,事業認定の違法を争わせない審理方式に対する批判を集中してたたかう。
  4.  国道43号線裁判の最高裁判決の成果をふまえて,道路騒音環境基準の見直しを求め,道路騒音・振動公害の根絶をめざす。


[3] 基地・空港などの騒音裁判に勝利し,基地,空港,新幹線などによる騒音・振動被害の根絶をめざすたたかいを強める。
  1.  新横田,小松,新嘉手納,普天間基地裁判において,差止請求を棄却・却下した最高裁判決の誤りをただす差止勝利判決をかちとるため全力をつくす。
  2.  新横田,新嘉手納,普天間基地裁判において,アメリカ政府及び基地司令官個人が裁判に応訴しないことを厳しく批判し,対米訴訟の訴えを却下する判決を覆すたたかいを強める。
  3.  国およびアメリカ政府に対し日米合同委員会における騒音防止協定遵守を徹底させるとともに,騒音コンターの縮小的見直しなど周辺対策の切り下げを阻止し,騒音発生源対策など被害そのものの縮小を迫る。
  4.  名古屋新幹線訴訟でかちとった「和解協定書」にもとづき,発生源対策を一層強化させ,JR,国交省,環境省などに対し,新たな被害の発生,拡大を許さないたたかいを強める。
  5.  「基地公害の根絶は基地の撤去から」という立場から,沖縄県民の基地撤去のたたかいを支援する。


[4] 水俣病の医療対策の継続・充実や水俣病の裁判を世界に伝えるたたかいに取組む。
  1.  「総合医療事業」の内容の充実・継続を求めて,引続き取組みを続ける体制を確立する。
  2.  水俣病闘争の教訓と歴史を逆流させる動向を中止し,「水俣病を繰り返すな」の正しい教訓を国内外に広める活動を引続き取組む。
  3.  他団体との共闘をはかり,民医連,保険医協会などの医療機関をはじめ,広範な医師,研究者との共同の関係を引続き強め,水俣病医学の確立と住民の医療要求の実現をめざす。
  4.  不知火海沿岸,阿賀野川流域の汚染地域の再生,復興,街づくりの課題に,加害企業の責任・水俣病の根絶を明確にする立場から積極的に取組む。
  5.  WHOの動向監視,世界各地の「水俣病」の告発をはじめとして,長期微量汚染問題の危険性など水俣病被害者の救済の国際的世論をまき起こす活動を引続き追求する。


[5] カネミ油症などの食品公害やスモン・ヤコブなどの薬害被害者の恒久対策と医療の充実をめざすたたかいを進める。
  1.  薬害ヤコブ病の全面救済をかちとるとともに,薬害根絶,再発防止のための制度確立のため全力をつくす。
  2.  カネミ油症被害者が安心して治療,療養を受けながら生活を送れるよう,カネミ倉庫はもちろん,国に対して行政上の措置をとるたたかいを強化する。
  3.  スモンの全面解決をふまえて,健康管理手当の増額要求を含む薬害エイズの運動とも連帯して,薬害根絶の運動を発展させる。
  4.  カネミ油症,スモン,エイズ,ヤコブなどの治療法の研究開発を進める要求を支持し,難病対策の充実を求める運動を支持する。
  5.  医療品副作用被害救済・研究振興調査機構制度の充実,改善をめざす。
  6.  食品の安全性を求めるたたかいを消費者,農民とともに協力してたたかう。食品の安全性を確保する法制度の改善をめざし,食品衛生法などの改正を求めてたたかう。


[6] 神通川流域,安中公害など各地の重金属による汚染の監視を強め,汚染土壌の復元のたたかいを前進させる一方,市街地土壌・地下水汚染問題に取組む。
  1.  神岡鉱業所,東邦亜鉛安中精錬所での公害防止協定に基づく立入調査を引続き成功させ,周辺での環境調査と合わせて発生源対策の一層の強化をはかっていく。
  2.  神通川流域,安中の土壌復元事業を,加害者負担の原則を貫かせながら促進する。
  3.  イタイイタイ病患者の認定促進,被害者の行政不服審査請求のたたかいを支援する。カドミ腎症の人体被害の研究を進め,環境省の調査研究を引続き監視していく。
  4.  イタイイタイ病の原因論争の蒸し返しに反撃し,重金属による人体被害,農業被害についての科学者との学際的協力を重視していく。
  5.  市街地土壌・地下水汚染問題に取組み,真に実効性のある土壌汚染対策法の制定をめざす。


[7] 自然・環境破壊の公共事業に反対するたたかいを強化し,大型公共事業の中止・見直しを迫る。
  1.  よみがえれ!有明海訴訟に勝利し,有明海の再生をかちとる。
  2.  川辺川新利水計画を農民の参加の下で策定し,川辺川ダムの建設中止をかちとる。
  3.  自然・環境破壊の公共事業廃止のたたかいに取組み,道路建設反対とのたたかいとも連携して,大型公共事業の差止・見直しを迫る。


[8] 日韓公害・環境シンポ以降の前進をふまえ,韓国・中国をはじめとしたアジア諸国との広範かつ実践的な交流を強化する。


[9] 官僚司法を打破し,国民のための司法改革運動を進め,非人道的な長期裁判に反対し,公害被害者の早期救済と公害根絶に役立つ勝利判決をかちとるたたかいを法廷内外で展開する。
  1.  公害訴訟の提訴を困難にする弁護士費用敗訴者負担制度の導入を断固阻止する。
  2.  国民主権に根ざした,司法の行政に対するチェック機能の抜本的強化をはかるため,行政訴訟改革への取組みを強める。
  3.  法曹一元や陪参審制などの国民の司法参加をめざす。
  4.  最高裁の行政追随,大企業擁護の姿勢を糾弾し,最高裁による公害裁判への介入である裁判官協議会に断固として反対し,国民的世論に広く訴えていく。
  5.  裁判所の異例な人事政策や判・検事交流の実態を明らかにし,広く国民に知らせるとともに,裁判所をして国民の権利擁護の立場に立たせ,正義と公平を実現させるための本来の姿を堅持させるよう裁判所の内外での努力を強めていく。
  6.  「生きているうちに救済を」という公害被害者の切実な要求を実現させるために,公害裁判の長期化に断固として反対し,公害被害者の早期救済,全面解決の早期実現の必要性を裁判の内外で常に訴えて,あらゆる公害裁判での早期結審・判決の実現に努力する。
     訴訟救助の引延ばしや不要な資料の提出命令などは裁判の長期化につながるという立場で反撃する。
  7.  公害被害などの事実を正確に裁判に反映させる速記官制度を廃止させる動きに対しては,断固としてたたかっていく。
  8.  公害裁判の中で,加害企業,行政の立場を批判するとともに,裁判所の公害被害者の立場を理解しない訴訟指揮については断固として反撃する。
  9.  被害者とともにたたかう公害弁護団として,日常の法廷で加害者を圧倒する活動を展開する。
  10.  政策・計画アセスメント法制定のためたたかうとともに,地方自治体において実効ある環境アセスメント条例の制定をめざす。


[10] 国際的視野から地球環境の破壊に反対し,環境保全のために被害者・住民・専門家などの諸団体との提携を強め,環境保全の課題の基本は現在の公害被害者の救済と,公害根絶に努力するところにあることを広く国民に訴えていく。
  1.  環境保全は国民的課題であるとの観点で,地球環境保全の様々な取組みに積極的に参加するとともに,わが国の公害被害者の救済と公害根絶の課題を達成することこそが地球環境保全の基礎であることを広く訴える。
  2.  地球温暖化問題では,京都議定書の完全実施に向けて,政府,自治体,企業にそのための施策を実施させるたたかいを強力に進める。
  3.  国内外の公害・環境破壊反対の運動や,団体との連携を強め,多くの公害被害者や運動体と連帯し,全国的,地域的ネットワークづくりを含め,創意をこらし多種多彩な行動に積極的に取組む。とりわけ,日本環境法律家連盟との連携を強め,自然環境保全の運動を支援する。
  4.  第29回環境週間・公害被害者総行動デーの成功のために積極的に参加し協力する。
  5.  被害住民,医師,科学者などの専門家などと連帯して,公害被害者の発掘に努め,加害者の責任を明確にし,公害反対運動の実戦的理論の確立,被害者救済と公害根絶の推進に努力する。
  6.  公害根絶と被害者救済に関する法制度の拡充,強化をめざし,公害問題に関する立法,行政,地方自治行政などに対する提言・申入れを積極的に行っていく。
  7.  知る権利を具体化した情報公開法の実現,環境権,人格権の尊重の原則の法制化,自然の権利の確立のために,積極的に取組む。


[11] 廃棄物問題,ダイオキシンなどの環境ホルモン汚染問題への取組みを強め,「ゴミ弁連」との交流を進め,住民団体の活動を支援する。


[12] イラクへの自衛隊派遣と憲法9条改悪に断固反対し,平和条項を守り発展させる運動に飛躍的に取組む。
  1.  戦争は最大の環境破壊をキーワードに,米国のイラク侵略戦争と自衛隊のイラク派遣に断固反対し,とりわけ,劣化ウラン弾,クラスター爆弾などの残虐兵器の使用を許さないたたかいに取組む。
  2.  憲法前文,9条改悪のたくらみを断固許さず,平和条項を守り発展させる運動への取組みを強化する。
  3.  戦争のための環境破壊を容認する有事立法に断固反対する。


[13] 公害弁連の組織,体制など
  1.  幹事会への参加を強めて,その内容を充実させ,各弁護団がかかえている課題,問題点を明確にし,共同の討議を通じて理論的・実戦的水準を一層引き上げていく。
  2.  各公害の分野別の弁護団の交流を積極的に進めるとともに,公害弁連の担う課題,任務分担を明確にさせて,総合的なたたかいを進めていく。
  3.  宣伝活動の強化,充実
     公害弁連ニュースの定期発行,通信の随時発行,公害弁連ホームページの充実,法律雑誌への投稿,パンフレットなどによる宣伝を強める。
  4.  組織,財政の拡大,充実
     新規加入弁護団の増加をはかり,財政の確立に向けて,抜本的な改革を検討する。
  5.  役員・事務局体制の確立
    イ 幹事会の充実
    ロ 事務局次長の任務分担の明確化
    ハ 事務局会議の充実