第三 公害裁判の前進と課題

四 廃棄物問題のたたかいの前進と課題


1 廃棄物処理法改正と産廃特措法制定

 2003(平成15)年6月,廃棄物処理法が改正されるとともに,特定産業廃棄物の支障除去特別措置法(産廃特措法)が成立した。
 前者は,不法投棄未遂罪の新設,罰金額の1億円までの引き上げなど廃棄物の不法処理防止対策を強化することを内容としている。この改正では,自治体の処理が難しいスプレー缶や消火器などについてメーカーによる引取義務を盛り込み「拡大生産者責任」の導入することを目指していたが,産業界の反対が強く実現しなかった。後者は,産業廃棄物の撤去費用を国庫補助と地方債でまかなうことを目的としたもので,10年間の時限立法とされ,青森・岩手県境で発生した不法投棄事件などへの支援が検討されている。
 また,同年2月から,土壌汚染対策法が施行された。この法律は,工場跡地などでカドミウムなどの有害物質で地下水や土壌が汚染され,人の健康に被害を与えるおそれがある場合,都道府県知事が土地所有者らに汚染土壌の除去を命じることが出来る内容となっている。しかし,汚染者の特定や除去費用の負担などについて多くの課題が残されている。

2 ダイオキシン類の排出規制と排出量

 2002(平成14)年12月から,廃棄物焼却施設から排出されるダイオキシン類の規制が強化された。環境省は,1997(平成9)年のダイオキシン類の国内排出量は最高8135グラムであったが,2002(平成14)年には970グラムとなり,2003(平成15)年の予測値は756グラムとしている。その結果,2003年に1997年比で9割削減の目標を達成できる見通しになったとしている。
 今後,規制強化に伴って廃止された焼却施設の解体をどのような方法で行うかが問題となり,ダイオキシン類の2次汚染を防止する労働者向けのマニュアルの作成などが急務となっている。

3 自治体の産業廃棄物対策

 2002(平成14)年4月,三重県が全国に先駆けて産業廃棄物税(産廃税)を導入したのを皮切りに,2003(平成15)年4月には,中国3県(広島,岡山,鳥取)で,同年10月には北九州市でも環境未来税の名称で導入された。2004(平成16)年1月からは,東北3県(青森,岩手,秋田),近畿2県(滋賀,奈良)でも導入され,検討中の九州8県などを含めると,産廃税導入の動きは全国に広がりつつある。産廃税は,財源難に直面した地方自治体の増収対策の一環として導入されたが,排出業者が廃棄物の排出量を削減する効果が徐々に現れており,廃棄物の減量対策としての側面が注目されている。
 しかし,九州では,最終処分場に対する課税だけを検討している熊本県と,最終処分場だけでなく中間処理施設にも課税を検討している他の7県との間の調整が難航しており,徴収方法などの統一が課題になっている。

4 RDFと硫酸ピッチ問題

 2003(平成15)年8月,三重県多度町のごみ固形化燃料(RDF)発電所の燃料貯蔵サイロが爆発し,消防士2名が死亡する事故が発生した。
 RDFは,ごみを砕いて乾燥させ石灰を加えて圧縮した棒状の固形物であるが,高温で安定的に燃焼することが可能なためダイオキシン類の発生も少ないとされ,石油に変わる燃料として期待されていた。
 ところが,事故後,環境省が実施した全国調査の結果,不完全燃焼で発生する一酸化炭素や微生物の活動で発生する可燃性のメタンガスの計測器がない施設が大半であることが明らかになった。RDFの製造方法や関連施設の安全基準を抜本的に見直す必要性がある。
 硫酸ピッチは,軽油の密造過程で発生するタール・液状の物質で,水と触れると有毒の亜硝酸ガスが発生し,やけどや失明のおそれがある。未処理のままドラム缶に入れて不法投棄され,野放しの状態が続いている。
 硫酸ピッチ問題を解決するためには,不正軽油対策を講じることが根本対策であるが,硫酸ピッチの生成・保管を禁止する法整備が急務である。

5 各地の闘いの成果と課題

 2003(平成15)年1月,所沢市などの住民が,埼玉県と焼却施設設置業者を相手取って起こしたダイオキシン公害調停事件が終了した。四年間の闘いで,埼玉県と35社との調停は不調に終わったが12社との調停が成立し,所沢市周辺の焼却施設が急減して一定の環境改善が図られた。
 また,同年9月,大阪府能勢町の豊能郡美化センターに勤めていた元従業員が国,大阪府や焼却施設製造メーカーなどを相手取って起こしていた損害賠償請求訴訟で,製造メーカーが解決金を支払う内容の和解が成立し,元従業員の救済が実現した。
 同年3月には,長野県伊那市の焼却施設(長野地裁飯田支部),福岡県椎田町の最終処分場(福岡地裁小倉支部),6月には,愛知県立田村の焼却施設(名古屋地裁),茨城県水戸市の最終処分場(水戸地裁)などで建設・操業を差し止める裁判を住民が勝ち取っている。
 これまで安定型処分場,小規模な産廃焼却施設については,住民勝訴の事例が積み重ねられてきたが,管理型処分場及び大型焼却施設(特に事業主が自治体ないし第三セクターのもの)については,依然として住民の申立てが退けられており,ダイオキシン類・環境ホルモンなど微量汚染による将来の被害の蓋然性を立証することが課題となっている。