第三 公害裁判の前進と課題

六 国際交流の前進と課題


 2003年は、これまで公害弁連が築いてきた国際連帯の絆を、一層強め、深める年となった。
 2003年4月、ソウルで検討されている大気汚染訴訟の準備のため、韓国の弁護士、環境団体スタッフが来日し、東京大気汚染訴訟弁護団を中心に、情報交換を行なった。これまでの韓国との交流活動を通して形成された相互信頼を土台に、具体的訴訟実務についてまで、交流が深まりを見せはじめた。
 2003年7月、韓国の環境保護団体「グリーン・コリア」を通し、韓国の司法修習生7名が、公害訴訟をテーマとする日本での「専門機関研修」のために来日し、公害弁連がこれを受け入れた。7名は、高尾天狗裁判、東京大気汚染訴訟、新横田基地訴訟、西淀川大気汚染訴訟、尼崎大気汚染訴訟、淀川保全活動等の現場を歩き、多くの弁護士、被害者と交流し、今後の韓国での公害問題への取り組みや、日韓交流への意欲を胸に帰国した。
 2003年9月、日本環境会議滋賀大会に中国、韓国から弁護士らが来日した機会をとらえ、公害弁連が主催して、「中日韓の公害被害者救済に関する懇談会」を開催した。そこでは、それぞれの国における公害被害者救済の最新の情報が交換され、この分野での活動で多くの経験を蓄積している公害弁連への関心と期待が寄せられた。
 2003年11月、公害弁連は、国際交流活動をさらに推進するための財政的基盤を確立するため、「公害弁連国際交流基金」を発足させることとした。公害弁連ニュースを通したカンパの呼びかけに多くの弁護士、学者、被害者が応え、約50万円の募金が寄せられた。 そして、2004年3月の公害弁連総会にあわせ、第2回環境紛争処理日中国際ワークショップを開催することとなり、一層の連帯強化のための取り組みが進められている。
 言うまでもなく、公害、環境問題は、全人類的課題である。特にアジアでは、急激な工業化、自動車交通の増加、日本の公害輸出、各国の経済成長優先政策等により、深刻な被害が発生して来ている。これに対し、各国では、環境保護、公害被害救済を目指す市民、法律家が立ち上がり、エネルギッシュな活動を展開している。
 日本は、戦中、戦後の歴史を通し、アジアの政治、経済、社会の健全な発展を阻害し、環境破壊、公害被害の発生を助長してきた。公害弁連は、単なる地球村の一員としての責任にとどまらず、これらの歴史を踏まえた責任を、アジア諸国に対して負っている。
 環境保護、公害被害救済を目指して立ち上がった各国の市民、法律家との連帯をいかに広げ、深めるのか、2004年も公害弁連の旺盛な取り組みが求められている。