第三 公害裁判の前進と課題

第四  公害弁連の今後の方向と発展について
― 公害被害者の早期救済、公害根絶とともに、新たな環境問題への取組みの強化と司法改革運動の前進をめざして ―


一  公害被害者の早期救済と公害根絶のたたかいのさらなる前進を

 各地の大気裁判での勝利和解をふまえた「連絡会」を中心とするたたかいでは、尼崎での公調委あっせん成立を契機に連絡会における実効性ある協議の条件が生まれているが、一方で、国は、交通量削減の目標値設定をあくまで拒否していることに象徴されるように道路政策の抜本的見直しにつながる形での協議を極力避けようとしており、川崎では和解条項の中の「道路ネットワーク整備」にかこつけて、臨海部再開発とからめた新たな道路建設を打ち出そうとしている。これらの動きに対しては、道路政策の見直しを求めてたたかう道路建設反対のたたかいとの連携が重要となっている。
 これに関連して道路公団民営化論議のもとでの無駄な道路建設に反対する国民世論の高まりに対抗するように、公害拡大、環境破壊の道路建設がますます急ピッチで強行されようとしており、改「正」土地収用法下で初の審理となっている圏央道裏高尾にみられる強引な手法、とりわけ事業認定の違法を争わせない審理方式に対しては重視をして徹底した批判を集中していかなければならない。公害弁連としては、圏央道裏高尾、あきる野をはじめ広島国道2号、名古屋環状2号など幹線高速道路建設に反対するたたかいが進められているが、個々の取組みを強化することはもちろんとして、大気汚染訴訟の各地連絡会のたたかいとの共同のたたかいを追求し、道路行政の抜本的転換を求める全国的取組みを組織していくことが求められている。
 一方、大気汚染による被害者の新たな救済制度創設を求めるたたかいでは、東京において都に医療費救済を求める取組みが展開されており、この中で都税調が都独自でのメーカー課税を打出すなどの前進面も生まれているが、18歳未満対象の現行条例をめぐる「総合的見直し」の動きとも相まって、たたかいが重要な局面を迎えている。この点では、川崎でも、市に対して医療費救済を迫る取組みが展開されているが、大気連をはじめとする全国の大気のたたかいが連携して国・自治体の双方に対して救済制度を求めるたたかいを抜本的に強化すること、そして各地で実態調査をはじめとした被害者掘りおこしに取組むとともに国・自動車メーカーを相手とした新たな調停・裁判の可能性を追求することが求められている。
 また自動車排ガス公害根絶の課題では、この間のディーゼル車対策共闘会議の取組みによって後付けの排ガス低減装置の開発をサボタージュしながら買換え特需による利益をあげる自動車メーカーの責任が浮きぼりとなっており、本年(2004年)2月には、ディーゼル総行動によるトヨタ本社攻めも取組まれた。この点でユーザーとしての立場もふまえた自動車メーカーに対するたたかいを強化して実効性あるディーゼル規制を実現していく取組みが重要となっている。
 ところで基地騒音関係では、差止めの課題が重要であり、騒音性聴力損失という人体被害との因果関係立証に精力的にと組んだ新嘉手納基地爆音訴訟において何としても差止め勝訴をめざすとともに、基地司令官個人を被告とした普天間基地爆音訴訟で、司令官に対する公示送達が認められたのを突破口に対米訴訟の前進をはかっていくことが求められている。一方、国は、新横田第一審判決が国の主張する免責型の危険への接近論を認めたことから、これを他の訴訟にも持込もうとしており、また、「公平補償を求める運動」を口実に騒音コンターを見直し、賠償額の減額をはかろうとする動きがあり、警戒する必要がある。
 また薬害ヤコブのたたかいでは、この間被告企業の妨害をはねのけ、次々と和解成立をかちとってきているが、硬膜移植から発症まで20年をこえるケースもあることから今後の発症の可能性もあり、サポートネットワークを中心とした相談活動を重視して、引続き潜在患者の掘りおこしに取組んでいくとともに、患者家族と遺族のサポート活動を充実強化していく必要がある。

二 公害弁連のたたかいの経験をふまえて、新たな取組みの強化を

 財政赤字がいよいよ深まる中で、環境破壊をもたらす無駄な公共事業の見直しを求める動きが加速している。この点で昨年(2003年)5月16日の福岡高裁判決と国の上告断念により利水目的を喪失した川辺川ダムをめぐって、土地収用法による漁業権の収用裁決申請を取下げさせた上で、新河川法に基づいて流域の住民の意見を反映させたダムに依拠しない治水計画を立てさせ,川辺川ダム計画自体の中止を現実のものとするたたかいが求められている。そして、諫早湾干拓をめぐるたたかいでは、本年(2004年)3月にも予想される「よみがえれ! 有明海訴訟」仮処分決定で勝利を獲得し、これをテコに諫早湾干拓工事を中止させるとともに有明地域の漁民・農民・住民の総力を結集し、全国の世論の力を支えに有明海の再生をはかる取組みに全力で取組まなければならない。自然・環境破壊の公共事業をめぐっては、環境法律家連盟が先進的な活動を展開しており、公害弁連としてもこれに学びつつ具体的なたたかいに取組んでいきたい。その際、同じ公共事業である道路建設反対のたたかいとも連携を強めて、全体として公共事業見直しを迫っていく取組みを進めることが重要である。
 また、廃棄物問題をめぐっては、2003年9月大阪市能勢町の美化センター元従業員がおこした損害賠償請求訴訟で、焼却施設製造メーカーが解決金を支払う和解が成立する一方、昨年(2003年)も、長野県伊那市、愛知県立田村の焼却施設や福岡県椎田町、茨城県水戸市の最終処分場などで建設・操業を差止める勝利をかちとっている。しかし、自治体ないしは第3セクターが事業主となる管理型処分場および大型焼却施設については、いぜんとして住民の申立てがしりぞけられており、ダイオキシン類・環境ホルモンなど微量汚染による将来の被害の蓋然性を立証することが重要な課題となっている。なお、昨年(2003年)8月、三重県多度町で、ゴミ固形化燃料(RDF)発電所の燃料貯蔵サイロが爆発し、消防士2名が死亡する事故が発生した。今後RDFの製造方法や関連施設の安全基準を抜本的に見直す取組みが必要となっている。
 ところで従来からのたたかいを強化しつつ、さらにこうした新たな公害環境問題への取組みを行っていくためには、公害環境裁判に取組む若手弁護士を確保し、同時に交流を進め、蓄積されてきた経験や知恵を継承する努力を行うことが不可欠である。その点では、2000年から環境法律家連盟と共催で修習生向けの環境セミナーを開催しているが、こうした活動をいっそう重視し前進させる必要がある。

三 公害地域再生のたたかいの前進を

 従来,公害弁連の主力であった水俣,新潟水俣や,西淀川,川崎,倉敷,名古屋では,裁判の解決後,新たな課題として公害地域の再生に取組んでいる。いずれの地域でも裁判当時と比べて大きくウイングを拡げて,従来接点のなかった地域組織・市民さらには自治体とも共同しながら,地道な活動が展開されている。そして地域再生の取組みの中で,環境教育,語り部活動が重視して取組まれている。公害弁連としても,こうした活動の経験交流の場を設けるなどして,さらなる取組みの強化をはかるとともにこれを通じて国,自治体に対する要求を整理して,全国公害被害者総行動などにつなげていくことが重要である。

四 アジア諸国との交流、地球環境問題でも取組みの強化を

 発展途上国、特にアジアでは、急激な工業化、自動車交通の増加、日本の公害輸出、各国の経済成長優先政策等により、深刻な被害が発生してきている。これに対し、各国では、環境保護、公害被害救済をめざす市民、法律家が立ち上がり、エネルギッシュな活動を展開している。
 環境保護、公害被害救済を目指して立ち上がった各国の市民、法律家との連帯をさらに広げ、深めていくことが求められている。この点で2002年8月に実施した「日韓公害・環境シンポジウム」を契機として、昨年(2003年)は、ソウルで検討されている大気汚染訴訟の準備のため韓国の弁護士、環境団体スタッフが来日し、東京大気汚染訴訟弁護団との間で実践的な情報交換が行われる一方、日本環境会議滋賀大会に際して、中国・韓国からの弁護士などと、「中日韓の公害被害者救済に関する懇談会」を開催、公害弁連総会にあわせて「第2回環境紛争処理日中国際ワークショップ」を開催し、また3年目を迎えた韓国司法修習生の受け入れもより組織的かつ充実したものとなった。こうした活動の前進をふまえて、国際交流活動のさらなる推進のために、「公害弁連国際交流基金」を発足させ、カンパを募っているところであるが、今後さらに広範かつ実践的な交流の強化が課題となっている。
 一方、温暖化問題など地球環境問題への取組みも重要であり、2004年度は,政府の「地球温暖化対策推進大綱」の点検の年にあたっており,温暖化対策と大量生産社会からの脱却に反対する勢力の,点検を骨抜きにする構えを断固許さず,不況下にもかかわらず排出増が続いている我が国の現行政策の抜本的転換をはかっていく取組みが求められている。