水俣病訴訟報告
水俣病訴訟弁護団


1 水俣病認定をめぐる現状
 1995年12月の水俣病政府解決策以降,水俣病患者認定申請件数は大きく減ってきた。こうした中で,2003年3月,熊本県は水俣病の認定審査でこれまで「特別な事情にある者」として処分を棚上げしてきた申請者27人の処分を行った。

認定0件
棄却19件
(水俣2次2人・関西水俣4人)
保留8件
(水俣2次1人・関西水俣4人)

 その結果,水俣病認定申請の処分状況 (平成15年12月22日現在,熊本県関係分)は次の通りである。

申請数13210件
棄却11413件 
認定1775件
未処分22件  

 また,昨年末,行政不服審査請求をしている県の棄却処分を不服として,上級庁(国の審査会)に裁決を求めた行政不服審査請求は,次の通りである。

熊本県32件
鹿児島県40件
新潟県2件


2 水俣病第2次訴訟原告に対する新たな切捨て
 水俣病被害者の会は,2003年3月3日,直ちに熊本県に抗議し,水俣病第2次訴訟で福岡高裁から水俣病と認定された2人を棄却する処分をした県に対し異議申し立てを行った。
 政府(環境省)は,1995年12月の政府解決策において,すでに裁判で水俣病とされた水俣病第2次訴訟原告(1985年判決確定)を解決の中から排除した。当時,水俣病全国連は水俣病患者には一時金のほかに治療費や定期金が必要であり,水俣病第2次訴訟原告はこうした解決を求めているから,差別しないで政府解決策の中に入れるべきであると要求した。
 しかし,政府が排除の方針を撤回しないので,やむなく認定申請手続きを継続してきた。水俣病認定申請をしたものは,「治療研究事業」で認定申請中に治療費と健康管理手当を受給することが出来たので,事実上,一定の解決が出来てきた。
 これに対し,熊本県はこれまで水俣病第2次訴訟原告について「特別な事情にあるもの」として処分手続きを進めないまま棚上げにしてきたものである。しかし,熊本県は認定申請中の患者が2ケタ台になった時点で,認定処分を強行することに方針転換をした。
 これに対し,水俣病被害者の会はこうした熊本県の処分に対して,(1)水俣病と認めた司法の判断を全く考慮していない,(2)今回の処分まで20年以上も放置した責任を追及する立場から,異議申し立てを行った。
 今回の熊本県のやり方は,裁判所が水俣病とした二次訴訟の原告に対する医療費などの補償を解決する立場ではなく,水俣病患者を切り捨てる立場に立つものであり絶対に許してはならない。
 なお,水俣病関西訴訟原告で,チッソとの関係では裁判所で水俣病とされ判決が確定した水俣病患者に対しても,熊本県は同じような方針で臨み,認定申請を棄却している。関西訴訟大阪高裁判決は判決の中で行政認定の水俣病と若干異なる司法認定の水俣病として判断をし,同原告の中で検診拒否などもあるが,基本的には水俣病で第二次訴訟と同じような構造を持つ問題である。
 われわれは,最後の一人の水俣病患者の切り捨ても許さないとする立場からこの問題を解決していかなくてはならない。

3 水俣病総合対策事業の現状と課題
 政府(環境,総務,財務の各省)は,公害健康被害補償給付支給に伴う事務費交付金(事務費交付金)が公害健康被害補償法(公健法)施行に伴って創設され,県の水俣病関連の事務経費などに充てられていたにもかかわらず補助金廃止などを盛り込んだ政府の三位一体改革の中で,同列に扱い廃止・一般財源化の対象に位置付けられようとしたものである。
 これに対して,水俣病被害者の会全国連絡会は,水俣病患者連合,水俣病患者平和会とともに各省に対し「水俣病を含む公害の責任は行政にもある。事務費交付金の廃止は被害者の生活を脅かし,公健法の否定にもつながる」と廃止対象から除外するよう申し入れ,政府の方針を変えさせたものである。

4 水俣病の教訓を伝えていく活動
 水俣病の闘いの教訓を伝えていく活動は次のように続けられている。
 熊本のノーモアミナマタ公害環境基金は2003年4月30日,第6回ノーモアミナマタ環境賞を,胎児性水俣病患者らが集う水俣市の共同作業所「ほっとはうす」(加藤たけ子代表),東京都の「高尾山の自然を守る市民の会」(橋本良仁代表代行),「鹿児島・渚(なぎさ)を愛する会」(福田正臣代表)の三団体に授賞した。
 特に,「市民の会」は首都圏中央連絡自動車道による破壊から高尾山の自然を守る闘いを展開しており,水俣と道路を結ぶ大きな架け橋となった。
 なお,京都では,京都消費者団体連絡協議会(京都市)が授賞し,新潟では新潟県自然観察指導員の会(新潟市)が受賞した。

5 水銀の長期微量汚染をめぐる状況
 2003年6月,世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)の合同専門家会議(JECFA)は,メチル水銀の一週間あたり摂取許容量を従来の半分以下に引き下げると決めた。これに対して,同年7月1日水俣病被害者の会全国連絡会は国の適切な対応を求める声明を発表したが,政府はこれを無視し国内の基準や対応変えていない。
 しかし,世界規模で問題になっている水銀の微量汚染について,国がこれまでの無策を猛省することが今後の対応の出発点で,水俣病の経験を生かす道である。50ppm以下でも長期に汚染を受ければ水俣病を発症することは1970年代から汚染されたカナダ先住民の例からも明らかである(原田正純・藤野糺らの2003年9月調査)。
 今後,リスク評価を諮問された食品安全委員会の審議で(1)国からの十分な資料提供,審議情報の同時進行での公開(2)参考人として水俣や新潟の医師からの意見聴取(3)説得力のある基準設定させていくことが必要である。