みずしま財団の課題と展望
塩飽敏史(みずしま財団)


1 はじめに
 財団法人水島地域環境再生財団(通称:みずしま財団)は,1996(平成8)年に勝利・和解した倉敷市公害訴訟の和解金を基に,公害地域の環境再生を目指して2000(平成12)年3月に岡山県の許可を受けて設立された。
 そのため,みずしま財団では,「子や孫にはより良い環境を手渡したい」という公害患者の願いを受けて,水島地域の環境再生,活性化のために,以下の3つを柱に活動を行っている。
  1.  環境再生・まちづくりの活動
  2.  コンビナート周辺の環境改善に関する調査研究の推進
  3.  公害被害に関わる体験や教訓を活かす活動
 財団も設立からこの3月で4年を経過し,財団設立当初に設定した短期事業計画を総括し,今後の中長期事業計画の見直しが必要となっている。そこで,財団のこの4年間の活動を振り返るとともに,その課題と展望について考えたいと思う。

2 環境再生・まちづくりの活動
 公害被害地域の環境再生において,財団では,まず地域を知る基礎的な調査を市民参加によって行うことで,基礎的な知見の獲得・蓄積を図りつつ,人材育成・人的ネットワークの形成をはかることとした。
(1) 八間川をシンボルとした環境再生活動
 市民参加による地域の環境再生活動として,水島地域の中心を流れる八間川を人々が憩える親水空間とするための調査活動を行っている。1999(平成11)年から年4回,生物調査,水質調査等を,市民を中心に大学・高校教員の協力を得て行い,記録は毎回全員で共有している。その他,毎回調査とは別に企画を組み,専門家による講座,ワークショップ,ゴミ拾い等を行うことで市民により高い意識を持ってもらうと同時に,行政に対してもこれまでの調査結果を元に要望書の提出等を行った。
(2) まちおこし「こだわり衆」の組織
 2002(平成14)年度事業として,倉敷市公害患者と家族の会を対象に全3回のエコクッキング教室を,地元の特産品である「レンコン」を活用し,地産地消と環境に優しい料理をテーマに開催した。開催にあたっては,地元JA女性部,医療生協の協力を得た。
(3) 水島地域再生計画の検討
 水島再生研究会を1999年〜2001年にかけて7回開催し,地域再生の課題を整理したが,マスタープランの作成には至っていない。その他,基礎知識の蓄積を目的として,居住福祉についての学習会や,公共交通の取り組みにも参加した。

3 コンビナート周辺の環境改善に関する調査研究の推進
(1) コンビナート周辺の環境改善に関する調査研究
 1999(平成11)年度環境庁(現環境省)請負業務として水島地域内の緑地における樹木のCO2吸収量調査を行い,コンビナートから排出されるCO2量と比較し,その結果を元にシンポジウムを開催した。これに基づき,温暖化防止用学習教材「温暖化の危機から地球を守る」を作成し,中学校の「総合的な学習の時間」等で活用してもらった。
 その他,「倉敷市・資源循環型廃棄物処理施設整備運営事業」,「公共関与臨海部新処分場整備事業」等の事業に対して,調査研究を行うと同時に安全性と妥当性の面から意見書を提出した。
(2) 瀬戸内海の環境再生に関する調査研究
 また,コンビナートによって破壊された周辺環境の改善に関する調査として,備讃瀬戸海域を中心に瀬戸内海の環境調査を行っている。普段目にすることの少ない海底のゴミについて,地元漁協,漁師,専門家の協力によってその実態と影響を調査するとともに,海底重金属等の環境負荷について研究を行った。これらをもとに減量化対策の検討を行い,政策提言として岡山県・倉敷市等に提出した。

4 公害被害に関わる体験や教訓を活かす活動
(1) 地域の公害体験「語り部」活動
 水島のような過ちを二度と繰り返させないため,公害の体験や患者の思いを伝える記録映画「水島に生きる」,「海のわかれ」及び教材用ビデオ「公害は終ったのか」を作成し,上映会等を行った。また,海外への情報発信のために英語版記録映画「MIZUSHIMA」も作成した。
(2) コンビナート公害に関する経験の途上国への情報発信
 近年海外で急速な経済発展を遂げている地域を中心に,公害問題の普及・啓発を目指して,途上国地域からの視察受け入れ,ヨハネスブルグサミットをはじめとする国際交流の場での情報発信を行った。
(3) 公害裁判の資料の保存・教訓を活かす活動
 資料の整備・保存方策について,資料保存委員会を立ち上げ,あおぞら財団主催の専門委員会や四日市など先進事例に学びながら,検討した。また,2003(平成15)年には,「環境再生展」を開催し,公害から裁判の記録等を紹介した。

5 課題と今後の展望
 財団の活動の中で,特に八間川調査,海底ゴミ調査においては,継続して行うと同時に,市民や漁業者を中心に一定の人的ネットワークの形成ができたことは評価できるであろう。しかし,その主たる目的である水島地域の再生を考えたとき,より広範囲の住民への周知・連携や行政・企業とのパートナーシップの構築はまだ不十分といわざるを得ない。特に行政においては,地域環境の再生といった取り組みの中で市民との「協働」に対する認識が十分に浸透しておらず,これをどのように働きかけていくかが大きな課題である。同時に,「協働」を行っていく上では,市民の側にも積極的な提言・取り組みが求められることになり,そのためには,水島地域をどうしたいのか,何を望んでいるのかといった具体的な計画(マスタープラン)を取りまとめることが必要である。
 公害経験の情報発信については,公害患者の生の声を後世に残す材料を作ることができたことは評価できるが,一般的な普及については不十分である。また,資料の整理・保存についても,その方策の検討段階であり,具体化が必要である。
 その他,これまでの4年間の財団の活動から,改めて必要と感じられるのが,「環境学習」の取り組みと公害患者の生活支援を含めた「環境保健」の分野である。「環境学習」では,温暖化問題に関する教材を作成してはいるが,より広範な公害問題や,まちづくりをテーマに水島の特色を生かした教材開発,学習会を行いたい。また,それらの内容を盛り込むことによって,エコスタディーツアーを企画し,学校等の受け入れも積極的に行いたい。「環境保健」の分野では,公害裁判を基に設立された財団であることから,公害患者のためになり,患者自身が良かったと思う事業を行う必要があり,1人暮らしの高齢公害患者を中心に日常生活の中で求めているものに応えることが重要である。
 最後に,財団の資金調達については,助成・委託事業に加えて,賛助会員,特に団体・法人会員の獲得につとめ,独立収支を確保することが必要である。そのためには,より魅力的な発行物の作成,市民が気軽に参加できる企画作りが求められる。財団ではこれまで記録映画の普及も含めて,広報・宣伝を苦手としていたが,今後は地域の情報発信源としての役割も果たしていかねばならないであろう。それも含めて財政問題は今後検討していくべき重要な課題である。財団では現在,中・長期計画の見直しを行っており,これまでに明らかになった課題を整理し,財政的な裏づけを取りながら,より公害患者・市民の視点に立った事業計画の策定を目指している。そのためには,全国公害弁護団連絡会議に所属される先生方にもぜひご意見を賜りたく,今後ともますますご指導,ご鞭撻を賜りますよう,よろしくお願い申し上げます。