〔4〕名古屋南部大気汚染公害訴訟の報告
名古屋南部大気汚染公害訴訟弁護団


1 はじめに
 2001年8月に全面解決和解が成立してから,2年半余りが経過した。国との和解で確認された国道23号の環境施設帯整備,車線削減のための交通量調査,沿道環境改善のための連絡会設置,健康調査,企業から勝ち取った解決金をもとにした街づくりの取り組みなど,環境改善と住み良い街づくりのための課題は山積している。特に国との道路連絡会については,大気環境改善の決め手となる大型車交通量削減のための対策の具体的展望はなかなか見えてこないのが実情である。
 昨年の尼崎におけるあっせんの成立を受けて,名古屋においても,国に対して尼崎と同レベルの大型車交通量削減のための調査,検討をさせるための取り組みが焦眉の課題となっている。

2 名古屋南部道路環境連絡会関係
(1) 名古屋南部地域道路沿道環境改善に関する連絡会(略称:道路環境連絡会)の第2回は,昨年5月29日に名古屋港ポートビルにおいて弁護団,専門家,患者会役員のほか原告ら約60名の参加の下に開催された。
 連絡会では,国土交通中部地方整備局と環境省の担当者が,和解条項に基づいて計画した対策の進行状況や今後の予定を報告した。報告の中で,中部地方整備局は国道23号の車線削減を実施した場合のシミュレーションとして,渋滞長が大幅に増加し,また他の道路の交通量が大幅に増大する,などという試算結果を提示した。これに対して原告側からは,全体として交通量を減少させるための対策も検討しないまま,「車線削減をしたら,渋滞が延び,他の道路にあふれる。」などという試算をしても意味がないこと,大型車交通量を全体として削減するために方策を早急に検討するべきであることを指摘した。
(2) その後昨年6月26日に尼崎でのあっせんの成立を受けて,昨年8月中部整備局に対して,名古屋においても,尼崎のあっせんの内容をふまえて,あっせん事項を具体化するように申し入れた。
(3) その後昨年10月1日準備会が開催されたが,中部整備局の側からは,「現在,交通量削減のための施策について,関係省庁および愛知県,名古屋市,愛知県警の担当者と協議中であり,尼崎のあっせん事項を直ちに具体化するという回答は出来ない状況です,との回答があった。これに対して原告側は,県警などの関係機関と協議を進めることは大いにやってもらっていいが,尼崎のあっせん事項を具体化する障害にはならないはずであり,早急に名古屋においても,尼崎のあっせん事項を確認するよう求めたが,物別れとなった。このため,昨年12月8日に改めて尼崎あっせん事項を名古屋においても確認することを文書で申し入れた。
(4) これを受けて本年2月16日に第3回の連絡会を開催することが確認され,その場で尼崎あっせん事項を名古屋においても確認することについて,協議を行うことになった。なお,第3回連絡会以降は,マスコミも含めて公開で行うことが確認された。

3 大気汚染および交通量の実態について
(1) 和解の成果として新設された23号沿道測定局六局の測定結果について
 2002年4月から2003年3月までの測定データが昨年7月までにまとめられて公表された。その結果,については長期的評価(98%値))で3局が非達成,SPMについては,長期的評価については一局を除いて非達成,短期的評価(1時間値の最高値が0・2mg/立米はすべての局が非達成というきわめて深刻な汚染状況が明らかとなった。これを受けて8月に原告団・弁護団は中部整備局に対して早急に改善のための対策をとることを申し入れた。
(2) 交通量調査について
 中部地方整備局は,2004年7月1日に国道1号,23号,伊勢湾岸自動車道の交通量調査を行い,同年10月1日にその結果を公表した。この調査は2002年7月に始まり,今回で3回目であるが,今回の結果の特徴は,伊勢湾岸道路の開通によって,国道23号の大型車交通量が一昨年と比べて2600台/日減少したものの,昨年比では逆に500台/日増加したことである。特にことしの調査は,「平成15年3月の伊勢湾岸自動車道(3月21日:みえ川越IC〜四日市JCT,3月23日:豊明IC〜名古屋南IC)の開通を踏え,東名阪自動車道,伊勢湾岸自動車道が豊明ICで連結,国道23号,国道1号,伊勢湾岸自動車道が豊明ICで連結してネットワーク化されたことによる交通流動について把握し,過年度調査(13年7月3日,14年7月3日)との比較検討を行った」というものであるだけに,伊勢湾岸自動車道が東で国道1号,西で東名阪と連結して使いやすくなった以後の初めての調査であるだけに,大型車交通量の動向が注目されていたが,伊勢湾岸自動車道の大型車交通量が一昨年から昨年にかけて4000台/日,昨年から今年にかけて2600台/日増加しているのに対して,国道23号は一昨年から昨年にかけては,3100台/日減少したものの,昨年から比べると500台/日増加したことは,重大な問題である。国は「道路ネットワークの整備により,1号,23号の交通量を減少させる」という説明を繰り返しながら,伊勢湾岸自動車道の建設を進めてきたが,今回の結果はその戦略が本当に実効性のあるものなのかどうかの正念場に立たされていることが示されているといえる。この事実は,仮に伊勢湾岸道路による迂回効果を利用するとしても,何らかのロードプライシング策を講じなければ,自然に伊勢湾岸に流れるということにはならないことを示している。
 三つの道路全体では,総交通量が15・4万台/日となり,一昨年比6400台/日増加,昨年比で5000台/日増加となっており,全体として交通量が増加している。ただ,23号の全車交通量は昨年比1600台/日減少して8・6万台/日,伊勢湾岸道路では6100台/日増加して,11700台/日となりほぼ倍増していること,その中で中央断面の全車通過交通量をみると,23号の通過交通量は昨年比四300台/日減の2・3万台/日となっているのに対して,伊勢湾岸道路6000台/日増加して1・5万台/日となっている。従って総交通量及び全車通過交通量を見る限りは,23号から伊勢湾岸への転換の傾向は見られるものの,大型車については,必ずしも迂回誘導できていないことを示している。そうすると問題は,大型車対策であることは,交通量調査からも明白である。
 大型車交通量の削減をいかにして実現するのかなどの交通需要抑制の具体的方策を具体化させる取り組み,伊勢湾岸道路に大型車交通をシフトさせるようなロードプライシングなどの施策の具体的な展望を開くことが必要であろう。
 今後原告側としては,全体としての大型車交通量自体の削減に向けて,国だけでなく名古屋市等にも働きかけ,名古屋市など関係自治体が取り組む「名古屋都市圏交通円滑化総合計画」策定の中で,大型車交通量削減,時間帯による大型車交通規制,ロードプライシングなどの施策の具体化に向けて運動を強化していく必要がある。

4 沿道環境施設帯整備について
 和解条項「築地口インターチェンジ付近の国道23号沿道地域において,地元住民の意見を聞きながら環境施設帯整備について取り組む」の具体化については,地元港楽学区の住民代表との検討会が02年7月から開始され,整備イメージ図の作成に至っている。しかし,その「イメージ」は本来の環境改善のための緑地帯などの施設のイメージに止まらず,「住民の要望」の名の下に「沿道直近に学童保育所を設置する」「テーマ性をもった商店街作り」「商業空間としての賑わいづくり」など,大気環境の改善,緩衝帯の設置という本来の目的から逸脱した,「市街地再開発」ともいうべき方向に進みかねない内容をもっていた。住民の批判で学童保育所の設置は撤回されたが,今後とも原告側の意見の反映の取り組みが重要となってきている。また要町交差点の改善についての南区公害患者会との意見交換も始まっている。

5 街づくり関係
  昨年4月にNPO法人「名古屋南部環境再生センター」が正式発足し,地域経済や都市空間設計の専門家などの協力を得ながら,名古屋南部地域の街づくりのあり方についての検討を続けている。環境再生センターの主な活動内容は (1)名古屋南部地域の交通負荷・大気汚染軽減に向けた政策の監視,改善要求活動 (2)名古屋南部道路連絡会への参加と共同運営 (3)境保健活動 (4)生活環境改善活動 (5)名古屋南部地域の環境再生活動 (6)被告企業の公害防止活動の監視と改善要求活動であり,課題の具体化に向けての取り組みが続いている。