名古屋新幹線公害訴訟(和解後)の報告
名古屋新幹線公害訴訟弁護団


第1 はじめに

 名古屋新幹線公害訴訟の和解が成立してから,今年満18年を迎えた。この間,弁護団は原告住民とともに和解内容の履行状況の監視活動を続けてきた。
 ところで昨年は,10月1日のダイヤ改正で,東海道新幹線の全列車の最高時速270km運行が開始された。また,一昨年から始まった南方貨物線の撤去・処分問題も重大な局面を迎えるなかで,ねばり強い運動が続けられている。
 以下,昨年の公害弁連第32回総会以降の主な動きを報告する。

第2 1年間の主な動き

1 環境省との協議
 2003年6月4日,第28回全国公害被害者総行動デーに合わせ,環境省環境管理局自動車環境対策課との協議を行った。
 環境省は,名古屋市の2002年度の監視測定結果によると,前年度より騒音・振動が上昇している地点が見受けられる,現状非悪化の原則を守るよう国交省の鉄道局に申し入れると述べたほか,次のとおりの説明があった。
 第3次75ホン対策の全体のまとめは,2004年3月くらいになる。まとめの作業に合わせて今後の対策も検討していく。振動調査を2年間実施し結果をまとめた。2003年度は振動の技術対策マニュアルを作り,有効な振動対策についてJR側と協議していく。騒音環境基準については,本年度から5か年計画で「等価騒音レベル」の測定結果を踏まえ,比較調査・検討を行う。そのために,近く学識経験者による委員会も発足させる。南方貨物線処分については,高架構造物付売却という国鉄清算事業本部の処分の仕方は環境省としても心配している。和解協定の趣旨に沿った処分方法をとるよう国交省に申し入れる。

2 地元自治体との協議
 2003年7月24日,新幹線公害問題について,愛知県環境部との協議を行った。
 名古屋市との新幹線公害と南方貨物線処分に関する協議は数度にわたって行われた。2003年8月7日には名古屋市長に対し,南方貨物線の処分に関する要請を行った。松原市長は「南方貨物線の処分については,高架構造物を撤去したうえで土地を売却することが望ましい。市の関係部局もそのような観点から国鉄清算事業本部に申し入れたものである」と回答した。

3 名古屋市の測定結果について
 名古屋市は和解協定の趣旨に沿って,毎年新幹線騒音・振動の監視測定を6地点9個所で行っている。2003年度の測定は,ダイヤ改正後の本年10月15日から同月24日にかけて実施され,その結果は12月4日に発表された。それによれば,騒音は67ないし73デシベル(A)で,振動は52ないし67デシベルであった。2002年度の測定結果と比較すると,騒音は5個所1デシベル(A)程度上昇しており,そのうち1個所については環境基準を超えていた。振動も指針値以内とはいえ,7個所で1ないし2デシベルの上昇が見られた。これらの結果は,全列車270kmのスピードアップによるものであることは明らかである。

4 JR東海との協議
 JR東海との18回目の定期協議は2003年12月8日,名古屋市内で行われた。JR東海の説明は以下のとおりであった。
(1) 騒音対策について
 地上・車両の両面について総合対策を実施してきた。平成10年度から始めた小トナカイ型吸音装置の設置も平成15年度で終了する。7km全線で騒音を70デシベル(A)以下を維持できるよう努めてきたが,2003年度の名古屋市の監視測定結果によれば,2個所で,それぞれ71デシベル(A)と昨年より1デシベル(A)上回っていた。ゴムパテの劣化とボルトのゆるみが原因と考え,それぞれ対処した。今後とも点検,保守をこまめに行い,騒音対策の効果の維持に努める。
(2) 振動対策について
 従前の対策に加え,2002年度から2003年度にかけて,実験的に「高架橋端部補強工」を3個所,「まくら木連結工」を2個所で施工した。「端部補強工」で2デシベル程度,「連結工」で1ないし2デシベルの低減効果が認められた。引き続き鉄道総研に振動対策についての研究を依頼している。また,自社の技術本部でも研究をしている。
(3) 全列車の270km運行について
 10月1日から東海道新幹線の全列車の270km運行が始まった。7km区間では平均速度は上がったが,最高速度はこれまでどおり。しかし,現実に騒音・振動が上がっている個所がある。発生源対策の入念な点検と保守を行い,効果の維持と低減に努める。
(4) 新幹線列車の保有状況などについて
 JR東海の保有車両は700系54編成,300系60編成で計114編成である。JR西日本からの乗り入れ車両は,700系12編成,500系9編成,300系9編成で,計30編成である。また,300系車両のパンタグラフ等の取り替えは,平成14年度までに完了した。
(5) 高架構造物の強化対策について
 高架構造物を樹脂性のペイントで覆う強化工事は,南区内の約600mで予定されている。なお,地震対策として実施している橋脚への「鉄板巻き」については,平成17年度内に完了させる予定である。
(6) 高架下・移転跡地問題について
 高架下・移転跡地については社員の巡回,適切な除草などで良好な状況の維持に努める。当社は移転跡地を環境空地の位置づけで今後とも保有していく。名古屋市から有効利用について計画が示されれば積極的に協力していく。

5 南方貨物線の撤去処分問題について
 原告住民の居住地域7kmのうち,2.4kmにわたり,新幹線に並行して南方貨物線(南貨)が存在している。
2001年8月,中部運輸局は南貨の鉄道利用を断念し,撤去費総額300億円を前提に2002年度の撤去費用46億円を予算要求した。また,南貨の処分を業務とする鉄道公団(現在,鉄道・運輸機構)の国鉄清算事業本部が,2002年1月の原告団・弁護団(当方)との協議において,随意契約部分を除き高架構造物を撤去したうえで土地を売却すると説明したが,同年9月段階において,突如,高架構造物付の処分を基本とすると方針を変えてきた。
 このため,当方と国鉄清算事業本部は対立状態となり,南貨処分が進まない状況にあったところ,昨年11月19日,国鉄清算事業本部は,並行区間の何か所分について新たな提案をしてきた。その内容は,当方が最初から絶対に高架構造物を撤去すべきであると要求していた南区明治小学校に沿った個所での構造物撤去をはじめ,一部の構造物撤去を行うというものであった。当方は,この処分方針はこれまでの国鉄清算事業本部の方針と比べれば一歩前進であるとして協議を再開することになった。12月24日に行われた協議のなかで,当方は,先に国鉄清算事業本部が提示した撤去個所に加え,4個所の撤去を要求した。
 南貨は当初24時間走行が予定されていた貨物専用線である。これを廃線に追い込んだことは周辺住民の生活環境保全にプラスであるが,跡地をどう処分するかが重大な課題である。困難な問題をいくつかかかえているが,名古屋市もまきこんで,少しでも環境保全に資する方向で努力したいと思う。

第3 おわりに

 昨年は東海道新幹線の全列車の最高時速270km運行,そして鉄道・運輸機構国鉄清算事業本部の南貨の処分問題など,原告団・弁護団はその対応に真正面から立ち向かった。
 今年は裁判提訴から30年を迎えるが,まだまだ和解内容の完全実現に向けての活動の手をゆるめることはできない。