〔2〕西淀川大気汚染公害訴訟報告
西淀川大気汚染公害訴訟弁護団
1 はじめに
前回の総会からの活動で,特に報告すべきことは,国・阪神道路公団と道路連絡会である。これまで6回行われた連絡会では,専門家や住民運動関係者などから構成された「西淀川道路環境対策検討会」の助言のもとで作成してきた西淀川道路環境再生プランPart1〜5を提案したが,国・公団から何の応答もなく,和解条項で具体的に述べられているPM2.5の測定も行われないままであり,患者会・弁護団としてはこのような状況を打開するための方策を検討していた。この度,尼崎の公害調停でのあっせん合意を受けて,西淀川でも連絡会が開かれた。この点を中心に今回の報告を行うことにする。
2 道路連絡会について
2003年10月21日,第7回西淀川道路連絡会が開かれた。この連絡会は尼崎での公害調停以後,初めてのものであり,尼崎の場合と同様に公開で行われた。
この連絡会では,国・公団に対し,西淀川の地域で大気汚染濃度が悪化していること,そして,その原因が大型車からの排出ガスにあるという現状を認識させることから始めた。
西淀川区の自動車排出ガス測局である出来島小学校での,NO2の1日平均値の年間98%値の測定結果は,2002年度で全国6位,大阪市内で1位という状態にあり,浮遊粒子状物質の日平均値の2%除外値でも大阪市内の中で高い濃度を示している。和解後,改善されず,環境基準を達成していない。国交省が行なった国道2号線,43号線沿道の住民のアンケートでは自動車排気ガスによる大気汚染に対して気になるという意見が非常に多数を占めた。このような指摘に対して,国・公団は汚染について,「出来島小学校をはじめとして,相対的にこの地域のNO2濃度について高い値を示していることについて認識している」としたものの,原因については,大型車が原因であることを認めようとしなかった。だが,患者会・弁護団の追及の中,「原因の全てではない」と抵抗を示しつつ,「大型車が大きな要因を占めていることは間違いない。」とまでは認めた。
なお,これまで,和解条項の約束を果たさなかったPM2.5の測定問題については,平成15年度に2ヶ所(国道2号線新佃公園前と国道43号線大和田西交差点)で調査・設計をすすめ,平成16年度のできるだけ早い時期から測定開始すること,平成16年以後,さらに2ケ所設置する予定であるという具体的な回答を国から引き出した。
メインとなる対策問題について,これまでの連絡会で提案してきた西淀川道路環境再生プランPart1〜5について,これまで提案してきた国道2号線及び43号線の夜間大型車通行禁止,環境ロードプライシング,中島工業団地を想定した低公害車利用促進モデル事業などの社会実験についてまともな対応がなされなかったことを指摘し,今後の真剣な対応を要求した。
具体的には,大型車削減と環境ロードプライシングの重要性を改めて指摘し,環境ロードプライシングの問題に入っていった。公団から,それまでの試行について,ずっと利用者が少なかったが,ETCの普及により7月以降は上昇していることが述べられたが,2年間の実験によってどうなったかという効果が計れる状況にないという,無責任な回答だったために,どのような目標をもっているのか,どの程度になれば,効果があったと思っているのか,という点について追及した。公団は環境ロードプライシングだけでは環境改善できないといったり,塩崎神戸大学教授からの,もっとドラスティックな実験をしないと効果で出ないのではないかという意見に対して,研究室の中でやる実験と現実は違うとか,逆に渋滞が発生して,利用者の身の危険があるのでそのようなドラスティックな実験はできないといった問題のすりかえを試みたために,患者会・弁護団は激しく抗議し,この点については後日再度討議することした。
なお,この問題については,後日近畿整備局と公団の各担当者が,環境ロードプライシングについての新たな実験を実施するにあたり説明をしたいということで弁護団連絡担当の村松弁護士を訪問して,次のような説明がなされた。
地方の提案型社会実験を実施する。11月初めに整備局,運輸局,兵庫県,神戸市,尼崎市,西宮市,芦屋市,公団の8者で協議会を立ち上げるにあたり,10月30日に準備会を実施する予定である。3〜5割引で,3月までに1ケ月間実施することを検討している。来年度は課題解決型社会実験と言う形で実施する予定。準備会の様子は改めて説明に来たい。
これに対しては,実験の目的を明確にすること,思い切った内容にすること,きちんと検証できる調査を実施することを申し入れた。
大型車削減問題については,時間の都合で具体的な議論はできなかったが,尼崎同様に,西淀川でもこのための調査をすることを強く要求し,国もこの点については基本的に同意した。その具体化は今後の継続議題となった。
また,西淀川独自の問題として,歌島橋交差点の改良工事についても議論を行った。この交差点で地下道を設置するにあたって,国が横断歩道を廃止しようと企てていることに対するものである。この問題は地域住民全体に関するものであり,地域独自の運動体もあるが,患者会としてはこの工事が患者会との和解に基づく環境対策であるかのように言っていることからこの連絡会でも取り上げた。この点について,国は住民合意の中で決めるとは言うものの,横断歩道廃止の撤回にまでは至らなかった。この点についても今後の継続議題となった。
3 今後の課題
道路公害を無くすための取組としては,西淀川道路環境対策検討会を中心とするあおぞら財団で,まちづくりの観点も含め,中島工業団地の協力を得てのエコドライブなどのアンケート調査を行っているが,現在の緊急課題は尼崎公害調停を契機として変わり始めた国公団との道路連絡会を実質的なものにしていくことであろう。各地の患者会・弁護団が繰り広げている道路連絡会,大気連としての中央官庁交渉などと連携を取りつつ,行っていきたい。先に述べたように,未だ連絡会の実質化は勝ち取っておらず,まだ大部分は継続の課題であるが,次回の連絡会は4月頃を予定しており,そのための取り組みを強めていきたい。また,西淀川では自治体との交渉も不十分であるが,この点での何らかの対策の必要性を感じている。