全国公害被害者総行動報告
全国公害被害者総行動実行委員会
運営委員長 小池 信太郎


第1 今年の公害被害者総行動デーは6月1日〜2日に

 全国公害被害者総行動デーは,今年で29回を重ね6月1日〜2日,東京でもたれる。 「力を合わせて公害の根絶を」 このスローガンが,1976年からはじめられた公害被害者総行動の基本となり今日まで貫かれている。そして,この立場を貫ぬき通してきたからこそ,4半世紀をこえる連帯・共同の力によって,全国各地の公害裁判闘争で輝かしい勝利をかちとってきたと言える。
 「日本の環境運動は,公害反対運動,とりわけ近年では全国各地でとりくまれた各種公害反対闘争を基軸に発展してきたことが特徴」(日弁連発刊「21世紀をきりひらくNGO・NPO」より)と,高く評価されている。その評価されている中身は,まず公害被害者の切実な要求前進をはかってきたことはもちろんであるが,さらに,これまでの公害裁判の一歩一歩の積み上げとその前進が,世論を動かし,行政のありかたを動かしてきたこと,すなわち,裁判の人権保護機能を引き出し社会規範の創造・社会進歩に大きな役割を果たしてきたことである。

第2 第29回総行動の重点課題と重視すべき情勢

 運営委員会,実行委員会での議論の中で,つぎの5点を重点課題として確認。これらは,これまでの運動の継承でもあるが,今日の情勢のもとで,いずれもが,一段と重要となっていることでもある。
 なお,これら課題は,本議案書別掲の各特別報告の中で触れられることとなり詳細はそちらに譲ることとするが,なぜ課題を運動の柱にすえたかについて,総行動運営委員会等での議論で確認されたその基本的立場について触れる。

1  東京大気汚染公害裁判の取り組み
 東京大気汚染公害裁判闘争を勝利することの意義は極めて大きい。すなわち,大気汚染が全国的に広がるもとで,東京が最大の汚染地域であり,しかも首都であることから,勝利することの影響は計り知れないものとなる。さらに,大気汚染裁判闘争にとどまらず,公害被害者総行動全体の成否がかかった"正念場"のたたかいとして位置づけ,該当する東京の運動体でのたたかいとともに,総行動全体の問題として取り組み,今年の総行動成功と結びつけ,勝利判決・全面解決にむけての組織・運動の飛躍的発展を確立することをめざす。

2  新横田基地騒音公害裁判の取り組み
 新横田基地公害裁判は,「静かな夜と住みよい環境を取り戻そう」の要求を掲げ,6,000人もの原告を組織する文字通り地域ぐるみのたたかいとして取り組まれてきている。とくにイラク戦争が,全世界が注目する最重要問題となっている中で,一段と重要さを増している。
 1976年から始められた公害被害者総行動は,「戦争こそ最大の環境破壊」との立場から,発足のその時から「平和を守ろう」を中心的な柱に据えて運動をすすめてきた。
 イラク戦争での米英軍による劣化ウラン弾使用によるガン・白血病被害は,深刻な事態をもたらしている。また,クラスター(集束)爆弾の使用は,「鋼鉄の雨」となって降り注ぐばかりか,子爆弾は不発率が高く,この不発弾は「第二の対人地雷」になって重大化している。まさに「戦争こそ最大の環境破壊」であり,黙視できない問題である。また,憲法改悪が声高に叫ばれ,その具体化が政治日程に上げられているもとで,新横田基地公害裁判は,「平和憲法を守れ」の国民的運動とも直結した重要なたたかいでもある。

3  ムダと環境破壊をもたらす公共事業反対とその根本的転換をめざす取り組み
 大型公共事業・巨大開発に対し,莫大な税金のムダ遣いとさらには環境破壊をもたらすものとして,国民的な批判が集中している。昨年5月16日には,川辺川ダム建設に反対する地元農民の訴えた「川辺川利水訴訟」で,農民側勝訴を勝ち取った。また,圏央道牛沼地区の強制収用問題に東京地裁が10月3日,停止決定という画期的命令を出すという成果をあげた。ところが,東京高裁は暮れも押し迫った12月25日,執行停止決定を不当にも覆して,執行停止を否定する決定をした。圏央道牛沼地区につながる裏高尾地区でも,東京都収用委員会では,"問答無用"とばかりの非民主的な公開審理が行われ,事態は一進一退のつばぜり合いの状況となっている。
 「よみがえれ!有明訴訟」を支援する運動は,地元とともに全国なものとして広がりを示し,世論と運動は確実に前進している。
 これら運動の中で,公害総行動との共同行動の期待と必要性が求められている。

4  弁護士報酬敗訴者負担反対,国民に身近で信頼される裁判制度確立の取り組み
 「市民に身近で信頼される裁判」を求め,主婦連合会,東京都地域婦人団体連盟,東京都地域消費者団体連絡会,日本消費者連盟など消費者団体と公害・環境問題を取り組む公害被害者団体・法律家団体・環境NGOなど17の組織が参加し,「司法に国民の風を吹かせよう(風の会)」実行委員会を結成。公害総行動実行委員会は,この活動の中心的役割を担ってきた。
 とくに,弁護士報酬敗訴者負担制度導入問題が,市民を裁判から閉め出すものであり,とりわけ大企業や国などを訴訟相手とする公害・環境運動にとっては重大問題であることから,「日弁連」や「弁護士報酬の敗訴者負担に反対する全国連絡会」の提起する諸行動の中で,公害被害者総行動実行委員会に結集する各団体は,実践面での主要な役割を果たしてきた。
 敗訴者負担など司法制度改革問題は,改革推進本部での審議の場から,1月19日〜6月16日まで開かれる通常国会での審議の場に移ることとなり,5月〜6月が国会審議のヤマ場となり,総行動デーの取り組み時期と重なることとなった。
 この国会段階でのたたかいについて,これまでつくりあげてきた共同の関係を大事にし,さらに発展させていくことを各団体で確認し,(1)議員・政党への働きかけ,(2)法案学習を兼ねた院内外での集会,(3)委員会傍聴,(4)マスコミ対策・・・など行うこととしている。

5  全国各地で取り組まれている公害地域再生運動の連携と発展
 一昨年6月施行された「都市再生法」により環境破壊をもたらす巨大開発がすすめられている。それは,東京,名古屋,大阪,横浜,さらに全国28地域が追加指定され,「規制緩和」・「民間活力」による大乱開発である。これによりもたらされる結果は,「都市再生」どころか「都市破壊」「まち壊し」といえるものである。これに連動しているものと思われるような,「地域再生に向けた取り組みについて」(金子一義・地域再生担当大臣)の事業が全国各地ですすめられつつある。
 公害総行動に結集し運動をすすめてきた公害裁判闘争組織のほとんどが,裁判勝利のあと,各地で「住みよい,住みつづけられる,まちづくり運動」として活動を継続・発展させている。
 都市再生法を拠りどころとしての「規制緩和」・「民間活力」よる環境破壊につながりかねないような「地域再生」ではなく,「公害地域からの環境再生・地域再生」こそが,いま求められている内容のものであり,小泉内閣のもとですすめられている「都市再生」「地域再生」のうごきの中で,私たちの取り組んできた,「まちづくり運動」取り組みを本流といることが一段と重要となっている。

第3 壮大な運動の発展を展望して

 このところ筆者が参加してきた各所の議論の中で,「公害・環境問題を柱に据え壮大な統一行動・集会などが持てないか」との意見が多く出されている。今年29回目の総行動の成功が,今後大きく発展する新たな出発点となればとの期待をこめて,本稿しめくくりの報告・提案としたい。
 「壮大な統一行動・集会」といったことを考えながら,筆者の記憶に残る次のことを思い出した。
 1970年11月29日,「公害メーデー」が行われた。この統一行動は,労働組合の中央組織である当時の総評,中立労連と幅広い市民団体がいっしょになり行ったものである。その集会・行動に掲げたスローガンは,「青空と緑をとり返し,国民の命と暮らしを守ろう」であった。ここに至るまでの前段の運動として,1967年4月都知事選挙での革新都政の誕生があった。この都知事選で労働組合や多くの市民団体は,胸に「青空バッジ」を付けて,職場・地域で壮大な運動を展開した。「青空バッジ」にこめられた思いは,「東京から富士山を見える日をふやそう」であり,青空マーク入りの富士山のポスターが各戸の玄関に貼られた。
 こうした取り組みが,前記の「公害メーデー」,環境庁(71年)の発足や,世界初の公害健康被害補償法の成立(73年)へとつながったものと理解する。
 さて,公害被害者総行動は,来年30回,再来年30周年を迎える。水俣病も再来年公式発見(1956年)から50年である。東京大気公害裁判闘争も再来年2006年に勝利判決・全面解決をめしている。憲法改悪問題もまたこの時期が政治的な焦点となろうとしている。
 「壮大な統一行動・集会」の規模と内容は,いまの時点で描くことは適当ではないが,「力を合わせて公害の根絶と豊かな自然環境をとり返そう」これは,公害総行動の基本的なスローガンであり,今年の取り組みとその成功で ,そうした「壮大な運動」の発展につなげる力の結集が必要である。