【四】2003年度 組織活動


一  活動の概要

1  今年度の特筆すべき活動としては,大気汚染裁判をめぐって一昨年(2002年)3月の総会記念シンポ「大気汚染未認定患者の新たな救済制度の確立を求めて」と同年10月の東京大気汚染公害訴訟判決をうけて,昨年(2003年)の第2回幹事会(7月13日)にあわせて,集中討議「大気汚染をめぐる今後のたたかい」を開催した。当日は全国公害患者の会連合会からの参加も含めて総勢32名の活発な討議がかわされ,今後の新たな救済制度創設に向けて,全国的取組みの必要性とこれに際しての被害者掘りおこし,弁護団の決意の重要性が,これまでの公害弁連の経験をふまえた形で大いにクローズアップされ,今後につながる有意義なものとなった。
 また,第3回幹事会(10月5日)にあわせて開催した差止裁判プレシンポでは,富井利安広島大学教授を助言者として多彩な分野から若手も含めて24名の弁護士が一同に集まり討議がなされ,大気汚染と産廃(健康への危険性の立証と公共性論の克服),道路建設差止め(調停と運動を通じての差止め追求),有明海と高尾山(個人の利益を超える「公共的利益」理論の活用)など,共通する課題が浮き彫りとなった。
 今年度の大きな動きとして,公共事業をめぐるたたかいがあげられ,川辺川利水訴訟,尼崎公調委あっせん,圏央道あきる野代執行停止決定などで大きな成果をかちとってきたが,これをふまえて,公害弁連として『法と民主主義』(日本民主法律家協会)において,「シリーズ 無駄な公共事業」として「水編 阻止のための実践的戦略を考える」「道路編 道路行政の抜本的転換を求めて」の2度の特集にも取組んだ。
 さらに昨年度の日韓公害環境訴訟シンポジウムの成功を契機に,今年度は4月に大気汚染訴訟準備のための日韓弁護士交流,7月の韓国司法修習生受け入れの充実,9月の日本環境会議滋賀大会に際しての日・中・韓懇談会,11月の「公害弁連国際交流基金」発足,さらには本年3月の公害弁連総会にあわせて第2回環境紛争処理,日中ワークショップ熊本の開催など一層の国際交流の前進のための取組みが進められた。
 なお3月21日には,東幹夫長崎大学教授を招いて,総会記念シンポジウム「公共事業における情報公開と市民参加」を開催。翌22日には,川辺川現地調査が行われた。

2  今年度は,事務局会議5回と幹事会4回を開催し,内容は後記のとおりである。
 幹事会については,必要なテーマについて適宜集中討議を行うことが重要である。第2回幹事会で代表委員,副幹事長をはじめとした経験豊富なメンバーの参加を得て「大気汚染をめぐる今後のたたかい」について充実した集中討議を行ったが,これを教訓として,今年度も重要な局面を迎える有明海訴訟,圏央道(高尾・あきる野),新嘉手納(基地騒音)などについて,当該の若手弁護士の参加も得て集中討議を行っていきたい。一方,公害弁連としての取組みの間口をさらに拡げるためにも,公害環境問題での最新情報や関心のある課題を取り上げた学習会,現地調査の実施など多様な企画を工夫し,若手の弁護団員の出席を積極的に呼びかけていくことも重要である。
 事務局会議は5回開催したが,本年は毎回8人以上と出席率はさらに向上し,幹事会・総会の準備,当面の活動の執行,ニュースの発行などにあたってきた。本年度も事務局次長の中で国際交流(松浦),公害弁連ホームページ(加納),昨年シンポ(森)の奮闘が特筆される。今後も活動の枠を広げ,課題に迅速に対応する努力が必要である。

3  公害弁連に加盟している弁護団は,大気汚染裁判と基地騒音裁判,さらに埋立て,ダム,道路建設など大型公共事業に反対するたたかいが中心となっている。
 来年度の課題としては,まず本年(2004年)3月に予想される「よみがえれ! 有明海訴訟」で仮処分決定を獲得し,これをテコに有明海の再生をはかる課題に全力で取組まなければならない。そして大型公共事業に反対するたたかいは,有明海訴訟をはじめ,川辺川のたたかい,高尾山・あきる野の圏央道をはじめとした道路建設阻止のたたかいが目白押しとなっており,今後の局面をきりひらいていくためにも,昨年の差止裁判プレシンポでの討議をふまえた差止裁判シンポジウムの開催も追求する必要がある。
 一方,大気汚染をめぐっては,新たな被害救済制度の創設に向けて,昨年(2003年)7月の集中討議をふまえて,公害弁連としての取組みをなお一層具体化するため討議(国・自動車メーカーを相手とした新たな調停・裁判の可能性の追求も含めて)が求められている。そして尼崎あっせん成立を契機とした各地連絡会の実効性ある協議による公害根絶の取組みについて公害弁連としても討議するとともに,公害拡大,環境破壊の道路建設がますます急ピッチで強行されようとする中,各地の道路建設反対のたたかいを結びあって,道路行政の抜本的転換を求める全国的取組みを組織していくことが求められている。
 さらに基地騒音訴訟では,人体被害との因果関係立証に精力的に取組んだ新嘉手納訴訟が本年夏にも結審を迎えるが,この点から切りこんで差止め勝訴をめざすとともに基地司令官への公示送達をかちとった普天間基地訴訟を突破口に対米訴訟の前進をはかっていくことが求められている。
 大気汚染裁判や基地騒音裁判は,いずれも大気全国連や基地弁連を組織して,意見交換・共同行動などが行われているが,これまでの貴重な経験を蓄積している公害弁連として,分野別の枠をこえた裁判対策,運動論の議論を行い,また公害弁連全体の力を結集して共同行動に取組むことが,やはり重要な意義を有しており,公害弁連として十分な役割を発揮していくことが重要となっている。

4  道路・自動車公害根絶と新たな被害者救済制度創設を求める大気汚染のたたかい,国と米国相手に基地騒音の差止めを求めるたたかい,埋立て・ダム・道路建設などの大型公共事業の差止めを求めるたたかいは,いずれも法廷内外を通じて粘り強いたたかいを展開してきているが,その勝利のためには世論を味方につけたさらに幅広い取組みが求められている。そのためにも,これらのたたかいを一つに結んだ地方・中央レベルでの共同行動が今大変に重要となってきており,この点で公害弁連が役割を果たすことが強く求められている。
 いずれにしても,公害弁連が公害被害者総行動,公害地球懇,環境法律家連盟など関係団体との交流や連携を広げ,互いに活動の経験,成果,知恵を共有し,一層公害・環境分野で大きな役割を果たしていくことを追求することが重要である。
 この点から,引き続き「公害弁連ニュース」や総会議案書に他団体からの投稿や具体的な課題での意見交換の場を積極的に設けることはもちろんとして,公害弁連ホームページを重要な武器として,さらに幅広い連携・交流を追求していきたい。

二  活動報告

1   幹事会
(1)第1回幹事会
日時2003年6月5日
場所東京
出席花田、近藤、馬奈木、板井、白川、関島、村松、早川、高木、白井、加納、大江、岩井、松浦、羽柴、野口、西村(計17名)
内容差止裁判をめぐる今後のたたかい(プレシンポ予備討議)
尼崎公調委あっせん
川辺川利水訴訟報告
国際交流(「国際交流基金」設立)
 
(2)第2回幹事会
日時2003年7月13日
場所神戸
出席花田、近藤、中島、馬奈木、吉野、板井、関島、村松、白井、森、中杉、久保、大江、岩井、高橋、篠原、谷、羽柴、山田、野口、松本、尾崎、黒岩、小沢、小林、前、渡部、後藤、松山、西村/太田、松(計32名)
内容集中討議「大気汚染をめぐる今後のたたか い」
尼崎あっせん成立と今後のたたかい
川辺川のたたかい(報告)
 
(3)第3回幹事会
日時2003年10月5日
場所東京
出席花田、近藤、中島、馬奈木、吉野、板井、関島、村松、白井、森、中杉、久保、加納、岩井、篠原、小海、堀、樽井、松尾、高橋(謙)、吉野(隆)、羽柴、橋本、富井(計25名)
内容差止めプレシンポ
 
(4)第4回幹事会
日時2003年1月9日
場所東京
出席斉藤、近藤、榎本、馬奈木、吉野、板井、白川、関島、村松、白井、中杉、加納、大江、岩井、松浦、尾崎、後藤、西村(計18名)
内容総会・シンポジウム
日中ワークショップ
よみがえれ!有明海訴訟の現状と今後のたたかい
各地のたたかい


三  役員事務局会議

1  今年度の開催と参加状況は,次のとおり
 5月6日(9名),9月4日(8名),11月18日(8名),2月4日(14名),3月3日(11名)
2  毎回コンスタントな参加を得て,事務局内での分担をはかりながら討議・実行してきた。

四  ニュース・通信の発行

1  ニュースは,今年度も予定通り年4回発行し,充実した内容となった。若手弁護士奮戦記の継続,親しみやすい企画,外部からの投稿にも積極的に取組む必要がある。
2  「情報と通信」は9回出したが,後半息切れした。トピックな情報発信の点でさらに充実が必要である。

五  財政

 公害弁連の収入は,会費収入と並んでカンパ収入が根幹となっているが,本年度は,カンパ収入は得られなかった。

六  新規加入

 よみがえれ!有明海訴訟弁護団が新たに加入した。