徳山ダム訴訟 不当判決!
弁護士  高森裕司


1 不当判決

 暮れも押し迫った昨年12月26日,岐阜地方裁判所において,徳山ダム建設の適否を問う行政訴訟(土地収用法の事業認定取消訴訟・収用裁決取消訴訟)及び住民訴訟(公金支出差止等)について判決が言い渡された。原告らの請求をすべて棄却及び却下するという極めて不当な判決であった。

2 原告の主張・立証

 上記訴訟,特に行政訴訟において,原告・弁護団は,徳山ダムは水資源開発公団(現水資源機構)が建設する水資源開発施設としてのダムであるから,「水資源開発」つまり新規利水(水道用水,工業用水)の必要性がなければ事業の必要性が認められないと主張し,その立証をしてきた。
 立証には,水源連の嶋津証人,岐阜大学の冨樫証人に,わかりやすい表を作成していただいた上で,法廷でOHPを使って説明していただいた。被告側証人に対する反対尋問では,在間弁護団長が自ら水道統計など実際の当該供給予定地域の過去のデータをグラフ化したもの,及びその説明書を弁護団のバイブルとし,徹底的に尋問事項を練って,弾劾に成功した。利水に関する被告側証人は,ひたすら冷や汗(?)をかいていた。
 さらに,裁判長が途中で交代した際には,弁護団長自ら証人となって,水需要がないことをわかりやすく説明した。
 その結果明らかになったことは,水需要は,過去の実績からみれば,今後横ばい又は減少すると予測するのが合理的であり,かつ,水の用途別に増加要因・減少要因を検討すると,横ばい又は減少となる合理的な根拠が見いだせると言うことである。
 例えば被告は,水道用水については,人口が右肩上がりに増加し,一人一日で使う水の量も増え続けるから,それを掛け合わせると,平成30年には水需要が増加し徳山ダムに頼らざるを得ないと主張する。しかし,人口が減少するのは公知の事実であり,一人一日で使う水の量も,水洗トイレや家庭風呂が普及した今では増加要因はなく,実際,当該供給予定地の統計をとってみると横這い傾向は明らかなのである。
 これに対し被告は,水需要があることを何ら積極的に立証しようとせず,終盤は原告の主張の弾劾に終始した。被告は訴訟終盤になって,突然何の根拠もなく現在の水需要の停滞が景気が悪いからだと言いだし,さらに,冗談のような話であるが,水道用水の水需要が増える要因として,苦し紛れに,「朝シャン」や「ガーデニング」まで言い出した。
 将来の新たな水需要があるか否かについての「事実認定」に持ち込めば,勝敗は明らかであった。

3 判決の内容

 しかし,判決は,新たな水需要があるか否かの事実認定を避け,古典的な裁量論の手法で,被告の水需要予測を「不合理であると断定することはできない」として,原告を敗訴させた。
 判決は,総論として日光太郎杉事件判決を引用し,徳山ダム建設事業の合理性の有無について,得られる公共の利益と,失われる利益との比較衡量の問題としつつも,水需要予測について「長期的,先行的な観点」を殊更強調し(裁判所が作成した判決要旨に,わざわざこの部分のみアンダーラインが引かれている),裁量判断の過程について検討らしい検討を加えず,全くの自由裁量であるかのように,すべて「不合理であると断定することはできない」と結論づけているのである。これでは行政に対する司法審査を放棄したのと同じである。原告・弁護団が主戦場と位置づけた水需要予測に関して,判決文が割いたページ数は水道用水と工業用水を合わせて,たったの9ページしかない。

4 判決の問題点の核心

 判決において,原告の主張整理ですら不正確な部分が散見されるのを考えると,裁判所は原告の主張を理解することすら出来なかったと考えられる。上記のように立証に全力を注いだつもりであったが,裁判所に理解させるにはまだまだ不十分であったのかもしれない。控訴審に向けた反省点と言える。
 しかし,判決の問題の核心は,裁判所の以下のような認識にある。すなわち判決の中で「水不足の事態を生ずるよりは,余剰の水がある事態の方が政策として安全かつ妥当である」という一文があるが,これに全ての問題が集約されているとも言える。公共事業と環境破壊の問題については,「大は小を兼ねる」式の大型開発を是とするこれまでの行政の姿勢こそ問われているのに,裁判所はこのような行政の思考に全面的に追従するのみで,これに対する疑問を微塵にも感じていないのである。控訴審では裁判所に「過ぎたるは及ばざるが如し」と言わせなければならない。余剰の弊害をもっとアピールする必要があろう。

5 判決の「付言」

 もっとも,判決は,付言として,「現時点においてはウォータープラン21の水需要予測の方がより合理的であると推認される。」とし,「独立行政法人水資源機構としては,早急に水需要予測を見直し,最終的な費用負担者である国民及び県民の立場に立って,水余りや費用負担拡大等の問題点の解決に真摯に対処することが望まれる」と述べている。
 すなわち,裁判所も「水余り」の事実を認めざるを得なかったのであり,解決すべき「問題点」と認めざるを得なかったのである。 そ うだとすれば,真摯に対処すべきは,裁判所だったのであり,事実認定から逃げておきながら,まるで他人事のように言い放つこの「付言」には怒りしか湧いてこない。
 原告・弁護団は,年が明けた1月7日に直ちに控訴した。今後もあきらめることなく,徳山ダム事業の中止,破壊されつつある徳山の自然の回復を求めて戦い続ける決意である。