徳山ダム事件

判 決 要 旨



事件番号,事件名:平成11年(行ウ)第6号事業認定取消請求事件(甲事件)
平成13年(行ウ)第11号収用裁決取消請求事件(乙事件)
裁判所,裁判長:岐阜地方裁判所民事第2部 林道春裁判長

当事者原告被告
甲事件小栗均ら2名国土交通大臣(当時 建設大臣)
参加人:独立行政法人水資源機構(旧)水資源開発公団
参加人:電源開発株式会社
近藤ゆり子ら55名
乙事件大沼淳一ら19名岐阜県収用委員会

事案の概要:
1  甲事件は,徳山ダム建設予定地内の土地の共有持分を有する者が原告となり,建設大臣(当時)が土地収用法に基づいてした徳山ダム建設工事に係る平成10年12月24日付け事業認定に関し,新規の水道用水及び工業用水は必要がなく,本件事業認定の基礎となった水需要予測は不合理であり,事業により環境的利益が失われるなどと主張して,本件事業認定の取消しを求めている事件である。
2  乙事件は,徳山ダム建設予定地内の土地の共有持分を有していた者(うち55名は甲事件原告)が土地をダム建設のために収用する平成13年5月23日付け権利取得裁決及び明渡裁決(本件裁決)を受け,甲事件における事業認定が違法であるならば,本件裁決も違法である(違法性の承継)と主張して,その取消しを求めている。

主文(訴訟費用関係を除く):
 甲事件原告ら及び乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。

理由の骨子:
1 適法性判断の基準時
 取消訴訟において行政処分の適法性を判断する基準時は,当該処分がされた当時とすべきであるから,本件事業認定が適法か違法かは,建設大臣(当時)が本件事業認定をした時(平成10年12月24日)を基準とし,その時に存在していた事実を基礎として判断する。
2 本件事業認定の適法性(甲事件)
 本件事業認定が適法であるというためには,本件事業認定が土地収用法20条1号から4号までの要件(別紙)をすべて満たしている必要があるところ,以下のとおり本件事業認定は適法である。
(1) 土地収用法20条3号の要件について
ア 判断の方法
 土地収用法20条3号の「事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること」とは,当該土地がその事業の用に供されることによって失われる利益とを比較衡量した結果,前者が後者に優越すると認められる場合である。
 この判断においては,事業認定権者である建設大臣の裁量が認められ,事業認定権者の判断に社会通念上著しく不相当な点があり,その裁量の範囲の逸脱又は裁量権の濫用があった場合に,当該事業認定は土地収用法20条3号要件に適合せず違法となる。
イ 都市用水の確保について
 [1]関係県知事,ダム審,各供給予定地域の市町村等は本件事業による都市用水の確保が必要であると認識していること,[2]水資源開発施設の計画を進めるに当たっては,長期的,先行的な観点から整備を行う必要があり,予測と実際が異なったときにも支障を生じないだけの余裕を見込む必要もあること,[3]本件水需要予測が不合理なものと断定できないこと,[4]地盤沈下対策の必要があること等を考慮すると,本件水需要予測を是認した建設大臣の判断に裁量の範囲の逸脱又は裁量権の濫用はない
 なお,当裁判所は,本件水需要予測について建設大臣が平成10年12月にこれを是認した判断が,当時においては建設大臣の裁量の範囲を逸脱するものではないと判断するにすぎないものであり,現時点においてはウォータープラン21の水需要予測の方がより合理的であるから,独立行政法人水資源機構としては,早急に水需要予測を見直し,最終的な費用負担者である住民の立場に立って,水余りや費用負担増大等の問題点の解決に真摯に対処することが望まれる
ウ 本件での比較衡量
 本件事業により得られる公共の利益については,[1]揖斐川流域の住民やその資産を洪水被害から保護し,[2]流水の正常な機能を維持し,[3]都市用水の確保や[4]発電により地域経済の発展に資することから,本件事業によって得られる公共の利益は多大なものと認められる。
 これに対し,本件事業により失われる利益のうち,[1]自然環境への影響は,総合的に判断して小さいものと評価されること,[2]本件事業により移転することになった旧徳山村の住民に対しては生活再建のための措置が講じられていることなどからすると,本件事業によりこれらの利益が失われることによる影響は小さい。
 したがって,本件事業が土地収用法20条3号の要件を満たすとした建設大臣の判断に裁量の範囲の逸脱及び裁量権の濫用はない。
(2) 土地収用法1号,2号,4号の要件について
 本件事業は,治水又は利水のためのダムを建設するものであり,水資源機構(旧水資源開発公団)にはこれを行うだけの十分な意思と能力があり,土地を収用する公益上の必要があるから,土地収用法20上1号,2号,4号の各要件にも適合している。
3 本件裁決の適法性(乙事件) 上記のとおり,甲事件の事業認定に違法性がないから,違法性の承継はあり得ず,本件裁決は適法である。