徳山ダム事件

判 決 要 旨



事件番号:平成11年(行ウ)第4号 公金支出差止等請求事件
裁判所,裁判長:岐阜地方裁判所民事第2部 林道春裁判長
原告:上田武夫ほか42名
被告:岐阜県知事,岐阜県出納長,梶原拓

事案の概要:
 本件は,徳山ダム建設に関する建設事業費負担金(本件負担金)について,(1)岐阜県が平成元年及び平成10年にした費用負担の同意及び(2)平成2年以降に行った本件負担金の支出は違法であると主張して,岐阜県民である原告らが提起した住民訴訟である。
 原告らは,本件負担金の費用負担の同意及び支出は,地方財政法6条,地方公営企業法17条の2第2項等に違反するなどと主張して,次の請求をしている。
(1) 岐阜県知事に対し,本件負担金の支出命令(平成10年6月以降毎年度四半旗ごと)の差止め
(2) 岐阜県出納長に対し,本件負担金の支出の差止め
(3) 岐阜県知事として支出に関与した被告梶原拓に対し,既に支出された負担金(平成2年度から平成9年度までの支出合計額34億7348万7000円)の返還(損害賠償)

主文(訴訟費用関係を除く):
1  原告らの被告岐阜県知事及び同岐阜県出納長に対する訴えのうち,平成10年6月から平成15年3月までにされた徳山ダム建設事業費負担金(工業用水分)の支出命令及び支出並びに平成43年4月以降にされる徳山ダム建設事業費負担金(工業用水分)の支出命令及び支出の差止めを求める訴えをいずれも却下する。
2  原告らの被告梶原拓に対する訴えのうち,平成2年6月から平成9年12月までにされた徳山ダム建設事業費負担金(工業用水分)の支出に係る損害賠償を求める訴えを却下する。
3  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

理由の骨子:
1(1) 広義の公金の支出は,[1]支出負担行為,[2]狭義の支出によって構成されているが,こられは互いに独立した財務会計行為であり,このうちの二つを一体の財務会計行為とみる余地はない。また,岐阜県知事がした費用負担の同意は,住民訴訟の対象である財務会計行為に該当しない。
(2) 本件口頭弁論終結までに岐阜県が支出した平成15年3月までの本件負担金については,支出が終わっている以上,その支出の差止めを求める訴えの利益はない。
 本件負担金の支出は,平成43年3月をもって終了する予定であり,平成43年4月以降,本件負担金の支出等がされることは相当の確実さをもって予測することができないから,平成43年4月以降の支出分については差止めの対象にならない。
2   住民訴訟の前提として,原告らは法定の期間内(地方自治法242条2項)に住民監査請求をすべきところ,原告らが岐阜県監査委員に対してした住民監査請求のうち,平成2年6月から平成9年12月までの本件負担金の支出に関する部分は,監査請求期間を経過してからされたものであり,かつ,監査請求期間を経過してしまったことについて正当な理由(同項但書)は存在しない。
3(1) 水資源開発公団の岐阜県に対する本件負担金の納付通知書は,著しく合理性を欠き,岐阜県の予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵があるとはいえない。
(2) [1]将来にわあって工業出荷額の伸びが見込まれないと断定することはできないこと,[2]水資源開発は,長期的・先行的な視点から行う必要があること,[3]岐阜県が平成6年3月に作成した水需要予測「岐阜県水資源長期受給計画」は,予測の方法自体が合理的で,過去の水需要実績等をも総合考慮すると,水需要予測に合理性がないとはいえない。したがって,これに基づいて岐阜県知事が合理性がないとはいえない。したがって,これに基づいて岐阜県知事が平成10年にした費用負担同意はその裁量の範囲を逸脱するものではない。
4   岐阜県が一般会計から本件負担金を支出していることは,地方財政法6条,地方公営企業法17条に違反しない。