第三 公害裁判の前進と課題

第四 公害弁連の今後の方向と発展について
― 公害被害者の早期救済,公害根絶とともに,新たな環境問題への取組みの強化と司法改革運動の前進をめざして ―


一 公害被害者の早期救済と公害根絶のたたかいのさらなる前進を

 各地の大気裁判での勝利和解をふまえた「連絡会」を中心とするたたかいでは,尼崎で,公調委のあっせん合意をふまえた「大型車交通量低減のための総合調査」実施の合意が成立したことで,いよいよ各地被告道路における大型車削減に向けた交通規制,ロードプライシング実現に向けた展望が具体化するところとなっている。尼崎で同調査結果をふまえて具体的な施策の実施を迫っていくたたかいが重要となってくるとともに,これを機に川崎をはじめとする各地連絡会でも,尼崎にならって「総合調査」を実施させ,施策の具体化を迫っていくことが求められている。こうしたたたかいは,交通量主義に基づく道路建設至上主義の道路行政にクサビを打ち込み,交通量削減と道路建設見直しに大きくカジを切っていく上で大きな意義を有しているといえる。
 一方,大気汚染をめぐるたたかいでは,東京大気汚染訴訟で,東京全域の面的汚染の因果関係を明らかにし,自動車メーカーの法的責任を追及する取組みが進められており,2005年中に結審,2006年に判決を見通すところまできているが,100万署名を成功させ大きな世論をまきおこして,全面勝利判決をかちとるため,さらに運動を強めなければならない。そして,大気汚染被害者の新たな救済制度創設を求めるたたかいでは,この間川崎において,全市全年令の医療費救済を実現する方向で大きな前進がみられたが,これを教訓として,全国から自治体相手に全年令での医療費救済を求める取組みを強化する必要がある。そしてメーカーに財源負担を求めた国のレベルでの救済制度創設に向けて,全国各地で未救済被害者の実態を掘りおこし,浮きぼりにするとともに,これを国・自動車メーカーにぶつけていくため,公調委等における原因裁定,調停などを活用することも含めた新たな取組みが求められている。
 また自動車排ガス公害根絶の課題では,この間のディーゼル車対策共闘会議の取組みの中で,後付けの排ガス低減装置の開発をサボタージュし続けている自動車メーカーの責任が大きく浮きぼりになってきており,これと東京大気裁判の共闘で取組まれている全国ディーラー要請行動,さらには昨年に引続き大きな成功をおさめた2005年2月のトヨタ総行動を通じて,自動車メーカー,とりわけトヨタの社会的責任を追及する世論をまきおこしつつあるが,このたたかいを強化して,実効性あるディーゼル規制を実現していくことが求められている。
 一方基地騒音関係では,健康被害との因果関係を認めず,救済の範囲をW値85以上に限定した先の新嘉手納地裁判決の克服が急務である。国は,同判決を受けて,W値区域の見直しの動きをみせている。これに対し,2004年12月に結審をかちとり判決を控えている新横田訴訟控訴審において,従来のW値75以上での救済と健康被害との因果関係についての積極的な判断をかちとることが強く求められている。そして,「危険への接近論」と陳述書未提出による減額ないし請求棄却という同訴訟地裁判決の課題についてもこれをクリアする明快な判決をかちとらなければならない。一方,差止請求の課題では,各地訴訟団・弁護団の連携のもとで,一切の救済の道をとざす司法の不当性を広く国民にアピールして政治課題にも持ち込む法廷外での運動を強めていくことが求められている。そしてこれとあわせて,ブッシュ政権2期目を迎え,急ピッチで進められている在日米軍再編の動きに対しても,政府・自治体あての運動を積極的に展開していく必要がある。
 また薬害のたたかいでは,薬害ヤコブで2002年3月の確認書調印後も,被告企業の妨害をはねのけて,この間も次々と和解成立をかちとってきており,引き続きサポートネットワークを中心とした相談活動を重視して,潜在患者の掘りおこしに取組んでいく必要がある。一方,2004年7月15日(西日本),同年11月25日(東日本),肺ガン治療薬イレッサの副作用で死亡した被害者遺族が,国と販売法人を被告に損害賠償を求めて提起したイレッサ薬害訴訟をめぐっては,この間FDA(米食品医薬品局)は,イレッサの延命効果を否定し,販売中止,規制強化の方針を表明。さらに製造元は,欧州医薬品審査庁への承認申請を取下げると発表。訴訟に大きなはずみをつけるところとなっているが,薬害根絶に向けて支援を強める必要がある。

二 公害弁連のたたかいの経験をふまえて,新たな取組みの強化を

 国・自治体の財政赤字がいよいよ深まる中で,環境破壊の無駄な公共事業の見直しを求める動きが大きく加速している。ここで注目されるのは,2004年8月26日の仮処分と2005年1月12日の仮処分異議において画期的な勝利をかちとった,よみがえれ!有明海訴訟のたたかいである。国は2007年3月までの工事完成をめざして,抗告審での逆転を狙っているのに対し,公調委での原因裁定を求めるたたかいとのせめぎあいとなっている。早期に公調委裁定をかちとったうえで,さらに公調委での調停手続,もしくは公正中立な行政機関を活用しての有明海の再生まで含めた真の解決を図っていくたたかいが求められている。そして,川辺川ダムをめぐるたたかいでは,今後,漁業権をめぐる収用委員会の動向が焦点となっており,新利水計画が2005年春までに示されなければ,収用申請却下,また新利水計画からダム利水が落ちた場合も多目的ダムの主要な柱が失われるため,事業計画の変更に該るか否か判断するとされており,国交省をして収用申請却下の瀬戸際まで追いつめるに至っている。まさにダム計画自体に対しても,「住民参加」から「住民決定」の時代への成否が問われる重大な局面として,たたかいを強める必要がある。
 一方,公害拡大,環境破壊の道路建設をめぐっては,住民との合意形成を無視した,一方的な公共事業の在り方に対する国民の批判が高まっており,国土交通省も,これまでの在り方を改め,各種審議会や研究会の提言等の形で,今後の公共事業にあたって国民との合意形成を重視する政策を打出さざるをえなくなっている。計画段階のものにはPI(パブリック・インボルブメント)手法を適用することは当然であり,既に都市計画決定がなされ事業中の案件についても,関係住民に対し,説明責任を果たし,合意形成をはかることが求められている。しかるに住民の対応窓口となる地方整備局・国道工事事務所レベルでは,先の政策との齟齬・ギャップがより激化しており,この矛盾をついて道路行政の抜本的転換をはかっていくことが大きな課題となってきている。
 この点で,近々判決を迎える圏央道高尾山天狗裁判をはじめとした道路建設反対の個々の取組みを強化するのはもちろんとして,公調委のあっせん合意に基づき公開の「連絡会」で大型車削減のための調査実施にこぎつけた尼崎公害のたたかいをはじめとして,大気汚染訴訟の各地連絡会のたたかいとの共同のたたかいを追求し,交通総量の削減を掲げ,道路行政の抜本的転換を求める全国的取組みを組織していくことが求められている。
 また,廃棄物問題をめぐっては,2004年9月,大阪府能勢町の美化センターの土地所有者が,センターを管理する組合にダイオキシン撤去などを求めた訴訟で,土地所有者がセンター周辺でダイオキシンの無害化処理を行うことを了承し,組合が補償金を支払う内容の和解が成立した。また,鹿児島県瀬戸内町の一般廃棄物処理施設,福岡県川崎町の安定型処分場,福岡県筑穂町の安定型処分場,福島県双葉町の管理型処分場などで建設・操業を差止める勝利をかちとっている。しかし自治体ないし第三セクターが運営する大型の管理型処分場及び焼却施設については,ダイオキシン類・環境ホルモンなどによる汚染を理由とした住民の申立てが退けられており,ダイオキシン類など将来の被害の蓋然性を立証するなど,様々な工夫を重ね処分場や焼却施設の建設・操業を中止に追い込むことが課題となっている。

三 公害地域再生のたたかいの前進を

 従来,公害弁連の主力であった水俣,新潟水俣や,西淀川,川崎,倉敷,尼崎,名古屋では,裁判の解決後,新たな課題として公害地域の再生に取組んでいる。いずれの地域でも裁判当時と比べて大きくウイングを拡げて,従来接点のなかった地域組織・市民さらには自治体とも共同しながら,地道な活動が展開されている。そして地域再生の取組みの中で,環境教育,語り部活動が重視して取組まれている。公害弁連としても,こうした活動の経験交流の場を設けるなどして,さらなる取組みの強化をはかるとともに,これを通じて国・自治体に対する要求を整理して,全国公害被害者総行動などにつなげていくことが重要である。

四 アジア諸国との交流,地球環境問題でも取組みの強化を

 発展途上国,特にアジアでは,急激な工業化,自動車交通の増加,日本の公害輸出,各国の経済成長優先政策等により,深刻な被害が発生してきている。これに対し,各国では,環境保護,公害被害救済をめざす市民,法律家が立ち上がり,エネルギッシュな活動を展開している。
 環境保護,公害被害救済を目指して立ち上がった各国の市民,法律家との連帯をさらに広げ,深めていくことが求められている。この点で2004年3月,日本環境会議,中国政法大学公害被害者法律援助センターなどと「第2回環境紛争処理日中国際ワークショップ」を共催し,中国から学者,医師,弁護士など15名,韓国からも5名の参加を得て活発な討論が展開された。また連続して開催された公害弁連総会では,韓国環境運動連合環境訴訟センターの弁護士から韓国セマンクン干拓事業に対し差止めの仮処分決定を獲得した取組みについて特別報告を受けた。本年は韓国での活動の前進をふまえて,環境法律家連盟と共催のうえ第2回日韓公害・環境シンポジウムを行うとともに,昨年(2004年)途絶えた韓国司法修習生の受け入れも復活させるなど国際交流活動をさらに推進していくことが求められている。
 一方,2005年2月16日,地球温暖化防止のための唯一の国際的枠組みである京都議定書が発効した。国連加盟国の四分の三近い国が同議定書を批准しており,これを拒絶しているのはアメリカ,オーストラリアなど少数にすぎない。こうした中,政府は現在,「地球温暖化対策推進大綱」の見直しを進めているが,対策の先のばし,対策強化の回避の動きが産業界,政府の一部から強まっており,これを断固許さず,炭素税の導入を含めたエネルギー税制のグリーン改革や国内排出取引制度の導入など抜本的な施策の実施に向けた取組みが求められている。