〔3〕圏央道あきる野土地収用事件報告
弁護士  吉田健一


1 事業認定・裁決の取消を認めた一審勝利判決
 圏央道あきる野土地収用事件について、東京地方裁判所民事第三部(藤山雅行裁判長)は、4月22日、圏央道(首都圏中央連絡自動車道)建設に関する国土交通大臣の事業認定(2001年1月19日)、及び東京都収用委員会の収用裁決(2002年9月30日)をいずれも取り消す判決を言い渡した。

[公害を発生させる道路建設を否定]
 判決は、土地収用手続きに対して明確な違法判断をおこなった。国土交通大臣の行った事業認定について、住民に受忍限度を超えるような道路公害が生ずる瑕疵ある道路を設置する事業を認定することは、行政の裁量を議論する余地がなく違法であるとした。これは土地収用法の黙示的な前提条件であるとの解釈を示したのである。
 そして、判決は、圏央道の建設によって、受忍限度を超える騒音被害が生ずるものであること、重大な大気汚染被害の発生、環境基準を上回るSPMの発生により、相当重大な結果が生ずるおそれがあることを認めた。
 結局、圏央道建設について瑕疵ある道路を建設する事業を認定したとして違法であると断じ、この事業認定に基づく収用裁決とあわせて、取消を命じたのである。

[公共事業に対する厳しいチェック]
 判決には、行政に対して事前チェックを重視する姿勢が示されている。国側は、道路の供用開始前に的確な予測が困難であり事後に対策をとれば足りると主張したのであるが、判決は、これを批判し、遮音装置や排ガス規制などの事後対策では道路公害に必ずしも実効性が認められないことを指摘した。あわせて、供用が開始されてしまえば周辺住民が甚大な被害を被っていても差し止めが認められなくなってしまうのみならず、瑕疵ある道路建設により生ずる賠償責任のため国家財政にも多額の損失を生ずるとしたのである。もちろん、本件で行われたアセスが不十分であることも指摘している。それは、公害被害の救済を求め、加害企業や行政に対する責任追及を続けた公害裁判のたたかいの成果のうえに立つ判断ともいえるのである。
 あわせて、判決は、圏央道計画について公共事業としての必要性をも否定した。圏央道建設により混雑や渋滞が改善されるとの行政側の主張、代替案の検討もせずに1.9キロメートルに2つのインターチェンジを建設する必要性を安易に認める行政の姿勢に対して厳しい判断を下した。そして、本件が適正かつ合理的な土地収用ではないとして事業認定の違法性を明らかにしたのである。
 このように、公共事業の事前チェック、とりわけ公害防止や環境保護の視点で行政に課せられる役割を考えた場合、判決の持つ意味は計り知れないものがある。

2 高裁での攻防
 住民勝利の一審判決に対して、国側は東京高裁に控訴した。そして、圏央道の「便利さ」とか、都心部の「渋滞を解消する」効果があるとか、「国家的プロジェクト」にもとづく計画であるなど「公共性」を前面に出して反撃してきた。騒音・大気汚染などについては、環境への影響上問題ないことがアセスメントで結論づけられていることを繰り返し強調している。
 これに対して、住民側は、圏央道建設が無駄な公共事業であり、杜撰な計画であることを強調するとともに、道路公害による被害発生の危険や深刻さについても、具体的事実をもってあらためて反論した。例えば、国側は、走行する車両が時速80キロメートルの制限速度をすべて遵守する前提にたって騒音被害を否定しているけれども、高速道路で制限速度を遵守する車両はほとんどない。現に、住民と弁護団とが実際に中央高速を時速80キロで走行したところ、すべての車両に追い抜かれていく結果が示された(その状況はビデオにとって証拠として裁判所に提出した)。また、圏央道の建設予定周辺地域では、圏央道の建設前から騒音問題や大気汚染の道路公害が発生しており、その実態を裁判所が直接確認するよう現地の検証も申し出ている。
 ところが、行政側は裁判所に期待をかけてか、早期判断を求める態度を示している。東京高裁では、一昨年10月に出された一審執行停止決定を短期間で覆され、そのため立ち退きを余儀なくされた苦い経験を住民側が味わっている。本訴では、何としても、一審の勝利判決を守り抜かなければならない。

3 たたかいの山場を迎えて
 収用対象となった土地には、いま道路建設の工事が進められている。この建設現場に隣接して居住を続ける住民の中には、自ら所有していた農地を奪われたうえ、工事による騒音公害などに悩まされているものもいる。他方、土地・家屋の明け渡し移転を余儀なくされた住民は、地域に根付いた生活を奪われ、居住の自由の重みをあらためて実感している。
 本件では、圏央道建設というずさんな事業計画をすすめている行政に対して、これをチェックする司法の役割があらためて問われているのである。高裁の審理は、住民側の求める立証を認めるかどうかという重大局面を早くも迎えている。法廷を中心とした攻防とあわせて、住民側は、裁判所に向けた署名運動などに取り組み、裁判所に対する要請行動を強めている。
 圏央道建設に関しては、高尾山の自然破壊に対して、工事差し止めや行政取消訴訟を続けている高尾天狗訴訟のたたかいとあわせて、運動の大きな広がりが不可欠である。皆さんのいっそうのご支援をお願いしたい。