〔3〕尼崎公害訴訟の報告
尼崎大気汚染公害訴訟弁護団


 尼崎道路公害訴訟は,2003年6月の公調委での「あっせん」合意後,「連絡会」で表記調査に向け,精力的に意見交換を続けてきたが,05年1月21日,第11回「連絡会」で合意が成立したので,この点を中心に報告する。

1 「あっせん」後の経緯
(1) 03年6月に公調委で成立した「あっせん」合意により,「連絡会」が公開され,公開「連絡会」で懸案の「大型車交通量低減のための総合的調査」に向けた協議が精力的に行なわれた。あっせん合意後の日程は以下の通りである。
第3回03年9月30日
第4回同年12月18日
第5回04年2月24日
第6回04年4月23日
第7回同年6月13日
第8回同年7月28日
第9回同年9月21日
第10回同年11月5日

(2) 8回の「連絡会」で意見交換したのは,あっせんの目玉であった「大型車の交通量低減のための総合的調査」の内容,方法についてである。03年9月30日のあっせん合意後最初の「連絡会」において,これから行なう意見交換はそれまでの「連絡会」とは異なり,a.「建設的かつ有効な意見交換」を行なうこと,b.調査開始の準備段階から実施,試行,警察庁への要請までの全てのステージで文書・資料を公開すること,c.調査結果を踏まえた警察庁への要請は文書で行ない,当然のことながら回答も文書で行なわれるべきことを申し入れ,これについては国交省も合意約束した。その後の「連絡会」は順調に進むと思われたが,結局,合計8回もの「連絡会」を重ねることとなり,第10回「連絡会」(昨年11月5日)で漸く,「総合調査」について原則的合意に至った。

2 何が問題となったか
(1) 公調委での「あっせん」は成立したものの,「連絡会」は最初から波乱含みであった。先ず問題とされたのは,調査に先立ち国交省が,大型車低減の削減目標値を設定するかどうかであった。本件地域の大型車交通量,即ち,01年2月調査の3万9557台の大型車をどの程度削減するのか,削減目標値を持つことは不可欠である。これを想定するかしないかで,総合調査のデザインが違ってくるし,調査対象となる本件地域の事業者等の捕捉,抽出率をどの程度とするか姿勢が変ってくるのである。国交省に大型車削減についてやる気があるのかないのかの問題でもある。この問題で国交省近畿地方整備局は,削減目標値を設定すると数字が一人歩きし,国交省がその目標値を達成する約束をしたと誤解されるからと抵抗し,5月の第5回「連絡会」まで協議が空転した。これについては原告・患者会側が譲歩し,削減目標値については,総合調査の質問項目の設定など調査内容を詰める中で都度協議するということで話を納めた。(決裂か,という場面が実は何度かあった)
(2) 次に問題となったのは,43号線の交通規制区域の拡大問題である。「あっせん」合意による調査は,本件地域における大型車の交通量の低減を図ることを目的とするが,その調査は,「国道43号線において部分的な通行規制が実施された場合における運行経路の見直しの意向調査」と明記されている。然るに国交省は,総合調査の質問項目の中で,本件地域における43号線の部分規制ということを明示せず,兵庫県内の43号線全線規制を前提とした場合の運行経路見直しの意向,あるいは本件尼崎地域の規制の場合,全線規制の場合と2本立てで事業者やドライバーの見直しの意向を聞くという案を6月7日に突然提案,その後これに固執する姿勢を示した。43号線全線規制を想定するというのならその方がいいいのではないかと誤解されやすい。実は,「あっせん」に先立つ01年調査に基づく兵庫県警の検討結果で,全線規制は影響が大きく,交通規制は不可能との結論が形の上で出されている。これは患者会や弁護団の意見を無視して一方的に行なわれた調査ではあるが,このことがあったので公調委も部分規制をする場合の運行経路の見直しに関する調査をするよう提案しているのである。我々は,a.公調委が部分通行規制としたのは,43号線全線規制は困難であり,部分通行規制という手法を採用した尼崎モデルをつくるのが本件調査の目的であること,b.43号線の県内全線規制は影響が大きいのは当たり前,c.国交省が全線規制をするつもりも計画もないのに全線規制を前提とする調査をするのは不謹慎・不誠実,d.規制対象区域が狭いほうが通行経路見直しの選択肢は増える,として「あっせん」合意に明示された手法でするよう要求した。この問題で「連絡会」は再び決裂か,という事態を迎えたが,第10回「連絡会」で国交省が折れて,尼崎地域部分通行規制を明示した調査とすることで合意した。
(3) 最後の問題は,阪神高速道路公団が関係するが,ロードプライシングの内容の充実についてである。迂回路となる「湾岸線」料金を割り引く場合,割引対象区間を武庫川以西の阪神西線のみとするか,武庫川以東の阪神東線も対象とするかという点である。患者会・弁護団は当然のことながら阪神東線も割引対象区間としなければ意味がない(尼崎地域から大阪方面への車両は東線を利用する車両が相当ある)ので,東線も対象区間とすることを要求し,最後の詰めをした。既に「あっせん」合意後,1年半を経過しようとしていたこともあり,これは運行経路見直しの調査なのだからということで(直ちに,東線を含めた料金が割り引かれる訳ではない),12月20日の準備会で東線も対象とすること(聞き方は,a.西線b.西線〜東線c.東線のそれぞれを選択させ,どの程度の割引額になれば湾岸線に変更するのかを質問)で最終的に合意ができた(東線は公団にとってドル箱で抵抗が強かった)。

3 今後の予定と課題
 以上の次第で漸く,「大型車の交通量低減に関する意向調査」について合意が成立した。合意された調査内容の詳細を紹介する余裕はないが,1月21日の第11回「連絡会」で正式に合意した今後のスケジュールは次の通りである。調査は本年3月3日(木曜日),150名の調査員の募集を直ちに開始し,研修を経たうえ,2月10日から調査用紙(アンケート用紙・2種類)を凡そ5500の事業所に配布する。3月3日調査後,2週間程度みて調査用紙の回収に入り,3月中に回収を完了する。データ集計と分析は新年度4月からということである。分析・集計は夏頃までかかるらしい。「あっせん」合意に基づく調査が,時間がかかりすぎた感はあるが,いよいよ動き出す。三井物産が大型車に装着するDPFに関する虚偽データ作成・詐欺事件で強制捜査を受けた。単体への規制が遅々として進まない状況の中で,尼崎地域のこの「総合調査」の意義は大きいと考える。今後は充実された調査がなされるよう見守る必要があるし,その後,調査結果の分析・検討,これに基づく警察庁への要請など重要なステージに移行する。引き続き気を抜かないよう頑張っていく所存である。