4 こうした実態のなかで大気汚染地域である川崎区・幸区を面的に捉えて,住民居住地域へのディーゼル車,大型車等の総量規制をどう図ってゆくかを目的として,その前提としての事業所,ドライバー,運行管理者アンケート調査の実施に関する取り組みが進行している。
この取り組みは,道路連絡会の討議を基本とし,川崎の場合はその準備会の仕組みがない関係上,ワークショップ的に実務担当の川崎国道事務所とその下請けのコンサルタント会社を相手に実務的協議がにつめられている。そして,これを概括的にいうと,きわめて調査設計の内容に踏み込んで進んだかと思うと,他方,もう少し詳細を検討させてくれといって間延びするなどして推移してきている。推測するにそのテンポと間合いは尼崎における同種調査に係る連絡会を強烈に意識しているようで(ちなみにコンサルト会社は尼崎も川崎も同じ),尼崎の連絡会の進行状況に左右されてきたように思われる。
いずれにしても尼崎での前記調査が確定し(尼崎弁護団報告参照),その結果,今春をメドに川崎の調査設計も大きく動き出すことが見込まれている。但し,尼崎にあっては,国道43号線,阪神高速道路の2階建構造の道路対策が中心であるのに対し,川崎においては前記2階建道路(産業道路と高速横羽線)はもちろん,川崎区,幸区の複数の幹線道路を対象として,その総量規制をめざすもので,別途格別の検討が必要となっている。
5 国道1号線の拡幅問題とともに,川崎にあっては高速川崎縦貫道問題,県道殿町夜光線の拡幅問題など新たな公害発生源となる新増設の課題が山積している。こうしたなかで,これら一連の道路建設と関連する羽田空港「神奈川口」構想がもち上がるに至っている。
その必要性と有用性に関し,その検討を行うと(別途の目的で寄稿した原稿であるが)以下のことが明白となってくる。
羽田空港再拡張事業につき,川崎市は,国への無利子の貸付金100億円のうち,初回分として約9億円を平成17年度予算として計上した(1月19日付読売新聞)。しかし,その前日,朝日新聞は,川崎市の目論見に反して羽田「神奈川口」構想に関し,「空港関連施設は困難」と報道した。すなわち,川崎市が求めている航空会社のカウンターや税関・出入国管理・検疫施設(CIQ)の誘致は,航空会社や法務省,厚労省,農水省からセキュリティー(保安)の関係上,難しいと判断されているというのである。その上,需要見込についても問題点が指摘されている。
ゼネコン・マリコン型大型事業の場合,ありもしない公益性,公共性,必要性の議論を前面に押し出すため,需要予測は,事実に反し「過大予測(アセスメント)」され,他方,事業費用は反対論,慎重論を押さえるため当初時点では「過少予測」し,いったん事業を開始すると既成事実とばかりに事業費見積もりを修正に,修正を重ねて過剰支出する。この官僚の狡猾な手口は,アクアライン,川崎縦貫道事業で暴露され,もはや通用しなくなっている。 将来的事業である川崎市縦貫地下鉄問題でも同様の問題が指摘されている。
「神奈川口」構想も,無利子貸付金100億円は別途川崎市が金融機関から借り受け,これを国に貸し付けるもので,この利子分50億円は,川崎市の財政負担となっている。その上,道路施設や関連施設の建設に4ケタ(億)にのぼる事業資金の支出を川崎市として余儀なくされるもので,当面の貸付金100億円のみの強調の議論は正しくない。その上,前述したとおり,川崎の目論見は大きくはずれようとしている。
需要見込の「過大予測」と事業支出の「過少予測」について,徹底した市民討議が求められている。
川崎の臨海部の活性化は,川崎公害裁判の教訓に学び,「環境再生とまちづくり」(昨年10月16日の川崎公害国和解・5周年記念シンポ参照。12月5日の同シンポの統括会議は「神奈川口」構想につき批判的,消極的)の視点から見直されるべきで,その際のキーワードは,きれいな空気,自然環境の保全,海と川の再生,すなわち「大気と緑と水(辺)」を基本とし,その上で,市民要求にも応え得る市民参画型のものとして体系付けられるべきものとなっている。
6 今年度における川崎での取り組みで特筆すべきものは,全市全年齢対象のぜん息患者に係る医療費救済に関するたたかいである(川崎市における救済条例,要綱の内容は報告ずみ)。
8万弱の署名の積み上げ,川崎市交渉(市長,局長,部長以下交渉)の展開,医師会要請(会長,副会長と2度にわたり面談),市議会対策(政党毎に担当者を決め,継続的要請。民主,公明,共産,神奈川ネットについては団長面接も実現),議会請願と委員会傍聴,議会(本会議)開催中の週一宣伝行動,川崎駅頭宣伝,「ぜん息救済連」の立ちあげとシンポジウムの開催,マスコミ対策等々この1年半の間,さまざまな取り組みが展開された。その結果,昨年11月から12月にかけての市議会の委員会,本会議で次のような川崎市の答弁を引き出すに至った。
《成果と到達点》
- 判決後の事後処理として(新規事業ではない)全市・全年齢を対象としたぜん息患者の医療費救済制度を実施していく。(現在の対応では,平成18年度開始。対象人数推定9,100人。予算額5億6千万円。救済水準は現行の「成人呼吸器医療費助成要綱」制度と同じ。)
《その理由として》
- 川崎区・幸区対象の救済制度では,行政区間に格差が生じ,市民から不公平感と疑問が発せられ,是正することによってのみ,その解決が図られること。
- 中原区以北の区に救済すべきぜん息患者が全体の6割を超える現状があり,増え続けていること。
- ぜん息治療は,初期治療が必要であり,その費用対効果が大きいこと。
《今後の手順として》
- 川崎市は,制度のしくみ,内容について既存の「成人呼吸器疾患医療費助成要綱検討委員会」(=以下検討会という。委員長宮川政久川崎市医師会会長)に2004年12月初旬に問題提起をし,年度内に検討結果の報告をもらう。(予定)
- 報告結果を受け,行政として検討し,予算折衝を行っていく。
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川崎市は財政難を理由に,全市全年齢対象の救済には容易に立ち上がらなかった。しかし,1年半にわたる前記闘いの結果,ようやくその先の見通しが開けるところとなった。
但し,私たちの要求は,平成17年度当初からの救済,それが若干遅れるとしても6月市議会,もしくは9月市議会で補正予算を組んで年度途中でも実施すべきことを要求している(10月30日が川崎市長選投票日)。
一方,川崎市は平成18年4月1日実施の線を崩していない。そのいみでまだ早期実現に向けてのせめぎ合いはつづいている。
いずれにしても川崎市の南北に伸びる特性とそれに対応する幹線道路網の存在からして,自動車排ガスによる汚染は,川崎市南部の臨海部に止まらず,その汚染は全市に及び,近年では「緑の多い地域」(但し,近時の乱開発はすさまじい)といわれた北部地域に南部と同等,もしくはそれ以上の被害が発生している。
従って全市全年齢対象のぜん息患者救済は当然のこととなっている。
その手順としては,前期検討委員会の結論(答申)を必ず本年度3月末までの年度内にあげさせること,それに基づいて直ちに川崎市をして補正予算の検討を行わせること,その上で6月市議会もしくは9月市議会に補正予算の議案を提出させることが必要となっている。
ちなみに,川崎公害病患者と家族の会は,川崎の中北部地域の未救済患者対策の受皿として,川崎北部に患者会組織を立ち上げることとし,すでに専従事務局長を配置し,本年2月5日に北部事務所の事務所開きを行い,患者の組織化と組織強化に乗り出している。