九州廃棄物問題研究会の1年の歩み(2004年)
弁護士 小宮和彦


1 大型焼却施設差止訴訟
(1) 九州廃棄物問題研究会(略称「九廃研」)では一般廃棄物焼却施設の差止訴訟に全力で取り組んでいる。福岡県内で3訴訟,佐賀県内で1訴訟をかかえる。いずれの焼却施設も,旧厚生省の指導のもとに複数の市町村が一部事務組合を作って設置した大型焼却施設である。つまりダイオキシンが発生しやすいと言われる小型焼却炉を廃止し,複数の市町村が一緒になって1日100トン以上の廃棄物を高温で24時間連続焼却させる大型焼施設を設置したものである。同様の大型焼却施設は全国津々浦々で設置されている。
 これらの大型焼却施設は24時間連続で大量の廃棄物を焼却できるのだが,逆に,焼却炉を停止したり再度立ち上げたりする際には大量のダイオキシンが発生するため,常に廃棄物を焼却し続け運転を継続し続ける必要がある。つまり大量生産・大量消費を前提としているため大量の廃棄物を常に必要とするのである。このためごみ減量・分別・再資源化などの運動は必要ないどころか,大型焼却施設にとっては邪魔な運動となる。大型焼却施設はこのように矛盾をはらんだ施設なのである。このため私たちは大型焼却施設によるのではなくゼロウェイスト運動などの廃棄物を減らし無くす方法によってダイオキシンを削減すべきであると考えている。
 さらに大型焼却施設のほとんどはガス化溶融炉という新しい方式の炉が多く,外国では大きな事故も発生しているなど技術的に確立された技術とは言いがたい。燃焼管理も複雑でダイオキシン対策として必ずしも有効とは言えないだけでなく,重金属などの他の有害物質を排気ガスとして排出して新たな公害問題を引き起こす恐れも指摘されている。
 このような問題の多い大型焼却施設の差止を求めているのであるが,いずれの訴訟も法律構成としては,このような焼却施設では現在のダイオキシン基準値(0.1ナノグラム/?)を遵守できないことを前提に,既に平均的日本人が大量のダイオキシン類を摂取させられている上に,それに上乗せして焼却施設の周辺住民がさらに基準値を超えるダイオキシン類を摂取させられることは人格権侵害であるとして差止を求めている。
(2) 福岡県内の3訴訟は2002年3月の同時提訴から既に3年近くが経過し,佐賀の訴訟は1年遅れの提訴で約2年が経過する。これまで弁論や弁論準備を繰り返し,焼却施設データ提出をめぐる論争や提出されたデータの信用性などについて論争を繰り広げてきた。
 現在の国の規則では1年間に4時間だけの排気ガスを測定してダイオキシンの基準適合性を判断すればよいことになっているため,被告はこの方法によって測定した結果によって施設がダイオキシン基準値を遵守できると主張している。これに対し,たった4時間の測定では信用できず長期間にわたる連続測定によって判断すべきであり,それをしない限りは基準値を遵守できるとは言いがたいという論争を展開してきた。
 運動面においてもダイオキシンの連続監視装置を設置するよう署名・請願などを展開してきた。
(3) このような訴訟と運動の進展の中,2004年2月には福岡県内の1訴訟(朝倉郡三輪町内の焼却施設差止訴訟)で武蔵工業大学の青山貞一教授の証人尋問を行ない現在のダイオキシン測定方法が信用できないこと及び連続監視装置の設置が必要性であることについて立証した。同訴訟では焼却施設の検証も行われ,裁判所は和解の方向をさぐろうともしている。
 また各訴訟とも焼却施設メーカーの職員を証人として申請し採用を求めている。ある程度の焼却施設のデータも提出されたため(きわめて不十分ではあるが),各焼却施設のダイオキシンコントロールの困難さをメーカー証人によって反対尋問として立証しようとするものである。しかし被告は書面による回答で十分であり証人尋問の必要はないとして反論して早期結審を主張している状況にある。これから裁判所に現在のデータの信頼性のなさ,焼却施設の危険性を十分に理解させメーカー証人の採用を決断させる必要がある。
 しかし裁判にだけ頼ることはできない。ダイオキシン連続監視装置の設置運動の展開,そのために監督指導機関である県を動かし,また国(環境省)を動かす必要がある。さらにそのためには全国的な運動の取り組みの必要を感じている。

2 処分場差止
 筑豊(チクホウ)の筑穂町(チクホマチ)にある安定型産業廃棄物処分場について,2004年9月30日に福岡地方裁判所飯塚支部にて差止の仮処分決定を得た。これからは原状回復を求めることとなる。
 この処分場はもちろんだが,他の処分場についても,各地住民が連帯して県庁の担当部署との交渉を続けている。行政による操業停止を含めた適正な指導監督がなされ,裁判することなく適正な廃棄物行政が行われるように粘り強く交渉を続けていく必要がある。

3 2005年度は一般焼却施設差止訴訟の正念場を迎える年になるであろう。訴訟と運動を連動させて全力を傾けて解決に向けて取り組みたい。