〔4〕名古屋南部大気汚染公害訴訟の報告
名古屋南部大気汚染公害訴訟弁護団


1 はじめに
 2001年8月に全面解決和解が成立してから、3年半余りが経過した。国との和解で確認された国道23号の環境施設帯整備、車線削減のための交通量調査、沿道環境改善のための連絡会設置、健康調査、企業から勝ち取った解決金をもとにした街づくりの取り組みなど、環境改善と住み良い街づくりのための課題は山積している。特に国との道路連絡会については、大気環境改善の決め手となる大型車交通量削減のための対策の具体的展望はなかなか見えてこないのが実情である。
 昨年の尼崎におけるあっせんの成立を受けて、名古屋においても、国に対して尼崎と同レベルの大型車交通量削減のための利用者アンケート調査・検討をさせる取り組みが焦眉の課題となっている。しかし、中部整備局側は、大型車交通量削減のための調査は、和解の範囲を超えるため、連絡会の目的の範囲を超えるとして、連絡会とは別に「名古屋南部地域環境会議」(中部整備局、中部経済産業局、愛知県、名古屋市、愛知県警、愛知県トラック協会、中経連、地域住民代表、などで構成)を設置し、原告側にも参加を求めた上で、「その環境会議で提案があれば検討する」という姿勢に固執している。原告側は、「あくまでも和解に基づいて設置された連絡会でおこなうべき」として参加していない。

2 名古屋南部道路環境連絡会関係
(1) 名古屋南部地域道路沿道環境改善に関する連絡会(略称:道路環境連絡会)の第3回は、昨年5月27日に弁護団、専門家、患者会役員のほか原告ら約60名の参加の下に開催された。
 連絡会では、国土交通中部整備局と環境庁の担当者が、和解条項に基づいて計画した対策の進行状況や今後の予定を報告した。
 中部整備局からは、交通量削減の前提として本件地域の交通量の特性を調査した結果をまとめた「名古屋南部地域現況把握資料」の報告があった。これは今回新しく報告された内容であり、交通量削減策を検討する上で重要な内容が含まれていると思われる。要旨は、一番の汚染源である23号の交通については、通過交通量は、大型車についても2割程度に過ぎず、約八割が域内交通であることが判明したという。従って、交通量削減のために考えるべき方策としては、内々交通をターゲットにした施策や伊勢湾岸を片道だけ利用し、帰りには23号を利用する車両が多いことから伊勢湾岸道の往復利用を誘導する施策が重要だという認識を示した。
(2) 伊勢湾岸道路社会実験
 中部整備局は、上記の調査結果を踏まえて約3億円の予算を投入して、伊勢湾岸道への交通を誘導する社会実験を実施した。実験の概要は以下の通り。実施区間は伊勢湾岸道東海IC〜飛島IC。方式は、a.往復割引方式(往路は有料、復路は無料)b.定期券方式(定期券購入者は何回通行しても無料)。実施期間はa.が9月〜1か月b.が11月から3か月。昨年12月に、a.往復割引方式の実験の結果の速報値が公表された。これによると、社会実験前後の全日・日平均交通量は、国道23号が1810台(約3%)減少に対し、伊勢湾岸道は約3000台増加(約8%)増加という結果となっている。さらに往復方式の結果が注目される。原告側としては、今回の実験は基本的に評価しており、むしろ問題としては、対象区間が限定されていることから、さらに対象区間を広げれば効果が増大することが予想されるので、対象区間を広げて更に実験の実施を要求していく必要がある。

3 大気汚染および交通量の実態について
(1) 和解の成果として新設された23号沿道測定局6局の測定結果について
 15年度の結果は、NOxについては、14年度と同じく6局中3局が環境基準値未達成。SPMについては、14年度は環境基準値を達成した局は1局だけだったが、15年度は、宝神と要町を除いて一応環境基準値を達成している。
(2) 交通量調査について
平成15年7月の交通量調査により、交通特性を分析したところ、以下の特徴が明らかになった。
「・名古屋南部地域の国道23号を走行する車両は名古屋市内及びその周辺に起終点をもつ内々交通の占める割合が多い。・大型車は日中の業務交通が多い。・内々交通の業務交通や通勤交通は多頻度利用であると考えられる。・飛島IC〜名古屋中央IC間では、上りと下りの交通量に大きな差がみられ、片道利用が多く、帰路は国道23号利用が想定される。」この分析を踏まえて上記の社会実験の実施となった。

4 沿道環境施設帯整備について
 和解条項「築地口インターチェンジ付近の国道23号沿道地域において、地元住民の意見を聞きながら環境施設帯整備について取り組む」の具体化については、地元港楽学区の住民代表との検討会を02年7月から開始され、整備イメージ図の作成に至っている。今後とも原告側の意見の反映の取り組みが重要となってきている。また要町交差点の改善についての南区公害患者会との意見交換も始まっている。

5 街づくり関係
 一昨年4月にNPO法人「名古屋南部環境再生センター」が正式発足し、地域経済や都市空間設計の専門家などの協力を得ながら、名古屋南部地域の街づくりのあり方についての検討を続けている。環境再生センターの主な活動内容は・名古屋南部地域の交通負荷・大気汚染軽減に向けた政策の監視、改善要求活動・名古屋南部道路連絡会への参加と共同運営・環境保健活動・生活環境改善活動・名古屋南部地域の環境再生活動・被告企業の公害防止活動の監視と改善要求活動であり、課題の具体化に向けての取り組みが続いている。

6 課題
(1) 中部整備局側は交通特性の分析を踏まえて、初めての本格的な社会実験を行っている。この結果が正式にまとめられるのは17年度の初め頃と思われるが、その結果を踏まえて、どのような具体的な交通量削減対策を検討していくのか、原告側としても検討が求められている。
(2) 大型車交通量削減のための具体的方策(ナンバー規制、中央走行方式、迂回交通の誘導策)についてのアンケート調査の実現へ向けて更に働きかけを強めていく必要がある。これについて中部整備局側は、連絡会の場でなく、名古屋南部地域周辺会議での提案を待って検討を進めるという態度に固執している。現時点では原告側は「連絡会を形骸化するもの」として参加すること自体は拒否しているが、いずれにしても中部整備局側が原告側が求めるアンケート調査に踏み出させる方策を模索していく必要がある。