(2) 和解協定にもとづく公害対策の実施によって、原告居住地域ではおおむね環境基準を達成するなど一定の前進が見られるものの、スピードアップ、列車本数の増大などマイナス要因も多く、和解成立から19年を経たこんにちでも引きつづき綱引き状態である。住民が自らの生存と生活の環境を守るためには、耐えざる営為が求められていると言えよう。
4 名古屋市の対応
04年度に入って、廃線が決定された南方貨物線の撤去工事が始まった。撤去工事に先立ち、鉄道・運輸機構国鉄清算事業本部は、名古屋市に対し、3か所の南方貨物線関連土地の提供を申し出、協議が行われた。その土地の1は、児童遊園地として利用されている。その2は、小学校の隣接地である。その3は、両側をJRの移転跡地に挟まれており、これが民間に譲渡されれば、移転跡地の環境保全目的活用に反するところである。
名古屋市は「これらの土地の取得について、消極的であり、むしろ拒否している感が強い。また、JR東海の原告居住7キロ区間に点在する約27000・の移転跡地の無償譲渡の提案についても消極的である。和解協定に至るまでの協議(新名古屋テーブル)において、移転跡地に関し、『地元住民の意向を尊重し、国・地方自治体(名古屋市)」と協議しつつ積極的にこれを利用する。』と確認されている。
04年12月21日、原告団・弁護団は、名古屋市の担当局と、南方貨物線の3か所の土地とJR東海の移転跡地全体の無償譲渡問題について話し合いを持った。しかし、名古屋市の対応は、到底、地元自治体と思われない、住民要求に背を向けるものであった。名古屋市を沿線住民の側に立たせる課題は大きい。
5 おわりに
昨年10月23日夕方発生した大地震は、新潟県中越地方に大きな被害をもらした。上越新幹線は、走行中の「とき325号」(10両編成)が脱線し、そのまま1.6キロを走り大きく傾き停まった。新幹線開業から40年の歴史で乗客を乗せた列車が脱線したのは初めてのことである。いくつかの偶然が重なり、乗客にけが人が出なかったことは奇跡的といわざるを得ない。
10年前には阪神大震災による山陽新幹線の被害のすさまじさを見ている。原告団・弁護団は、スピードにかける開発費用を災害対策に向けるべきと警告した。JR東海は、高架橋柱等の地震対策を前倒しで実施しているという。果たして東海・東南海などの地震に間に合うのだろうか。奇跡は三度起きるのだろうか。沿線住民の不安は大きい。
JRの本年3月1日のダイヤ改正で、東海道新幹線は、現行の291本から4本増えて295本となった。さらに、東京〜新大阪間に6本ないし8本の臨時「のぞみ」を増発している。スピードアップに加え、列車の増発で果たして沿線の環境は守れるのか。監視活動はますます重要となっている。
そして、同時に関心を払わなくてはならないことは、新たに建設されつつある、あるいは建設されようとしている新幹線の公害問題である。弁護団は地元の人の要請で九州新幹線の建設現場を見たが、それはひどいものであった。沿線住民の生活環境無視の建設のされ方は、40年前の東海道新幹線のそれの再来を思わせるものがあった。名古屋新幹線公害訴訟の教訓が全く生かされていないと言わざるをえない。国鉄の分割民営化の弊害はこんなところにも深刻な形で現われている。これに対抗するためには、既設・建設中・建設予定の沿線住民の連携組織づくりが不可欠だと思われる。