〔5〕東京大気汚染公害裁判報告
東京大気汚染公害裁判弁護団


第1 裁判の状況と今後の進行見通し

 2002年10月の一次判決から2年半近くが経過した。
 この間地裁の2〜5次訴訟は、総論立証が進められ、年内に結審を目指して裁判対策が進められている。高裁の1次訴訟はこれから総論立証が始まろうとしている段階である。この1年の経過をまとめておく。

1 2〜4次訴訟(地裁)
2004年3月30日口頭弁論(総論立証・証人申請)
7月20日福富和夫証人(疫学)、鷹取敦証人(到達)主尋問
10月19日鷹取証人反対尋問
11月16日溝畑朗証人(国申請・到達)主尋問
12月12日福富証人反対尋問
水谷洋一証人(メーカ責任)主尋問
2005年2月 1日溝端証人反対尋問
3月27日水谷証人反対尋問

2 1次控訴審(高裁)
 2003年9月以降今日まで、口頭弁論2回、弁論準備2回を行ない、以下のような証人申請がなされており、証拠調べが進んでいく見込みである。
〔原告〕津田敏秀(疫学、短期影響・推定手法による再解析)
 秋山一男(臨床、発作の繰り返しによる長期的増悪)
 山口不二夫(経営分析の手法によるメーカー責任)
〔被告〕国のみ証人申請高橋敬治(臨床)

 2005年1月に村上敬一裁判長が退任し、原田敏章裁判長が着任した。

第2 運動の到達点と課題

1 裁判勝利を目指す基本方針の策定
 一次判決以降のたたかいも、次の判決への折返し点をすぎ、いよいよ大詰めを迎えようとしている。このような状況の下、昨年の夏合宿以降、全面判決勝利を勝ち取り、全面解決を実現するための、基本的な方針論議と運動を進めるための体制の不十分さが問題提起され、昨年末にかけて議論が積み重ねられた。
 そして12月12日の「裁判勝利実行委員会・全体会議」で「裁判勝利を目指す方針」が確認され、原告団、弁護団、そして支援者の団結と確信を大きく深めることができた。これにより運動は大きく飛躍的に前進したといえよう。
 この基本方針では、まず第1に、東京大気裁判勝利が「2007年問題」として議論されている公健法の見直し・改悪の策動や医療制度改悪などの流れを食い止め、国民の権利の擁護拡大していく上で重大な意義があることを確認した。
 第2に、法廷においては、面的汚染の因果関係とメーカー責任の2大争点について、一次判決以降、理論面、立証面ともに大きく前進し、法廷では被告を圧倒していること、裁判所が良心に従って公正な判断を下すよう国民の声を集中していくことによって、一次判決を乗りこえて全面勝利判決を獲得することは十分に可能な状況にあることを明らかにした。
 第3に、完全な損害賠償と新たな被害者救済制度の確立を中心とする全面解決要求の実現のための道筋を明らかにした。そのためにはまず当然のことながら全面勝利判決を勝ち取るために全力を集中すること、その上で救済制度の創設のためには主要な財源負担者となるメーカーの決断がカギを握っており、メーカー責任追及の全国的な世論を盛り上げて追いつめていくことの重要性が指摘された。
 第4に、全面勝利判決を勝ち取るための具体的な方針が提起された。その中心となるものは、勝利判決を目指す100万人署名を成功させること、とりわけ裁判官が判決の骨格を決める2006年春までに70万筆以上を集めることを目標とした。同時に裁判勝利のために力を貸してもらえる「サポーター」を意識的に増やしていくこと、従来手が届かなかった市民団体、環境団体との連携、ITの活用、宣伝媒体の工夫などにより広い市民層に理解を広げていく活動の重要性などが指摘された。

2 この間の運動の特徴点
(1) 地域を基礎にした運動の発展と、判決2周年集会
これまで都内20の地域(19区と三多摩)で地域連絡会、青空の会などの支援組織が結成され、定例宣伝、ディーラー要請行動など活発な活動が展開された。また地域の支援者を中心に、八潮団地作戦(品川)、戸山ハイツ作戦(新宿)など、幅広く未救済被害者の組織化を目指した活動にも取り組まれた。
  昨年10月29日の判決2周年集会は、この時期に800名の参加で成功させたことで、原告らを大きく励ますものとなった。参加者のうち500名以上が地域からの支援者であった。
 これからの100万人署名でも、地域ごとに自発的な目標を定めて、活動が進められており、これまでにない大きな広がりを示している。
(2) メーカー包囲のたたかい
これまでディーゼル車対策共闘会議を軸に、昨年2月11日のトヨタ総行動(バス2台80名)、都内各区及び全国20道府県のトヨタディーラー要請行動などに取り組んだ。今年も昨年以上の規模で取り組む予定である。被告メーカーらは1970年代後半以降、公害被害が発生するであろうことを予見しながら、オイルショック以降のトラック販売不振を打開するため、従来ガソリンエンジンを搭載していた中小型トラックなどを、一斉にディーゼル化した。もしこのディーゼル化がなければ、自動車からの粒子状物質(PM)の約4分の3がカットできたはずであることが法廷でも明らかになっている(水谷証言)。
 このような被告メーカーらの公害発生責任はいよいよ明白になってきており、これらの点を含めたわかりやすい宣伝物を作って、メーカー責任追及の世論を広げていきたい。

3 終わりに
 全面勝利判決、そして全面解決を勝ち取るためには、法廷対策と運動の両面にわたって、まだまだ克服しなくてはならない課題は大きい。
 当面、100万署名を成功させること、そのために全国へのオルグも計画している。
 また、被害救済制度を求めるたたかいが本当の意味で全国的な課題として、メーカーや国を包囲していくような動きをなんとしても作っていきたいので、今後も全国公害弁連の大いなるご支援、ご協力をお願いしたい。