道路公害反対運動の現状と課題
道路公害反対運動全国連絡会  事務局長 橋本良仁


1 画期的な判決
 この1年間の道路公害反対運動で特記すべきことは何と言っても、勝訴することが大変困難であるといわれてきた道路関係の行政訴訟で住民勝訴の画期的な判決を勝ち取ったことである。その点で、圏央道あきる野の勝利判決の意義は大きい。
● 2004年4月、圏央道あきる野の住民は、土地収用法による事業認定を取り消すという住民勝訴の画期的な判決を勝ち取った(東京地裁民事三部)。高規格幹線道路であり都市再生の最優先事業として首都圏三環状道路整備に位置付けられている圏央道の公益性を否定した判決の意義は大きい。騒音や大気汚染被害が予測される欠陥道路の建設は事業認定の要件を満たさず、土地収用は違法であると断じた。国、道路公団、東京都は控訴し、東京高裁で審理中である。地裁判決を維持する闘いは今後ますます重要となっている。
● 高尾山天狗裁判の判決は2005年夏
 00年10月提訴の圏央道工事の差止めを求める民事訴訟は05年中には結審の予定である。02年7月提訴の圏央道事業認定、収用裁決取消しを求める行政訴訟は審理が進み05年2月に結審し夏には判決が出る。圏央道あきる野の勝訴判決に引き続いて勝訴することが求められている。
● 西東京市で都市計画道路工事の差止めを求めて提訴(04年11月)した。
● 広島市国道2号線高架道路建設差止めと被害賠償を求めて広島地裁で審理中である。
● 名古屋都市高速道路では提訴を検討している。
 被害を受けて闘うのではなく、裁判などを活用した道路建設の事前差止めを求める闘いに発展してきている。

2 行政の対応に変化
 住民との合意形成を無視した一方的な公共事業の在り方に対して国民の行政への批判は強い。国交省はこれまでの国民の批判が大きい公共事業の進め方を改め、今後の公共事業の在り方を国民との合意形成を重視する政策として各種審議会や研究会の提言という形で公表し、これを推進する姿勢を打ち出している。
 計画段階のものにはPI(パブリック・インボルブメント 関係住民との合意形成の下で事業を進める)手法を適用することは当然であるが、すでに都市計画決定が終了している事業中の案件についても関係住民に対して説明責任を果たすことや合意形成をはかることは重要である。全国各地で道路建設反対の裁判や建設反対の住民運動などが起きるなど紛争状態にある事業は、一旦事業を中止して見直しを含め再検討する必要がある。
 国民との合意形成を重視する政策を提示しておきながら、住民との対応窓口となる地方整備局や各国道工事事務所などの対応は、政策との大きな齟齬が見られる。最近、行政の政策には一定の変化が見られるが、政策と矛盾している現場の対応は直ちに正すことを強く求めていく。

3 今後の課題
 税金のムダづかい、大規模な自然破壊、環境破壊、住民の生活破壊をもたらし暴走し続ける大型公共事業に対して住民勝訴の司法判断が出始めた。水俣病公害訴訟を始めとした公害訴訟と勝利判決・和解、大気汚染公害訴訟や薬害訴訟の相次ぐ勝利判決を土台に川辺川、有明海、圏央道あきる野勝訴と住民勝訴の大きな流れが出てきた。全国公害被害者総行動に結集した団体を始め、連帯の運動をさらに広げることが必要である。
 国民との合意形成を重視するとした公共事業の在り方など行政手続きの民主的転換を進める運動を掛け声だけに終わらせるのではなく、実効あるものにすることはますます重要である。そのために各地域で旺盛な運動を展開すると同時に全国的規模での運動を行う。
 裁判は運動を前進させるための有効な戦術ではあるが、裁判だけに運動を矮小化させてはならない。裁判は多大な労力と費用と時間を必要とすることも事実である。
 運動を成功させるカギは、沿線住民だけの運動から周辺の多くの住民の理解と支持を得ることのできる運動に発展させることである。いかに多くの人に事実を知らせ、運動への共感を得るかは今後の重要な課題である。
 いま、若い人達が運動の輪に加わることのできる運動の在り方が強く求められている。若い世代へのアプローチは特段の努力を傾注する必要がある。