第二京阪道路公害調停
弁護士 村松昭夫


1 第二京阪道路と公害発生、環境破壊の危険性
 第二京阪道路は、門真市の近畿自動車道の接続部分を起点に、寝屋川市、四条畷市、交野市、枚方市の5市を通過して、京都市伏見区横大路まで延びる延長29.7km(大阪府内17.6km)の自動車専用道路と一般道路からなる幅100メートルにも及ぶ巨大道路である。計画によれば、車線数は、自動車専用部が6車線、一般部が2車線ないし4車線、大阪府内の大部分は自動車専用部と一般部の2階建構造で、計画交通量は、少ないところで1日7万台、多いところでは1日13万台にも上る。淀川左岸地域における国道一号線などの慢性的な渋滞を軽減し、京阪神都市圏の活性化を図ることなどが建設目的だと言われている。
 すでに、横大路インターチェンジから枚方北インターチェンジまでの自動車専用部は開通しており、それ以外の地域についても、国と公団は地元説明会を開催するなど順次工事に着手している。
 その一方で、沿道住民からは、巨大道路の建設に伴う大気汚染や騒音などの公害発生の危険性、地域分断や公共施設へのアクセス障害の発生、都市周辺の貴重な緑の減少などを懸念する声が上がっている。特に、門真市では、1日交通量4万6000台と1日交通量1万5000台の既存の幹線道路に加えて、1日交通量12万5000台の第二京阪道路が建設されることによって、3つの大幹線道路に取り囲まれる「魔の三角地帯」と言われる地域も出現する。さらに、第二京阪道路が市街化調整区域を通過する寝屋川市では、山林や田んぼなどの貴重な都市近郊緑地が大幅に減少するなど自然環境の破壊や、古代か中世までの遺跡が重畳的に出土するなど貴重な埋蔵文化財も発掘されており、埋蔵文化財の破壊も指摘されている。

2 ねばり強い公害反対運動と6000名の道路公害調停
 枚方、交野、寝屋川、門真の各沿道自治体では、環境悪化を懸念した住民によって、すでに20年以上も前から「第二京阪国道公害反対連絡会議」が結成され、高架部分のシェルター化、掘割部分の蓋かけ、脱硝装置つきの換気施設の設置などを要求して、活発な公害反対の運動が取り組まれてきている。ところが、国や公団は、平成2年に行った環境影響評価(環境アセスメント)では大気汚染は環境基準を満たしているなどとして、こうした沿線住民の切実な要求に背を向け続けている。
 こうしたなかで、平成15年5月、住民要求を集約し、環境アセスメントの再実施と万全な公害対策の実施を求めて、門真市の住民約2600名が公害調停を提起し、追加申し立て分を含めて門真市の申請人は現在約3300名となっている。さらに、平成16年8月27日には寝屋川市、四条畷市でも約2700名による公害調停が提起され、第二京阪道路をめぐる公害調停は、現在6000名を超える全国最大規模の道路公害調停に発展している。

3 環境アセスメントの再実施の必要性
 住民らが公害調停で最も強く求めているのは、環境アセスメントの再実施である。道路建設による様々な環境影響を科学的に予測することは、万全な公害対策を実施する基本的前提である。ところが、国や公団が平成2年に行った環境アセスメントには、様々な基本的欠陥があり、環境アセスメントの再実施は当然の要求である。
 第1には、すでに環境アセスメントの実施から長期間が経過しており、予測結果及び評価の有効性に大きな疑問が出ていることである。すなわち、この環境アセスメントは、手続の実施からすでに14年が経過していることに加え、現在では予測対象年度を4年も経過している。いうまでもなく、環境アセスメントは、手続を行った年度の諸条件を基礎にして、予測対象年度における経済的、社会的状況、さらに周辺環境の状況の変化を予測し、これらを前提にして当該汚染源が環境に及ぼす影響を予測、評価する手続である。従って、こうした予測はいくつかの不確定要素を前提としており、激しい経済的社会的変動を考えれば、そもそも予測から14年が経過し、かつ予測対象年度さえ4年も過ぎている環境アセスメントがそのまま有効性を有しているとは到底言えないものである。従って、従前の環境アセスメントは「賞味期限」を大幅に越えており、環境アセスメントの再実施は当然である。
 第2には、内容的にも、予測環境要素のなかに、微細粒子(PM2.5)が含まれていない点は大きな問題である。平成7年7月の西淀川(2次〜4次)判決が初めて自動車排ガスの健康影響を認めて以来、5回に亘って自動車排ガスの健康影響を認める判決が出され、ディーゼル車から排出される微粒子(DEP)を中心とする微細粒子(PM2.5)の健康への危険性が強く指摘されている。ところが、従前の環境アセスメントにおいては、微細粒子は予測環境要素に含まれていない。PM2・5の予測手法が確立されてなくとも、現状の調査と事後調査は不可欠である。
 第3に、従前の環境アセスメントの予測結果によれば、第二京阪道路が供用開始されても、門真市沖町などの二酸化窒素濃度は0.05ppmであり、環境基準をクリアーするとされている。ところが、平成13年における門真南の常時監視局の測定値は、0.053ppmであり、第二京阪道路の建設前であるにもかかわらず、すでに環境アセスメントによる道路供用後の予測値をオーバーしている。まさに、従前の環境アセスメントの杜撰さ、甘さが事実をもって証明されている。そればかりか、この環境アセスメントによれば、第二京阪道路による二酸化窒素濃度のインパクト(影響)は、0.007ppmとされており、この数値をそのまま採用したとしても、道路の供用が開始されれば環境基準値の上限値0.06ppmぎりぎりになるという結果であり、道路建設によって深刻な汚染が進行することが予測されている。
 さらに、もともとこの環境アセスメントにおいては、気象条件の把握の不十分性、平均走行速度の設定が実際の走行実態と違うこと、予測手法が現状にあっていないことなどが指摘されており、こうしたことからも、環境アセスメントを再実施することが強く求められているのである。

4 現状と今後の課題
 前述のとおり、第2京阪道路をめぐる公害調停は、門真市、寝屋川市、四条畷市で合計6000名を越える申請人らによって取り組まれている。
 しかしながら、国や公団は、申請人らが提起している環境アセスメントの再実施などの課題に正面から答えようとせず、様々な口実を設けて申請人らの要求に応じようとしていない。ただ、従前の環境アセスメントには手直しの必要があることは認めており、その意味では、国、公団に環境アセスメントを再実施させることは可能性は十分にあり、それをどう勝ち取っていくかが当面の最大の課題である。前述のように、あるゆる側面から見て、従前の環境アセスメントに欠陥があることは明白であり、問題は国、公団が再実施を決断するかどうかである。
 調停は、丸2年が経過しようとしており、まさに正念場にかかっている。住民が納得できる環境アセスメントの実施と充分な公害対策の実施に向けて、詰めの調停作業が進んでいる。