全国公害被害者総行動報告
全国公害被害者総行動実行委員会
運営委員長 小池 信太郎


T 今年の公害被害者総行動デーは6月9日〜10日に

 全国公害被害者総行動デーは、30回目という記念すべき節目の年となり、6月9日〜10日、東京でもたれる。
 「力を合わせて公害の根絶を」、このスローガンが、1976年からはじめられた公害被害者総行動の基本となり今日まで貫かれている。そして、この立場を貫ぬき通してきたからこそ、4半世紀をこえる連帯・共同の力によって、全国各地の公害裁判闘争、さらには、ムダと環境破壊をもたらす大型公共事業問題での象徴的な輝かしい勝利をかちとってきたと言える。

U 総行動実行委員会として取り組んできた重点課題

1 重点5課題の取り組み
 公害被害者総行動は、掲げる行動名にも示すように、「被害者救済」「公害根絶」を中心的課題に据えながらも、さらには、ムダと環境破壊をもたらす大型公共事業・巨大開発に反対し、その根本的転換、国民のいのちとくらしを守る運動として発展させてきた。
 昨年も、こうした経緯を継承し、つぎの5課題を重点課題として取り組んできた。
(1) 東京大気汚染公害裁判闘争
(2) 新横田基地騒音公害裁判闘争
(3) ムダと環境破壊をもたらす公共事業反対とその根本的転換をめざす取り組み
(4) 弁護士報酬敗訴者負担反対、国民に身近で信頼される裁判制度確立の取り組み
(5) 全国各地で取り組まれている公害地域再生運動の連携と発展
 なお、これら課題は、本議案書別掲の各特別報告の中で触れられることとなり、詳細はそちらに譲ることとするが、公害被害者総行動実行委員会が関わり、行動面での中心的役割を果たしてきた、「弁護士報酬敗訴者負担」問題について報告する。

2 弁護士報酬敗訴者負担法案を廃案に追い込んだ、公害総行動の取り組み
 「市民に身近で信頼される裁判」を求め、主婦連合会、東京都地域婦人団体連盟、東京都地域消費者団体連絡会、日本消費者連盟など消費者団体と、自由法曹団、公害弁連の法律家団体、ならびに、公害被害者総行動実行委員会に結集する団体など、21の組織が参加し、「司法に国民の風を吹かせよう(風の会)」実行委員会を結成(以下この会を「風の会」と記述する)。
 とくに、弁護士報酬敗訴者負担制度導入問題が、市民を裁判から閉め出すものであり、とりわけ大企業や国などを訴訟相手とする公害・環境運動にとっては重大問題であることから、「風の会」は、「日弁連」や「弁護士報酬の敗訴者負担に反対する全国連絡会(以下「全国連絡会」と記述する)」の提起する諸行動の中で、公害被害者総行動実行委員会に結集する各団体は、実践面での主要な役割を果たしてきた。
 行動は多岐にわたり取り組まれた。「風の会」の9回にわたる集会とその成功めざしての45回の実行委員会開催、推進本部ならびに日弁連が行ったパブリックコメントに対する取り組み、アクセス検討会開催の都度一度も欠かすことなくすすめてきた司法制度改革推進本部前での宣伝行動や推進本部への要請行動、日弁連主催国会請願パレードや集会、31回も開催された日弁連各界懇談会、国会内集会と議員・各党要請行動など、「できることはなんでもやろう」との精力的な行動を展開した。
 敗訴者負担法案(民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案)は、昨年1月に召集された第160回通常国会に提案されたが、反対運動と世論の高まる中で、実質審議をすることができず継続審議となり、秋の161回臨時国会送りとなった。
 "正念場"を迎えた秋の臨時国会に向け、「全国連絡会」「風の会」「司法総行動」の三団体は、共同して取り組む「共同センター」を立ち上げ、法案の廃案めざし有効な運動を展開することを確認し合った。
 臨時国会での取り組みを重視する日弁連と三団体との折衝の中で、「日弁連 弁護士報酬敗訴者負担問題対策本部」として、弁護士会館の一室にこの対策本部室が設けられ、連日の国会行動の"行動基地"としての役割を果たした。
 弁護士報酬敗訴者負担法案は04年12月3日、第161回臨時国会の閉会により、廃案となった。今回、この悪法の成立を許さなかったことは、わが国の民主主義を守り発展させる上での歴史的成果と言える。この事態に対しマスコミも、政府が出した法案が、国会解散という特別な情勢以外で廃案となったということはまったく異例のことと報道した。
 筆者が知る限りでは、かって一度だけ、46年前にあった。
 1958年の警職法(警察官職務執行法)反対闘争のときだ。時の岸内閣が、日米安保条約改定の強行を準備する中で、反対闘争を抑え込むために準備した法案だった。戦前戦中の治安維持法下の暗い警察国家時代を経験した人々などからは、「オイコラ警官反対」と、このうごきに敏感に反応し、ただちに反対運動が広がった。警職法反対国民会議が全国各地四百数十カ所につくられ、労働者の全国的ストライキが行われ、街の商店の店先には、このストライキを支持するステッカーが貼られるなど、文字通りの国民的な大運道によって政府を追い込み、悪法を廃案にしてしまった。筆者も職場・地域でのこの運動に連日参加した経験が今でも鮮明に残っている。この運動が、その後の石川達三氏の小説「人間の壁」となった教職員の勤評反対闘争、60年安保闘争へと発展していった。そしてこの運動の流れが、革新自治体の誕生となり、その革新自治体のもとでの公害・環境対策の取り組みが、環境庁(当時)の設立、公害健康被害補償法の成立など、国の政策を変えさせることにつながっていった。
 さて、今回の成果を生み出した要因は、市民・市民団体・労働団体等と全国各地の弁護士会の共同した取り組みが、「裁判を受ける権利を奪うな」との大きな世論をつくりあげ、国会内に変化をもたらした。
 こうした状況をつくりあげる上で、「司法に国民の風を吹かせよう(風の会)」を立ち上げ、多様な活動を精力的に展開したこと、とくにその中での東京大気汚染公害被害者をはじめとする全国公害被害者総行動実行委員会に結集する各団体の果たした積極的役割は極めて大きく、各方面から評価されている。
今回の運動の成果をもとに、引き続き、・敗訴者負担法案を国会に再上程させない取り組み、・「市民に利用しやすい開かれた裁判」をめざす取り組みが必要となっている。

V 節目の30回、今年の総行動の成功と壮大な発展を展望めざして

 今年の総行動も、前述した5課題を重点課題として取り組むこととなろう。
 公害被害者総行動は、今年30回、来年31回・30周年を迎える。水俣病も来年公式発見(1956年)から50年である。東京大気公害裁判闘争も、今年結審、来年2006年を勝利判決・全面解決をめざしている。憲法改悪問題もまた、政治的な焦点となっている。
 こうした情勢のもと、掲げる要求課題の解決と壮大な運動の前進のためには、弁護士報酬敗訴者負担法案を廃案にした経験を生かし発展させることが求められている。そして、総行動30回目、節目の今年の取り組みとその成功はまた、そうした「壮大な運動」の発展につながるものとして成功させることが必要となっている。