【四】2004年度 組織活動


一 活動の概要

1  今年度の活動としては,2004年3月21日,総会記念シンポジウム「よみがえれ!有明海」を熊本市において開催。会場を埋めつくす約200名の参加のもと,韓国のセマングン干拓事業に対し差止めの仮処分決定を獲得してたたかっている環境運動連合環境訴訟センターの朴泰 弁護士から特別報告を受けたうえで,東幹夫長崎大教授,有明海漁民の前田力氏,よみがえれ有明海訴訟馬奈木昭雄弁護団長,川辺川利水訴訟森徳和弁護団事務局長とコーディネーターの有明海訴訟堀良一弁護団事務局長によるパネルディスカッションが行われた。仮処分決定をふまえて,農水省に中長期開門調査を決断させることが当面の最大の課題となっているが,これは干拓と被害の因果関係を究明するためのものではなく(因果関係は既に決着済み),有明海再生の道筋を検討させるためのものであることが強調され,仮処分決定をふまえた現地と東京の一連の行動の中で,有明海再生に向けて一気に攻めこむ決意を固めあうシンポジウムとなった。
 また第2回事務局会議(拡大)にあわせて開催した徹底討論「公調委をどう活用するか」では,21名の参加のもと,1995年から13年間,公調委の非常勤委員を勤めてこられた南博方一橋大学名誉教授の講演を受けたうえで,実践的かつ活発な質疑・意見交換を行い,とりわけ,専門委員制度とこれによる調査の活用,対国・行政の事件での公調委のメリットと活用の可能性など,今後の公害弁連の活動方向にとっても重要な示唆に富む有意義な討論となった。
 一方,公害弁連総会に先立つ2004年3月20日・21日,公害弁連も共催して,第2回環境被害救済日中国際ワークショップが開催された。今回は中国側から学者,裁判官,行政官,弁護士など大挙15名が参加,韓国からも学者,弁護士の4名が参加,中国・北京で開催された第1回ワークショップから2年半が経過したが,この間の中国での環境被害救済への取組みと日中の交流の深化を反映して,より具体的かつ実践的な討議が展開された。
 なお2005年3月21日には,淡路剛久立教大学教授,水谷洋一静岡大学助教授を招いて,総会記念シンポジウム「大気汚染公害と自動車メーカーの法的責任」を開催した。

2  今年度は事務局会議5回と幹事会4回を開催し,内容は後記のとおりである。
 幹事会では,必要なテーマについて適宜集中討議を行うことが重要である。第2回幹事会は結審を迎えた新嘉手納基地爆音訴訟の最終弁論にあわせて沖縄開催とし,地元の新嘉手納・普天間各弁護団からも9名の参加を得て,新嘉手納・普天間の今後のたたかいについて集中討議を行なった。また,大気汚染をめぐる今後のたたかいについても,前述の徹底討論「公調委をどう活用するか」の討議もふまえて,第三回幹事会において集中討議を行ない,国レベルでの新たな救済制度創設に向けて,公調委の裁定・調停の活用も含む全国的取組みについて有意義な討議を行なった。今年度も,重要な局面を迎えるたたかいについて,当該の若手弁護士の参加も得て集中討議を行っていきたい。一方,公害弁連としての取組みの間口をさらに拡げるためにも,公害環境問題での最新情報や関心のある課題を取り上げた学習会,現地調査の実施など多様な企画を工夫し,若手の弁護団員の出席を積極的に呼びかけていくことも重要である。
 事務局会議は5回開催したが,本年も出席率は良好で,幹事会・総会の準備,当面の活動の執行,ニュースの発行などにあたってきた。今後も活動の枠を広げ,課題に迅速に対応する努力が必要である。

3  公害弁連に加盟している弁護団は,大気汚染裁判と基地騒音裁判,さらに埋立て,ダム,道路建設など大型公共事業に反対するたたかいが中心となっている。
 来年度の課題としては,まず仮処分・仮処分異議事件で画期的勝利をかちとったよみがえれ!有明海訴訟で,早期に公調委原因裁定をかちとったうえで,有明海再生を含めた真の解決を図っていくたたかいに全力で取組まなければならない。そして大型公共事業をめぐるたたかいでは,事業認定取消訴訟で判決を迎える高尾山天狗裁判,画期的な事業認定・収用裁決取消判決をかちとった圏央道あきる野のたたかいで,勝利をかちとることが重要な課題となっている。
 また基地騒音訴訟では,きたる新横田訴訟控訴審判決において,健康被害との因果関係を認めず,救済の範囲をW値85以上に限定した先の新嘉手納地裁判決を克服することが急務となっており,一方差止めの課題では,国と米国のいずれに対しても一切の救済の道をとざす司法の不当性を広くアピールするたたかいの強化が求められている。
 一方,大気汚染をめぐっては,国のレベルでの新たな被害者救済制度の創設に向けて,全国各地で未救済被害者の実態を掘りおこすとともに,国・自動車メーカーを相手とした新たな裁定・調停の可能性の追求も含めた取組みの具体化が求められている。そして尼崎でのこの間の前進を契機とした各地連絡会の実効性ある協議による公害根絶の取組みについて公害弁連としても討議するとともに,公害拡大,環境破壊の道路建設がますます急ピッチで強行されようとする中,各地の道路建設反対のたたかいを結びあって,道路行政の抜本的転換を求める全国的取組みを組織していくことが求められている。
 大気汚染裁判や基地騒音裁判は,いずれも大気全国連や基地弁連を組織して,意見交換・共同行動などが行われているが,これまでの貴重な経験を蓄積している公害弁連として,分野別の枠をこえた裁判対策,運動論の議論を行い,また公害弁連全体の力を結集して共同行動に取組むことが,やはり重要な意義を有しており,公害弁連として十分な役割を発揮していくことが重要となっている。

4  道路・自動車公害根絶と新たな被害者救済制度創設を求める大気汚染のたたかい,国と米国相手に基地騒音の差止めを求めるたたかい,埋立て・ダム・道路建設などの大型公共事業の差止めを求めるたたかいは,いずれも法廷内外を通じて粘り強いたたかいを展開してきているが,その勝利のためには世論を味方につけたさらに幅広い取組みが求められている。そのためにも,これらのたたかいを一つに結んだ地方・中央レベルでの共同行動が今大変に重要となってきており,この点で公害弁連が役割を果たすことが強く求められている。
 いずれにしても,公害弁連が公害被害者総行動,公害地球懇,環境法律家連盟など関係団体との交流や連携を広げ,互いに活動の経験,成果,知恵を共有し,一層公害・環境分野で大きな役割を果たしていくことを追求することが重要である。
 この点から,引き続き「公害弁連ニュース」や総会議案書に他団体からの投稿や具体的な課題での意見交換の場を積極的に設けることはもちろんとして,公害弁連ホームページを重要な武器として,さらに幅広い連携・交流を追求していきたい。

二 活動報告

1   幹事会
(1)第1回幹事会
日時2004年6月2日
場所東京
出席斉藤,近藤,中島,吉野,板井,白川,関島,村松,高木,白井,森,中杉, 加納,岩井,高橋,松浦,後藤,西村(計18名)
内容有明・あきる野集中討議
新嘉手納爆音訴訟
各地報告
 
(2)第2回幹事会
日時2004年6月30日
場所沖縄市
出席榎本,中島,板井,関島,中杉,高橋,松浦,後藤,島袋,松井,横田,金高,岩永,西村,神谷,田島,西村(計17名)
内容沖縄の基地と平和問題
新嘉手納結審と今後のたたかい
普天間基地訴訟のたたかい
 
(3)第3回幹事会
日時2004年10月11日
場所東京
出席近藤,吉野,篠原,板井,松井,神谷,白井,森,中杉,原,加納,岩井,高橋,後藤,尾崎,南雲,西村(計17名)
内容新嘉手納基地爆音訴訟集中討議
大気汚染裁判集中討議
有明仮処分決定とその後のたたかい
 
(4)第4回幹事会
日時2005年1月14日
場所東京
出席斉藤,近藤,榎本,中島,馬奈木,吉野,板井,村松,森,中杉,後藤,堀,西村(計13名)
内容よみがえれ!有明海訴訟集中討議
新嘉手納・新横田の今後のたたかい
大気汚染の今後のたたかい
各地報告
総会・シンポジウム


三 役員事務局会議

1  今年度の開催と参加状況は,次のとおり。
4月28日(5名),7月21日拡大(21名),11月24日(8名),2月9日(9名)3月7日(4名)
2  毎回コンスタントな参加を得て,事務局内での分担をはかりながら,討議,実行してきた。

四 ニュース・通信の発行

1  ニュースは,今年度も予定通り年4回発行し,充実した内容となった。好評の若手弁護士奮戦記の継続,外部からの投稿などさらに積極的な取組みが必要である。
2  「情報と通信」は8回出した。トピックな情報発信の点でさらに充実させる必要がある。

五 財政

 公害弁連の収入は,会費収入と並んでカンパ収入が根幹となっているが,昨年度に続き,本年度もカンパ収入は得られなかった。

六 新規加入

 尺あゆ弁護団(川辺川ダム事業認定取消訴訟弁護団)が新たに加入した。