【水俣病関係】
2004年11月7日
弁護団声明
水俣病訴訟弁護団

 2004年10月15日最高裁は、水俣病について国と熊本県の責任を断罪した関西水俣病上告審判決を下した。
 私たちは、水俣病の国家賠償責任を認めた1987年3月30日の熊本地裁判決(相良甲子彦裁判長)などを梃子に水俣病において国の責任があることを社会的にも明らかにして追及し1995年5月21日福岡高裁(友納治夫裁判長)などで和解をし、併せて11,000人を超える水俣病患者の救済を実現した。
 今回の最高裁判決はこうした水俣病における国の責任を確定させたもので、判決を勝ち取られた関西水俣病原告および関係者に心から敬意を表するものである。
 今回の最高裁判決は、法律についてはハンセン病国家賠償訴訟熊本地裁判決、省令については筑豊じん肺訴訟最高裁判決に引き続き、水質二法上の政令についての立法不作為責任を認めたもので、もはやこの国の立法や行政は司法判断を閉ざす聖域ではなくなったものである。今回の判決で、国は水俣病においては内閣で政令を制定してでも水俣病を防ぐ義務があることを宣言されたもので、国は水俣病における責任がいかに重いのかを深く反省し、直ちにすべての水俣病患者に謝罪すべきである。
 今回の最高裁判決は、現行の行政認定制度が広く水俣病患者を救済するものとなっていない点を厳しく批判しており、高く評価されなければならない。
 しかしながら、環境省は、今回の最高裁判決が行政上の水俣病と司法上の水俣病を区別した大阪高裁判決を容認し、原告患者らを司法上の水俣病としたことを捉えて、幅広い救済への道を頑なに拒否している。環境省のこのような態度は水俣病問題の根本的解決のために直ちに改めるべきである。
 ところで、水俣病患者は公害患者であり、医療救済が必要なことはもとより当然のことである。環境省、熊本・鹿児島両県は、裁判所で水俣病とされた関西訴訟の原告はもちろん、水俣病第2次訴訟原告にも医療救済を実施していないが、直ちに必要な医療救済を実施するよう強く求めるものである。
 私たちは、国においては、今回の最高裁判決を受けて次のことを直ちに実施することを求めるものである。
 第1に、環境省国立水俣病総合研究センターが報告を受けた水俣病に関する社会科学的研究会の「水俣病の悲劇を繰り返さないために」は、水俣病第3次訴訟から関西訴訟最高裁判決まで裁判で明らかにされた国の責任に関する部分を欠いており、国において改めて水俣病における国の責任を抜本的に見直し、地球的規模で再び水俣病のような惨禍が起こらないように調査の上報告書を作成・公表すること
 第2に、最近鹿児島県で水俣病の新規認定患者が出たことなどに見られるようにいまだに救済されない水俣病被害者がおり、さらに長期微量汚染や環境ホルモンレベルで水俣病被害の調査・研究の必要性が強く指摘されている。国は、こうした事態を踏まえ次の措置を取ること
(1) 現行行政認定制度および政府解決策で救済されていない水俣病被害者がいることを前提に、最高裁判決などの司法判断を踏まえ、一時金・医療費・継続的給付などを内容とする救済制度を早急に作ること。
 ただし、これが現行行政認定制度、政府解決策により救済された水俣病患者を一人でも切り捨てたり、救済内容を低めるものであってはならない。
(2) 水俣病公式発見50年を迎える前に、水俣病被害の全体像を明らかにするために、改めて水俣病発生地域の被害調査・研究を長期微量汚染や環境ホルモンレベルまで拡大して行うこと