道路全国連(道路公害反対運動全国連絡会)
事務局長 橋本良仁

1  道路特定財源の一般財源化
 2008年通常国会は、いわゆる「ガソリン国会」と化した。07年11月国交省道路局は、08年4月からの「道路の中期計画」を発表したが、計画年数を5箇年から倍の10箇年とした。当時の福田政権は「道路特定財源延長法案」と「暫定税率維持関連法案」を国会に提出したが、世論調査では「道路の中期計画」に反対が90%、特定財源の一般財源化賛成は60%に達していた。
 前年の参議院選挙で野党が多数となっていた「ねじれ国会」において、08年3月31日をもって暫定税率失効という前代未聞の出来事が生じた。その後、衆議院の2/3以上の賛成で再可決されたが、福田首相は、2009年度から道路特定財源を一般財源化するという公約を閣議決定した。この事実を見ただけで、いかに政府や国交省の考えが国民世論から乖離しているかが判る。2008年4月26日、道路全国連は、「ムダで有害な道路建設を止めるため道路中期計画を廃止し、道路特定財源の一般財源化を求める」の声明を発表した(資料1を参照)。

(資料 1)
ムダで有害な道路建設を止めるため
道路中期計画を廃止し、
道路特定財源の一般財源化を求める

2008年4月26日
道路公害反対運動国連絡会

必要な高規格道路の大部分は既に整備が終わっている

 1953年、道路整備を目的に揮発油税を道路特定財源とする「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」を田中角栄氏らが議員立法で制定した。1954年には第1次道路整備5ヶ年計画が策定され、それ以降、道路特定財源は年に総額5~6兆円もの規模になり、高規格道路と呼ばれる高速道路を中心に日本の幹線道路は飛躍的に整備された。
 一方、有料道路事業は道路公団を中心に1961年から始まり、これまでに整備された有料道路は計画されている高規格幹線道路14,000kmのうち、約8,200kmに達し、直轄による約1,100kmと合わせると整備済みの高規格道路は約9,300kmになる。この結果、建設費に見合う整備効果が期待でき、必要とされる高規格道路のほとんどは既に整備されている。

大規模な高規格道路整備の一方で
真に必要な生活道路の整備が切り捨てられている

 しかし、このような高規格道路に対する巨額の投資にもかかわらず、国民の道路に対する不満は大きい。これは一般国道約54,000kmに対し、高規格幹線道路14,000km、準高規格道路としての地域高規格道路約7,000km、計21,000kmと一般国道の4割にも達する高速道路が計画され整備されてきた結果、生活道路が切り捨てられ放置されてきたからである。08年から始まる道路整備10ヶ年計画が現在「道路中期計画」として国会で論議されているが、総額59兆円の約4割にあたる約24兆円が高規格道路整備にあてられる一方、相変わらず真の生活道路整備への投資割合は少ない。
 今後、建設が予定されている高規格道路の路線は交通量の少ない地方が中心である。公共交通の少ない地方、特に中山間地ではクルマが唯一の交通手段であり、日常生活のかなめである。こうした地域の住民要求は、国道も含めた生活道路の拡幅、ガードレールの設置など、現道の改良と安全対策の充実、そして土砂崩壊防止などの災害防止にあり、高規格道路の新設を望んではいない。都市部においても歩道の整備などが放置されており、生活道路の整備は急務である。今後予定されている高規格道路の新設を止め、その費用をこれら生活道路の改善にあてれば、その大部分は達成される。

これ以上の不必要な高規格道路建設は
負の遺産のみをもたらす

 高規格道路の新設は、大気汚染、騒音など生活環境や、自然、景観、文化財などを破壊するため、新設道路予定地のほとんどで住民の反対運動が起っている。また、今後予定されている地方における高規格道路建設は完成後の交通量が少ないため、有料道路として採算が合わず、道路特定財源による直轄事業とならざるをえない。しかもこの直轄事業には地元負担が25%もあり、アクセス道路等を入れると約30%が住民負担となり、地方自治体財政を破綻させている。
 厚労省の社会保障・人口問題研究所は、2050年推計で人口は現在に比べ約30%減り、65歳以上の高齢者が総人口の40.5%に達するとしている。30年後の自動車台数は3割以上減ると予想され、現在、建設している高規格道路は軒並み交通量が減少し採算割れ、不良資産となることが目に見えている。私たちの子どもや孫に高規格道路という不良資産を残してはならない。
 また、地球温暖化原因物質全体の2割を排出している自動車交通を抑制しようという時代に、自動車交通のための高規格道路建設を建設し続けることは世界の流れに逆行する。

都市部の新設道路の多くにもムダで有害な道路

 国会論議では取り上げられていないが、ムダで有害な道路は高規格道路だけでなく、中期計画にある「生活幹線道路(国道、都道府県道等)29兆円」の内の新設道路計画の大部分もそれに該当する。
 何十年も前に都市計画決定された都市計画道路は全国規模で73,000kmにおよび、その整備率は53%である。半分近くの都市計画道路が未整備ということになるが、実際の都市部の道路ネットワークは既に大部分が整備済みで、新設予定の都市計画道路の多くは既存道路ネットと重複するなど不必要なものが多い。
 現状の都市計画決定されている道路計画は過大である。そのためこうした都市計画道路を新設することは地域のまちこわし、公害をもたらすものとして建設反対や計画変更を求める住民運動の対象となっている。これら都市計画道路が真に必要であるかどうかは計画路線ごとに、関係住民の参加のもとで協議し必要性を検証の上、計画の存続、廃止、変更を改めて決定し直すべきである。実際、埼玉県や兵庫県のように検証の結果、40~50本の都市計画道路を廃止している例もある。都市計画道路ネットワークを社会情勢の変化を踏まえ全面的に見直すことは国の行うべき施策でもあり、こうした見なおしを行うことにより、中期計画にある「生活幹線道路整備29兆円」の半分以上が不必要なものとなる可能性が高い。

ムダで有害な道路の建設を推進し支えている
特定財源制度

 このような不必要な高規格道路や都市計画道路の建設を推進し保障しているのが道路特定財源である。不要な高規格道路建設は住民に過大な財政負担を強い、自然環境や生活環境を破壊し、道路が完成すれば不良資産となる。
 一方、都市部における都市計画道路の新設は誘発交通を発生させるだけで、交通渋滞の解消につながらないばかりか、かえって深刻化させる例さえある。このような結果もたらす道路特定財源制度は直ちに廃止して一般財源化すべきである。道路特定財源を一般財源とし、国規格の道路建設および改良修繕などの補助制度の地方自治体押し付けを廃し、地方分権にふさわしく地方自治体にその使用裁量もまかせることが必要である。

総合交通政策の確立でクルマ依存を脱却する
福祉、医療などの課題に対応する社会のためにも
ムダな道路建設を止める

 道路特定財源の一般化への動きとして05年5月、小泉首相が経済財政諮問会議で道路特定財源の一般財源化を含めた見直しを指示し、同年12月、政府・与党は一般財源化を図る基本方針を策定した。07年3月安倍内閣では1,806億円を一般財源化する07年度予算が成立した。08年3月には福田首相が09年度からの一般財源化を表明した。しかし、与党内には「必要な道路は建設する」との要求が強く、その「必要な道路」の中で高規格道路の優先が位置づけられている。
 国民が真に望んでいるのは大型道路建設ではない。日々の生活に欠かせない生活道路の整備や補修である。都市部の渋滞対策はクルマのための道路の新設ではなく、公共交通機関の整備とTDM等の実施によってクルマ依存を脱却しクルマの総交通量の削減を目指す総合交通政策にこそ求められるべきである。道路特定財源の一般財源化にあわせ、そうした政策こそ確立する必要がある。
 少子高齢化社会を迎え、福祉、医療、年金、教育など課題は山積している。こうした課題に対応するためにも道路中期計画の廃止と道路特定財源の一般財源化を強く求めるものである。国民生活向上のためにも、我々の力を結集してムダで有害な道路建設を止めよう。

2  国会審議なしで個別の道路建設が進む
 1953年、田中角栄議員らは議員立法による「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」を提出し可決させた。この法律は時限立法であり、暫定5箇年計画であるため、建設大臣が策定し閣議決定さえすれば国民の代表により国権の最高機関である国会の審議なしに成立するという代物である。政・官・業の癒着による「道路建設の暴走」は、この翌年から始まり現在に至っている。
 国会の審議の必要性を認めない超法規である「道路整備費の財源等に関する臨時措置法」の悪法ぶりは、最近の国会予算質疑でも明らかである。新規建設道路や、事業化から5年経過後も未着工、さらに着工後10年経過した道路事業の個別の事業評価を問題にすると、道路関連予算の大枠には答弁するが、個別道路の評価や再評価、予算などには答えないというのが政府の一貫した姿勢である。

3  裁判、各種議会への働きかけ、そして世論を広げる
 司法には、行政の暴走をチェックする機能が求められている。道路関係の住民団体や自然保護団体は、全国各地で司法の場で戦いを進めている。
 圏央道の高尾山天狗裁判は「あきる野~八王子ジャンクション間事業認定取消請求行政訴訟」が最高裁に上告中であり、その他、東京高裁では圏央道工事差し止め請求民事訴訟、東京地裁では高尾山部分の事業認定取消請求の行政訴訟を行なっている。横浜環状南線(圏央道の一部)では住民団体である横浜連協が国交省の強引なボウリング調査を差し止めるための行政訴訟を起こしたが、昨年末敗訴した。
 そのほか、西東京3・2・6号線の建設差止め訴訟は2009年2月に東京地裁で結審し、下北沢補助54号線、国分寺3・2・8号線、二子玉川補助49号線、さらに広島国道2号線が司法の場で闘っている。

4  道路公害反対運動全国交流集会
 2008年11月、8・9日、大阪を会場に、「21世紀の道路行政と健康・環境を考える」をテーマに第34回道路公害反対運動全国交流集会を開催した。集会参加者は、国会でも議論された道路特定財源の問題点と一般財源化への道筋やPM2.5環境基準制定を求める運動を広げるための議論を深めた(資料2を参照)。

(資料 2)
第34回 道路公害反対運動全国交流集会アピール

2008年11月9日
第34回道路公害反対運動全国交流集会

道路行政を抜本的に転換し、
健康と環境を守り、安心・安全の国づくりを

 国民のみなさん
 私たちは、道路公害から健康と環境を守り、ムダと自然破壊の道路づくりの転換をもとめて、全国から48の住民運動団体、168人が集まり全国交流集会を開催しました。
 集会での講演・報告や各地の運動の交流を通じ、私たちの運動が、国民的課題となっている道路問題の解決に大きな役割を果たさねばならないことを改めて確信することが出来ました。

<公害は終わっていない。
東京大気裁判の成果を生かし、
健康被害の救済環境基準の強化を>

 昨年、東京大気汚染裁判の勝利和解は、ぜん息始め道路公害の救済が切実に求められていることを示しています。公害はなくなったという行政の宣伝は誤っています。
 西村隆雄弁護士らから東京大気裁判の成果に基づくぜん息患者の医療費助成が始まり、多くのぜん息患者から喜ばれている報告が行われました。大阪では、東京に続いてぜん息患者の救済を求める府民運動が始まろうとしています。こうした取り組みが各地ですすめられ、その重要性があらためて強調されました。
 島田章則・鳥取大学教授の記念講演で紹介された犬の肺に蓄積した浮遊粒子状物質は大気汚染の凄まじさを改めて示しています。
 また、西川榮一・神戸商船大学名誉教授の報告は、PM2.5基準が未だに決まっていないことや二酸化窒素の環境基準が甘いことなど、日本の環境基準が国際的にも遅れていることを示しています。
 私たちは、国はPM2.5の環境基準を早急に決め、また二酸化窒素の環境基準を年平均値20ppb以下に強めることを要求します。また、道路公害をなくすための監視体制の強化、最新の公害対策の実施を国等に要求します。

<地球温暖化を悪化させる
自動車排出の二酸化炭素削減を>

 地球温暖化対策が待ったなしの中、自動車排気ガスによる二酸化炭素の排出量が大きく増え続けています。地球温暖化対策のためにも自動車からの二酸化炭素排出量を削減する交通運輸政策への転換を求めます。

<「道路中期計画」をとりやめ、
道路特定財源の一般財源化を>

 小井修一さんはじめ多くの報告、発言は道路特定財源の一般財源化が国政の重要課題になっており、「道路中期計画」中止など税の使い方の在り方からも自動車中心の交通運輸政策の抜本的な見直しが求められていることが明らかになりました。
こうした中、各地でムダな道路はいらない、また自然環境、文化財、住環境を破壊する道路は止めて欲しいという取り組む運動など新たなまちづくり運動が一層重要になっています。

 国民のみなさん
 今や自動車中心・高速道路建設優先の国づくりを、環境・福祉優先の国づくりへ転換する重要性は誰の目にも当たり前になってきています。
 私たちは、道路自動車行政の抜本的な転換をもとめる世論の流れに沿い、流れを強め、国民的な連帯を築いて新しい国づくりに役立つよう新たな決意ですすむことをここに表明します。

5  全国公害被害者総行動や公害弁連との共同
 ムダで有害な公共事業によって予測される公害の被害を事前に差し止める闘いは、新たな段階に入っている。受けた公害の被害を補償させ、公害を発生させない社会を構築することから、公害発生を未然に防ぎ、自然環境や住環境を守る闘いが求められている。九州の川辺川ダム、有明海の闘いは大きく前進した。
 「やま・かわ・うみ・そら」を結んで、ムダで有害な公共事業を止めさせる運動を、全国公害被害者総行動実行委員会や公害弁連と共同して進めることは言うまでもない。