2008年7月9日
九州弁護士会連合会 理事長 徳田靖之

 佐賀地方裁判所は、2008年6月27日、国に対し、諫早湾干拓事業(以下「本件事業」という)で設置された潮受け堤防の南北排水門について、判決確定から3年以内に開放し、以後、5年間にわたって開放を継続する(以下「開門」という)ことを命じる画期的な判決を出した。
 1997年4月14日の潮受堤防締め切り以降、「有明海異変」と呼ばれる重大な海洋環境の変化が生じ、2000年のノリ養殖業の歴史的な大不作を始め、特に、漁船漁業に深刻な漁業被害が生じていた。
 本判決は、潮受け堤防による締切りと、佐賀県大浦地区、長崎県有明地区及び島原地区の漁船漁業者の被害との因果関係を認め、漁業被害の回復のために、上記のような開門を求めた。
 日本弁護士連合会は、これまで2度にわたる会長声明及び意見書の発表により、排水門を開放し堤防内に海水を導入すること等を求めてきた。
 当連合会も、日本弁護士連合会と共同の調査や2003年11月1日にシンポジウム「有明海異変と諫早湾干拓事業」を共催するなど、地元連合会として、「有明海異変」の問題について原因究明のための調査研究を行ってきた。 本判決は、本件事業と「有明海異変」による漁業被害との因果関係を一部認めたうえで、日本弁護士連合会が求めてきた開門を命じるものであり、当連合会としても、高く評価する。
 その一方で、地元連合会として、すでに入植が始まった農業者への配慮も十分になされるべきであると考える。
 我が国の食糧自給率がカロリーベースでわずか40%ほどに過ぎず、今後、世界的な食料価格の高騰の影響を考慮すれば、漁業と農業が争うのではなく、本判決を契機に、漁業と農業が両立できるような政策が求められるというべきである。
 それはすなわち、判決も指摘する「唯一代替し得ない本件調整池による農業用水の確保」等について、早急に国が検討することにある。
 当連合会は、地元の連合会として、国が判決に従い、控訴を断念し、営農している農業者へ配慮し、代替水源の検討など、開門する準備にただちに着手することを求める。