(第33回総会・熊本)
1 市民から裁判利用の権利を奪うな

 市民を裁判から閉め出すものとして,弁護士報酬敗訴者負担制度導入に反対する運動と世論は大きく広がった。反対署名は110万を超えた。また,司法制度改革推進本部事務局が求めたパブリック・コメントほ5134通に達し,そのほとんどは制度導入反対意見であった。

2 突然持ち出された敗訴者負担「合意論」

 敗訴者負担に反対する運動と世論が広がる中で,司法制度改革推進本部アクセス検討会の議論は,導入反対の声を全く無視することができず,敗訴者負担について適用を除外すべき類型として,「行政訴訟」「労働訴訟」「消費者事件」「人事訴訟」「少額訴訟手続き」「交通事故などの人身被害」などが訴訟利用を萎賭させるものとしてあげ,「譲歩」せざるを得ない状況となった。ところが,突然この除外すべきであるとする「類型論」を白紙に戻せとする猛烈な巻き返しが浮上。その方策として突如登場させてきたのが,敗訴者負担「合意論」なるものであった。
 昨年10月30日の検討会では,「まずは,合意があれば敗訴者負担にできるという制度にしておいて,その利用状況を見て次のステップにすすむという方法がよいのではないか」という意見が出されたが,これに示されるように,この「合意論」は,これをよりどころに敗訴者負担の適用範囲を拡大することにつながりかねないものである。

3 合意による敗訴者負担に残る問題点

 「合意論」の問題点は,

 (1)消費者訴訟,労働訴訟,下請契約など社会的に弱い立場の契約者は,事実上強制されてしまう事前合意約款や労働契約・就業規則などによって,敗訴すれば相手方の弁護士報酬を支払わなければならなくなり,このことは,裁判萎縮につながることは明白である。
 (2)現在,公害裁判など,不法行為訴訟等においては,弁護士報酬を損害の一部として訴訟加害者に負担させている。「合意論」の導入は,弁護士報酬を相手に請求しないということにつながりかねず,現在行われている加害者補償の損害賠償責任を後退させる結果となりかねず,とくに公害裁判では重大である。
4 判決の積み上げが,裁判の人権保障機能および法制創造機能の充実へ

 公害・薬害・環境裁判,消費者裁判の多くは,一般市民が,国や大企業など途方もない大きな相手に対し,勝ち目のない不安をかかえながらも,止むに止まれぬ思いから裁判に立ち上がったのが実態である。そして,長期にわたる原告の努力と,献身的な弁護団・支援や国民世論に支えられ,多くの勝利判決を手にしてきたのである。こうした判決の積み重ねが,裁判の人権保障機能および法創造機能を充実させてきたのである。
 しかし,これに至る道のりは,筆舌につくすことのできない困難を伴うものであった。公害被害者は,「生きているうちに救済を」の願いもむなしく,ほぼ3分の1の原告は,勝利判決を手にすることなく,命を奪われていったのである。

5 利用しやすい裁判を求めて

 公害・薬害・環境裁判や消費者裁判など,いわゆる大型裁判について共通している最大の問題点は,
 一つほ,裁判所の姿勢に問題がある。すなわち,「行政に弱く,行政の顔色をうかがう」といった実態が濃厚であり,裁判が国民の期待と信頼から遊離した存在となっていること。
 二つは,国や大企業など被告側の資料隠しや,無用な論争・不必要な証人を立てるなどの,裁判引き延ばしと言える行為が行われてきたこと。
 司法改革にあたって国民の求める最大の課題は,「市民に身近で信頼される裁判制度」であり,現に存在するこういった障害を取り除くための対策こそ必要なのである。

6 いよいよ国会審議の場に

 弁護士報酬敗訴者負担問題は,「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」として3月2日に閣議決定され,国会に提出された。いよいよ敗訴者負担など司法改革問題は,改革推進本却から,通常国会の審議の場へと移ることとなった。
 私たちは,市民から裁判利用の権利を奪う弁護士報酬敗訴者負担制度の導入に反対し,身近で信頼される裁判制度の確立をめざし,広範な人々と連帯してたたかうことをここに誓うものである。
 以上,決議する。

2004年3月21日
第33回全国公害弁護団連絡会議総会