(第35回総会・大阪)
1 2005(平成17)年11月30日,東京高等裁判所は,新横田基地騒音公害訴訟について,米軍機による基地周辺住民の騒音被害を認め,国に対し総額約32億5000万円の損害賠償を命ずる判決を言い渡した。横田基地における米軍機の騒音は,1981年(昭和56年)7月の第1・2次訴訟地裁判決 以来,7度にわたってその違法性が認定され続けてきたことになり,横田基地が周辺住民に深刻な被害をもたらす欠陥空港であることが改めて確認されたものであるとともに,1993(平成5)年の最高裁判決以降も国防の名の下に違法な騒音が放置され,基地周辺住民に受忍を強いていることが,「法治国家のありようから見て異常の事態」であるとして,立法府の怠慢を含め国の無策が厳しく断罪されたものである。
2 この東京高裁判決は,周辺住民が横田基地における米軍機の騒音によって人間らしい平穏な生活を脅かされており,その被害は住民全員に共通するものであることを端的に認め,WECPNL値75の騒音被害地域の居住者をすべて救済の対象とした。しかも,国が繰り返し主張してきた危険への接近論については,過去2度にわたる確定判決を経てもなお騒音の違法状態が解消されないにもかかわらず,国民の生活環境を保全する責務を負う国が,被害地域に居住することについて何らの落ち度のない被害住民に対して,損害賠償義務の減免を主張すること自体不当であるとして,これを一切排斥した。加えて,わずか1年足らずとはいえ,口頭弁論終結日以降の損害賠償請求も認容する画期的な判断を示した。
3 もっとも,この東京高裁判決においても,基地周辺住民の悲願である米軍機の夜間早朝の飛行活動の差止めや,騒音削減に向けての国の外交交渉義務確認請求は認容されなかった。日々発生する騒音被害を放置する判決の結論は到底容認できないものであり,現在上告及び上告受理申立手続において争われているところである。しかしながら,そもそも損害賠償による救済について範囲,対象,期間のいずれも広範に認めたのは,騒音削減による違法状態の解消が国の義務であることを当然の前提としていることにほかならない。この国民に対する立法府及び行政府の義務は,被害住民への賠償によって免責されるものではなく,騒音削減による違法状態の解消を実現すること以外にあり得ないことは論を俟たない。
4 それに引き換え,現在国が強力に押し進めているのは,騒音コンター縮小による救済切り捨てであり,騒音被害の固定化と増大を招く,地元住民を無視した在日米軍再編,軍軍・軍民共用空港化である。基地機能強化・被害拡大を糊塗する地域振興策や補助金交付は,東京高裁判決が「異常の事態」と断じた無策ぶりを何ら改めるものではなく,密約を重ねる対米交渉の一方で,騒音状況の大きな変化が予想されるにもかかわらず騒音コンター縮小を強行するに至っては,国のとるべき態度としてあまりに卑劣との誹りを免れない。
5 よって私たちは,地元住民を無視した在日米軍再編,軍軍・軍民共用空港化に断固反対を表明するとともに,国に対し,東京高裁判決の趣旨に沿った次の施策を求める。
  • (1) 騒音削減及び被害救済に向けての具体的計画の立案・推進
  • (2) 基地機能変更に関する騒音被害地域の地元自治体及びその住民への事前の情報提供の徹底
  • (3) 国,騒音被害地域の地元自治体及びその住民を構成員とする騒音被害問題に関する協議会の設置

 以上,決議する。

2006(平成18)年3月18日
第35回全国公害弁護団連絡会議総会